大規模DCの課題を解決するネットワーク最新技術【第3回】
【技術解説】仮想マシンを離れたデータセンターへ移動できる「DCI」
仮想マシンを稼働させたまま遠く離れたデータセンターへ移動できれば、災害対策や可用性確保に大いに役立つ。その実現をネットワークから支える「Data Center Interconnect(DCI)」を解説する。
ネットワークで接続されたデータセンター間で仮想マシン(VM)のライブマイグレーションを実行したり、アプリケーションのクラスタリングやデータの同期をしたいというニーズが高まっている。企業のBCP(事業継続計画)の取り組みや高い可用性の確保といった要件に応えるためだ。仮想化技術を使って複数のデータセンターにVMを配置し、ワークロード(アプリケーションの処理負荷)の分散や災害対策が実現できれば、データセンターはますます戦略的なITインフラになることは間違いない。
こうしたニーズを満たす手段として注目すべきなのが、データセンター間をレイヤー2で接続する「Data Center Interconnect(DCI)」である。データセンターをまたいだVMのライブマイグレーションを実現するには、マイグレーションの前後でVMのIPアドレスを維持する必要がある。このため、レイヤー2ネットワークをデータセンター間に延伸するDCIが不可欠になるというわけだ。本稿は、DCIの概要や要素技術、導入時に注目すべきポイントを解説する。
連載:大規模DCの課題を解決するネットワーク最新技術
第1回 【技術解説】ファブリックから仮想化対応まで、ネットワーク構築/運用技術5選
DCI(Data Center Interconnect)とは
現状でも、データセンター間の通信を日常的に発生させている企業は多い。ディザスタリカバリやバックアップを目的に複数のデータセンターを有している企業、データセンターのファシリティ容量の限界などで複数のデータセンターを所有している企業などが、その一例だ。ただし、こうした用途の場合、重要になるのはデータセンター間のネットワークの接続性や帯域、遅延であり、データセンター間で同じセグメントを共有する必要性はほとんどない。
DCI導入の一番のモチベーションになるのは、複数のデータセンター間をまたがった大規模な仮想環境の構築だ。DCIによって複数のデータセンターをあたかも1つのデータセンターのように設計できれば、VMのデータセンター間の移動やアプリケーション間通信が容易になるなど、レイヤー2ネットワークのメリットを享受できる。
従来のデータセンター間接続技術の課題
単純にデータセンター間をレイヤー2で接続したい場合、広域イーサネットなどのレイヤー2サービスと、パケットのヘッダにVLAN番号(VLAN ID)をタグとして付与する「VLANタギング」を用いれば、複数のデータセンターにVLANを延伸することはできる。だがこうした方法には、以下のような課題がある(VLANの課題については「『VXLAN』入門──VLANを拡張する新標準とその必要性」も参照)。
従来技術の課題1:ネットワーク障害が複数のデータセンターに波及
VLANを延伸するということは、ブロードキャストドメイン(イーサネットのブロードキャストフレームが届く範囲)を延伸するということだ。あるデータセンターでブロードキャストストーム(ブロードキャストフレームがLANの帯域を使い切り、ネットワークがダウンする現象)などのネットワーク障害が発生した場合、他のデータセンターにもその障害の影響が及んでしまう(ブロードキャストドメインについては「仮想ネットワークを拡張するVRF技術」も参照)。
従来技術の課題2:ループの発生
広域イーサネットの回線を冗長化した場合、データセンターをまたがった大きなレイヤー2ループが発生してしまう場合がある。ループを防ぐために回線の一方をブロッキング(閉塞)すると、回線をフル活用できない状況に陥ってしまう(ループ回避の手段については「【技術解説】ネットワークの設計や拡張を容易にする『ファブリック』」も参照)。
データセンター間接続の課題を解決する「DCI」
上記の課題を解決する手段として注目すべきなのが、DCIだ。DCIを実現する要素技術は、「既存技術の組み合わせ」「DCI専用の全く新しい技術」に大別できる。
DCI実現技術1:「VPLS」などの既存技術の組み合わせ
既存技術の組み合わせの代表格として、「VPLS(Virtual Private LAN Service)」が挙げられる。VPLSは当初、通信キャリアがMPLSネットワークを用いてレイヤー2のVPNサービスを提供するための技術だった。VPLSは現在、DCIを実現する技術としても近年注目されており、複数のネットワークベンダーがDCIを実現するための推奨技術と位置付けている。
ただし、VPLSの利用には、データセンター間にMPLS網が必要である。また、MPLSの技術的な専門知識の習得も難しい。こうした要素が合わさり、一般企業にとってVPLS導入のハードルは高いのが現状だ。GRE(Generic Routing Encapsulation)などのトンネルを用いて、MPLS網を用意せずにVPLSを構築する方法も存在するが、一般的ではない。
