パブリッククラウドのIaaS選び、10のチェックリスト【前編】
バックアップやビッグデータ要件で比べる、主要IaaSの選び方
多数あるパブリッククラウドのIaaSの中から最適なサービスを選ぶには? 前編では、バックアップやビッグデータなど、話題の機能で主要IaaSを比較する。
クラウドサービスも百花斉放の感があり、さまざまなサービスが乱立している。連載「企業向けシステムを構築するパブリッククラウド」では、企業の業務システムで利用する観点で主にパブリッククラウドのIaaS(Infrastructure as a Service)を取り上げてきたが、おかげさまで筆者のところには各方面から「どのIaaSが良いのか」とご相談いただくことが多い。「どれ」といっても即座に正解があるわけではなく、当然のことながら用途や目的、新規開発か現行システムの移行か、あるいは順守すべき社内ルールなどによって結論は異なってくる。今回はそのような「IaaSを選ぶ際の観点」を考えてみたい。
観点といっても無数にあるが、網羅的に取り扱うことは当然困難なので、ここでは筆者の経験上、よく話題になる観点を挙げてみたい。例によって前編/後編の2回に分けてお届けする。構成は下記をご覧いただきたい。
| 前編 | 利用開始の平易さ |
|---|---|
| リソースの拡張性 | |
| ビッグデータ、大量データ | |
| プライベートクラウド構築 | |
| バックアップ用途 | |
| 後編 | ロケーション |
| 移行の平易さ | |
| セキュリティ | |
| 機器の持ち込み | |
| 事例 |
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| チェックリスト | AWS | Windows Azure | Cloudn | ニフティ クラウド |
BIGLOBE | Google Cloud |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 利用開始の平易さ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
| リソースの拡張性 | ◎ | ○ | ○ | ○ | ○ | ☆ |
| ビッグデータ、大量データ | ○ | ○ | ☆ | |||
| プライベートクラウド構築 | ◎ | ○ | ○ | ○ | ○ | |
| バックアップ用途 | ◎ | ○ |
注:使いやすさや機能の豊富さ、問い合わせや事例の多さなどを念頭に筆者の主観で概観した。詳細は本文を参照
表記は次の通り。◎:特に優れている、○:優れている、☆:限られた用途で非常に高いパフォーマンスを発揮する
利用開始の平易さ
利用開始時のリードタイムに関するものである。「さて、使うぞ」と決心をしてから、実際に使えるようになるまでの間の時間だ。クレジットカード利用が前提で数分で利用可能になるものもあれば、クラウド事業者の担当営業にコンタクトし、注文書などを取り交わしてから、数営業日から十数営業日を経て環境が用意されるというものまで、バリエーションがある。
「使い始め」の裏返しとして「使い終わり」の平易さも考えたい。利用単位が月単位から年単位となるサービスがある(利用停止には事前申請が必要だろう)。一方で、何の通告もなく、ユーザーの一存で、全てのインスタンス、全てのファイル、全てのサービスを削除し、その瞬間から課金されなくなるものもある。
企業システムでの利用ということで、何年も使うことが前提のシステムのインフラであり、「利用開始」が数分だろうが数日だろうが、撤退に数日かかろうが一瞬だろうが、大きな差はないという考え方はあるだろう。利用する環境が1つ(1アカウント)で十分と予想される場合は、確かにその通りだ。しかし、クラウドは事前の計画を超えた使い方に醍醐味がある。利用中の環境に影響を与えないために、全く別のアカウントを用意することも珍しくない。開発や検証など短期の利用もあるだろうし、逆に利用し始めてから比較的早い段階で解約が必要となる可能性もある。このようなフレキシビリティは、従来のインフラ調達の発想には全くなかったものであり、慣れていない方も多いのが実情だ。
利用開始がスムースなサービスの代表格として、「Amazon Web Services」(AWS)、「Bizホスティング Cloudn」(Cloudn)がある。
