Google Appsの企業利用を考える【第7回】
導入企業に聞くGoogle Appsのメリットと導入時の注意点
着々と増えているGoogle Apps導入企業。最終回ではユーザー企業に導入の経緯や効果、また導入時に困った点を聞いた。Google Apps導入検討の参考にしていただきたい。
これまでの連載で、Google Apps for Business(以下、Google Apps)のコンセプトや特徴、導入の際の留意点などについて解説するとともに、Google Appsの拡張製品について紹介してきた。最終回となる今回はGoogle Appsを実際に導入している事例を紹介したい。
Gmailの機能や性能、容量をGoogle Apps導入のきっかけに挙げる企業は多いが、やはりGmailだけの利用だけではGoogle Appsを使い倒しているとは言い難い。今回紹介する2社は、いずれもGmailの利用からスタートしながら、事業規模の拡大やメール周辺機能の集約といった流れを受けてGoogle Appsをグループウェアとして本格活用している。Google Appsが豊富な機能と高いコストパフォーマンスを持つことは十分に認識しつつも、やはり万能ではないことを理解し、拡張製品を組み合わせることでグループウェアとしてのパフォーマンスを最大化した事例といえるだろう(関連記事:Google Apps for Businessの「使いづらさ」を解決する手段)。
事業拡大に合わせてワークフローが必要に 三三
「名刺管理から企業の収益を最大化する」をコンセプトに、クラウド型名刺管理サービス「Link Knowledge(リンクナレッジ)」を提供するITベンチャー企業、三三(さんさん)。名刺管理の概念を変え、新市場の創造を目指す同社では「働き方に革新を起こす」という経営ビジョンを掲げており、このビジョンを自社で率先して推進する意味もあって、Google Appsが日本でサービス展開された当初から利用を開始している。当初はGmailの利用がメインだったが、事業規模の拡大に伴って社内の申請や決済をシステム化する必要が出てきた。そこで現在ではGoogle Apps拡張ワークフロー製品を組み合わせて利用している。
三三 取締役 人事・財務担当の角川素久氏は、Google Apps導入による自社のワークスタイルの変化を以下のように語る。
「大容量なGmailと強力な検索で、メールの容量を気にしなくなったことが大きいです。また、WebブラウザさえあればGmailやGoogleドキュメントにアクセスできるので、場所の制約を受けずにどこでも社員の好きな環境で仕事をすることができます」(角川氏)
また、同社は徳島県の古民家にサテライトオフィス「神山ラボ」を開設しているが、ラボに勤務している社員ともGoogle AppsとSkypeのおかげで、あたかもすぐそばに座っているかのような距離感でコミュニケーションやコラボレーションを実現できているという。
しかし、導入直後は課題がないわけではなかった。「それまで利用していたメールクライアントソフトに全従業員が慣れてしまっていたので、Webメールへの移行によるメニューやショートカットの覚え直し、各メールをフォルダ移動する使い方からラベル&検索への変更に戸惑う社員もいました」(角川氏)。そうした課題に対応するために、同社では旧メールクライアントソフトとの併用期間を半年間設けた。その間に導入後すぐにGmailを使いこなしていた社員が社内でTipsの共有や勉強会を開くことで、お互いの活用方法を学んだ。結果、全社員が徐々にGmailへと移行し、使いこなすようになったという。
Google Apps導入から3年がたち、社員数が2倍以上に増えたこともあり、これまでの紙やメールでの承認フローでは業務が回らない状況になってきていた。一部でGoogleドキュメントを使って試行的にフローを作ってはみたが、Googleには「承認」に類する機能がなく、現実的な運用には至らなかったという。そこで同社はGoogle Appsと連携するワークフロー製品の導入を検討し、幾つかの製品を比較。トレーニング不要ですぐに使える分かりやすさを重視して製品選定した。連携ワークフロー製品は正式利用を始めてから申請のひな型や経路を作成したが、2週間後の社内展開に十分間に合ったという。
フローの設計を担当した三三 経営管理部の後藤 奈桜子氏は、「これまで、他社製品などでワークフローのひな型を作成した経験はありませんが、それでも簡単に導入することができました。ベンダーのサポートのおかげもあり、導入設定は実質4、5日で済みました」と振り返る。
Google Apps連携ワークフローの導入により、購買申請などの申請ステータスが一目で分かるとともに、スマートフォンから承認が可能なため、承認スピードも早くなったという後藤氏。利用開始当初はテストデータを削除できなかったり、マニュアルが分かりづらかったりと課題もあったが、「クラウドサービスなのですぐに機能追加されますし、マニュアルのどこを見れば目的の設定ができるのかサポートからすぐに連絡をもらったりしたので、あまり苦労したという印象はありません」と後藤氏は語る。Google Apps拡張製品選定の際はマニュアルの分かりやすさ、サポート体制も十分考慮に入れるべきだろう。
リスク回避の手段としてのクラウド移行 証券ジャパン
対面による個人顧客の資産運用から、インターネット株取引、全国各地の金融商品取引業者(証券会社)の注文取り次ぎまで、幅広い金融サービスを提供する証券ジャパン。証券ジャパンはクラウドを「リスク回避の手段」として捉え、2009年に販売代理店からGoogle Appsを導入している。
「クラウド型のサービスを選択した目的は、メールの費用削減とデータ保全です。メールデータが各クライアントPCに入っている状況をリスクと捉え、このリスクを排除する必要があると考えました」と語るのは、証券ジャパン システム管理部 副部長の中谷 慶一郎氏だ。同社は一般的な個人情報に加えて、個人の資産情報を扱っている。PCの盗難、紛失などのインシデントが発生してからでは遅いと考え、メールシステムのクラウド移行を決断、まずはGmailの利用を開始した。