DCI実現技術2:「OTV」などのDCI専用技術
そこで、ネットワークベンダーは、既述のVLAN延伸のリスクを解決しつつ容易に導入できるDCI専用の全く新しい技術をリリースし始めている。現時点での代表格は、シスコシステムズのスイッチ「Cisco Nexus 7000シリーズ」が備える「Cisco Overlay Transport Virtualization(OTV)」という技術だ(図1)。
OTVには、以下の特徴がある。
- データセンター間の回線が広域イーサネット(レイヤー2サービス)であってもIP網(レイヤー3サービス)であっても、フレームのカプセル化によってVLANを延伸できる
- STPドメイン(スパニングツリーを構成するスイッチのグループ)を各拠点で分断し、障害波及範囲を拠点内に限定できる
- 回線の冗長化と負荷分散をシンプルに実現できる
こうした技術の登場により、DCIを安全、容易に実現できるようになった。また、こうしたDCI関連技術の他にも、オーバーレイ型のOpenFlow技術を用いてレイヤー3ネットワーク環境でもライブマイグレーションを可能にするアプローチもある(オーバーレイ型のOpenFlow技術については「OpenFlowを対応機器なしで導入できる『オーバーレイ』」を参照)。
DCIで実現できること
DCIは、さまざまな技術と組み合わせて活用することにより、これまで実現できなかった先進的なデータセンターを構築することができる。その一例を以下に示す(図2)。
- トラフィック分散の最適化:ユーザーからのアクセスをアプリケーションが稼働している最適なデータセンターに誘導できる
- L2セグメントの延伸:データセンター間でVLANを延伸することでデータセンターを越えたVMのライブマイグレーションやリソースの柔軟な融通が可能になる
- ストレージの同期・仮想化:データセンター間のストレージ仮想化技術を活用することで、仮想環境の利便性が高められる
例えば、DCIに加えて、ヴイエムウェアのサーバ仮想化製品「VMware vSphere」やEMCジャパンのストレージ仮想化製品「EMC VPLEX Metro」を組み合わせて導入することで、上記のような先進的なデータセンターを構築できる。仮想化されたサーバやストレージを利用する際、それらがデータセンター間にまたがって存在しているかどうかを意識することなく利用可能な環境が、現実のものとなりつつあるのである。
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DCI導入時に考慮すべきポイント
メリットが多いDCIだが、現状のDCIには技術的な課題があり、導入は容易ではない。DCIを利用したデータセンター間のライブマイグレーションなどを実現するために、考慮しておくべき代表的なポイントを解説する。
考慮点1:広帯域・低遅延のWAN回線が必要
データセンター間でのライブマイグレーションを実現するには、利用するWAN回線の遅延は可能な限り抑える必要がある。ヴイエムウェアのライブマイグレーション技術「VMware vMotion」の場合、サーバ間のネットワーク遅延として、5ミリ秒から10ミリ秒以内(諸条件あり)のラウンドトリップ時間(RTT:送信した通信パケットが再び送信元へ戻るまでに要する時間)がサポート条件だ。
ライブマイグレーションが頻繁に発生したり、ライブマイグレーションをするVMが大きなメモリ領域を持っている場合は、回線帯域の確保も必要になる。また、データセンター間のストレージをファイバーチャネル(FC)で接続したい場合などは、広帯域・低遅延な回線要件を満たすためにダークファイバー(通信事業者が貸し出す、敷設済みだが未使用の光ファイバー設備)とWDM(波長分割多重。1つの光ファイバーに異なる波長を持つ複数の光信号を多重化する技術)の選定が視野に入ることもある。
こうした環境の準備は、多くの企業にとってハードルが高い。そのため、メンテナンス時間を確保していったんVMを停止し、オフライン状態でホスト間を移動させる「コールドマイグレーション」を実行する方が現実的な場合もある。この場合、少なくとも遅延については検討する必要がなくなる。
考慮点2:マイグレーション先にも同一のデフォルトゲートウェイが必要
ライブマイグレーションの実行後もVMのネットワーク設定は不変のため、VMのIPアドレスやデフォルトゲートウェイ(他のネットワークと接続する境界に設置されたルータ)は、マイグレーション前後で同じになる。デフォルトゲートウェイがマイグレーション前のデータセンターネットワークにある場合、VMをマイグレーションしたにもかかわらず、トラフィックはマイグレーション前のデータセンターを経由する形となる。その結果、データセンター間のトラフィックが多くなり、通信品質が著しく低下してしまう。
このため、マイグレーション先のデータセンターネットワークでも、マイグレーション元と同じデフォルトゲートウェイが必要になる。ただし、1つのVLANに同じIPアドレスのデフォルトゲートウェイを設置しただけでは、IPアドレスとMACアドレスの重複エラーが発生してしまう。こうした重複が発生しないような設計を忘れずにしておく必要がある。
考慮点3:VMが存在するデータセンターへのトラフィック誘導
複数のデータセンターでVLANを共有する場合、ユーザーの端末からそのVLANへのトラフィックはいずれかのデータセンターへ向かう。ただし、接続先のVMへ最短経路でたどり着けるようなトラフィック最適化の仕組みはない。そのため、VMをデータセンター間でライブマイグレーションした場合、ユーザーとサーバ間の通信が遠回りをしたり、行き帰りで非対称な経路を通ったりすることになる(図3)。
そこで、VMが存在するデータセンターへトラフィックを誘導するために、各データセンターの利用状況をリアルタイムに監視してトラフィックを制御する「グローバルサーバロードバランシング(GSLB)」を利用することがある。GSLBはDNSベースの手法なので、アプリケーションがDNSに問い合わせることが前提となる。また、ユーザーがVMのIPアドレスへ直接通信をしてしまうと効果がない。
VMのIPアドレスをホストルート(特定のホストを宛先に指定したルート)としてルータへ登録する「ルートヘルスインジェクション(RHI)」などで対応することも可能である。RHIは、ルーティングテーブルのサイズやルート情報の更新頻度の増大を招くため、それに伴う処理負荷の増加にルータが耐えられるかどうかを見極めてから導入する必要がある。
また、ベンダー独自の技術になるが、シスコシステムズのCisco Nexus 7000シリーズは、端末IDと接続位置(ロケータ)を分離する「Locator/ID Separation Protocol(LISP)」によるVMモビリティ(ライブマイグレーションなどによるVMの移動)対応機能を備える。LISPが実現するVMモビリティ対応機能には、以下の特長がある。
- VMの移動に対して、最適かつ最短なパス(ネットワーク経路)利用の保証
- 全てのIPv4、IPv6の組み合わせに対応
- IPベース技術により、アプリケーションに対して高い親和性を提供
LISPの利用は、データセンター以外のルータも一部LISPに対応する必要があるなど若干のハードルがある。ただし、VMの移動に追従できるネットワークの構築が可能になるなど、非常に魅力的なのは間違いない。普及時期はかなり先となるだろうが、最も注目すべき技術の1つである。
考慮点4:ファイアウォール間でのセッションテーブルの同期
ファイアウォールやロードバランサが導入されている環境においては、VMが別のデータセンターにライブマイグレーションした際のセッションテーブル(セッションに利用したパケットのヘッダ情報を集約したテーブル)の維持も課題になる。VM向けのトラフィックを最適なデータセンターへ誘導できたとしても、ファイアウォール間でセッションテーブルが同期できていない場合、ファイアウォールはパケットをドロップ(破棄)することになる。
ファイアウォールやロードバランサをDCI経由で同期させて、アクティブ・アクティブ構成で動作させればよいのではないか、と考える人もいるだろう。だが製品によっては、アクティブ・アクティブモードで動作していても、実はセッション単位でマスターとなる筐体が決まっている。仮にマスターでない筐体が通信を受け取ると、マスター側に受け渡す仕組みになっていることもある。このため、DCIにおけるファイアウォールや負荷分散の課題は、明確な解決策がないのが現状だ。
このように、DCIをデータセンターに適用する際に検討すべき課題はまだ多い。ただし、複数のデータセンターをまたがった仮想環境の構築を進める企業にとって、魅力のある技術であることは間違いないだろう。
著者紹介
大高智也(おおたか ともや) ネットワンシステムズ株式会社
1997年から約10年間、国内大手金融業や製造業などのデータセンターネットワークや企業ネットワーク全体(LAN/WAN)の構築において、最先端技術の安定導入を実現しながらプロジェクトを遂行してきた。現在はネットワンシステムズでマルチベンダーのデータセンターネットワーク製品の技術サポートを行っている。2005年、Cisco CCIE Routing and Switching取得。
中前 航(なかまえ わたる) ネットワンシステムズ株式会社
2005年から、企業ネットワークにおける先進技術導入の提案や構築に関わる。テクニカルプレセールスとして、多くの企業の現状や課題を見てきた。現在はネットワンシステムズでDCネットワーク製品/技術の比較検討と提案を担当。2009年、Cisco CCIE Routing and Switching取得。
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