既存システムからのメールデータの移行は、システム管理部が移行を実施し、ユーザーが移行結果を確認するという手順で行った。少ない人数で二百数十人のメールを移行したため、移行には数カ月を要したという。一方、Google Appsへのドキュメントの移行は3週間程度で完了したという。「移行のタイミングでファイルの棚卸しを実施し、不要なファイルを減らす目的でした。システム管理部ではファイルの要不要を判断できないため、支店ごとに説明をして回って、必要なファイルだけを直接Googleサイトに添付ファイルという形でユーザーに移行してもらうというアプローチを取りました」(中谷氏)
Google Appsへの移行効果を「年間200数十万から300万円程度のコスト削減効果がありました」と語るのは、証券ジャパン 執行役員 業務本部長の照井 徹氏だ。照井氏はコスト削減以外にも、メールの容量アップ、iPadなどのスマートデバイスから情報にアクセスする下地を作るという効果を得られたと語る。「iPadはまだ試験運用の域を出ていませんが、こうした取り組みも機動的に行えるようになったことは大きいと考えています」(照井氏)
証券ジャパンは当初、Gmailの利用だけで、グループウェア機能は他社のASP型サービスを利用していた。だが、グループウェアの併用は非効率であると考えGoogle Appsへの一本化を決断した。しかし、Google Appsのカレンダーは組織利用というよりは個人利用に最適化されていると感じるとともに、社内名簿などの機能もなかったため、どうすれば移行できるか頭を悩ませたという。
「やはり組織で業務を行う企業では、組織の階層構造を設定・表示する社内名簿のような機能は重要です。Google Appsは組織という概念に対してあまり機能が多くない印象で、権限設定を組織にひも付ける機能が足りないと思います。やはりGoogleのコンセプトは『個人当人』と『それ以外』、という“ざっくり”した権限が主体なのだと感じました」(中谷氏)
また、同社の社員は年齢層も幅広く、ITリテラシーの高くない社員も少なからずいる。グループウェアは全社員で利用するため、既存グループウェアの使い勝手をできるだけ変更しないようにGoogle Appsを補完できる連携製品を探すことになる。連携製品は3~4製品を比較して、2011年3月に製品を決定、同6月に導入した。既存グループェアと3週間ほど同時利用しながら移行することで、カレンダーデータの移行作業は省くことができた。エンドユーザーから拒否反応や文句が出てこなかったという点が素晴らしいと中谷氏は語る。
「新システムの操作を研修で覚えてもらう努力は必要ですが、操作は変わらずに機能や性能が向上しているというのがありがたいです。システムの変更の際には必ず何かしら不満や問い合わせがあるものですが、今回はそういったことがありませんでした」(中谷氏)
一方、Googleサイトについては文書の移行は楽だったが、どこにどのような機能があるのか、どうすればやりたいことができるのか、操作が分かりづらいと感じたという。「階層のイメージが分かりづらく、個々の投稿を削除するつもりが誤ってページ全体を削除してしまったりと、もう少し改善を期待したいと思います」(中谷氏)。ある日突然添付ファイルのダウンロードの仕方が変わり「使いづらいな」と思ったら翌日元に戻っていた、といった例もあったという。
また、Googleドキュメントについては、「共同作業機能などの他社サービスにはない素晴らしい点も多いです、やはり日本語フォントや表現力など、Microsoft Office製品とは差があると思います」と中谷氏は語る。「Googleドキュメントで作成した文書をそのままお客さまに見せられるかというと、ちゅうちょしてしまうのが本音です」(中谷氏)。結果、現在でも文書作成にはMicrosoft Officeを使い続けているとのことだ。
進化し続けるGoogle Appsをぜひ使いこなしてほしい
本連載では全7回にわたってGoogle Appsの導入を考えている企業が気になる機能や特徴を、筆者の知識や経験だけでなく関係者への取材も交えながら解説してきた。忙しい中、取材に協力してくださった方々には、この場を借りてお礼を申し上げたい。
Google Appsを始めとするクラウド型サービスは、拡張製品も含めて日々進化している。本連載以降も新しい機能やサービスが続々と登場するだろう。Google Appsのようなスピードで進化するサービスを活用してビジネスを行うことは、今回紹介した事例で示した通りチャレンジも多いが得るものも大きい。本連載がGoogle Appsの理解を深め、活用判断の一助になれば幸いである。
飛鋪武史(ひしきたけし)
日本技芸 取締役 ビジネスサービス事業部長
青山学院大学理工学部卒業後、富士総合研究所(現みずほ情報総研)、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)、ガートナージャパンを経て、日本技芸に入社。製造業、通信業、金融業、官公庁などさまざまな業界で多数のITグランドデザイン、ITコスト削減、プロジェクトマネジメント、情報分析・可視化・指標化などのコンサルティングを手掛けるとともに、ワークプレースやコラボレーションに関する数々の調査プロジェクトの経験を持つ。それまでの経験を生かし、人がITを使いこなし、真の生産性向上を図るためのインタラクティブデザインにフォーカスした「rakumo」シリーズの事業責任者を務める。
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Google Appsの企業利用を考える
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