リソースの拡張性
前項とよく似ているが全く別の概念なので注意していただきたい。利用開始時点ではなく、利用開始後に、仮想サーバなどのリソースの追加がオンデマンドで可能か否かを考える。「リソースの追加が必要だ」と判断してから、実際に追加リソースが使えるようになるまでの時間だ。数分のものもあれば、クラウド事業者に依頼をして数日で追加されるサービスもある。「オンデマンドだが契約時に事前に予約が必要」というものもあるので要注意だ。
前項で述べた利用開始がオンデマンドなサービスは、リソースの追加利用もオンデマンドである。利用開始に時間を要するサービスは、リソースの追加にも時間を要するケースが多いようだ。例外的に、「ニフティクラウド」などは、利用開始には数日を要するが、リソースの追加はリアルタイムで可能なようである。
「リソース追加が必要だ」という判断を自動化できる機能(サービス)は一般的に「オートスケール」と呼ばれる。AWS、Cloudn、ニフティクラウド、「BIGLOBEクラウドホスティング」などが標準的に機能を用意している。仮想インスタンスのCPU負荷状況などをモニタリングし、一定の閾値を一定時間上回った場合に、スケールアウト(リソースの追加)が行われる。逆もまた同様である。
ただし、仮想インスタンスの起動には数分程度要するので、急激なバーストのピークに瞬間的に対応できるわけではないので注意が必要だ。例えばキャンペーン用のWebサイトにおいて、テレビにスポットCMが出た直後のピーク対応などについては、過信しない方がいい。このような場合は、事前に人間の判断で一定数のリソースを確保しておく方が無難だ。なお、「Google App Engine」(GAE)を使うと、その瞬間的なバーストも吸収できるといわれている。一説によるとアクセス集中の際にはミリセカンド単位でリソースの追加/分散処理が行われ、負荷が減れば、自動的にリソースが解放されるようだ。その代わり課金の予測が困難という側面がある。
ビッグデータ、大量データ
「ビッグデータ」はすっかり人口に膾炙(かいしゃ)する流行語となった。大規模なデータを処理する基盤として、「今さら大量のサーバを購入するのは現実的でない」という意見は多く、クラウドの利用が進んでいる。ビッグデータがクラウドを求めたのか、クラウドがビッグデータを可能にしたのか、いずれにせよ両者は非常に相性のいいテクニカルタームとなっている。
大量データを処理する基盤としては、Hadoopをサービス化したものや、超大規模サイズのDBMSを提供するもの、容量無制限のデータストア(多くはNoSQL)などがある。
Hadoop系では、「Amazon Elastic Map Reduce」が代表格である。この他にも、「IBM SmarterCloud」がマシンイメージを用意している。「Windows Azure」もβ版サービスをリリースしているようだ。
超大規模DBMSは、「Amazon RedShift」が有名である。最近、日本にも上陸し、エンタープライズ用途で従来型のDWHに代わるものとして注目を集めている。さまざまなBI(ビジネスインテリジェンス)ツールが対応を表明しはじめており、今後、面白い使い方がされるものと期待できる。
NoSQLでは、「Amazon DynamoDB」「Google Cloud DataStore」が挙げられよう。業務システムでどこまで利用されるようになるか未知数ではある。
上記のいずれのカテゴリーにも属さず、独自路線を歩む「Google BigQuery」のようなサービスもある。以前の記事(企業システムの発想を刺激する、Googleクラウドの構成要素)でも解説したが、CSVないしJSON形式で記述された大量データに対してSQL文を投げて結果を得ることが可能だ。クエリを投げた瞬間に必要な規模のCPUリソースが調達され、結果が出れば同リソースが開放される。「全件総なめ」クエリでも、データサイズによらず(1万件でも1億件でも)、レスポンスタイムがほとんど変わらないのが特徴だ。
プライベートクラウド構築
パブリッククラウドをプライベートに使うという観点からは、アイソレーションの機能が重要である。「Amazon VPC」が代表格だ。ニフティクラウドやBIGLOBEクラウドホスティング、Windows Azureは同様のサービスを提供している。特徴としては、パブリッククラウド上に仮想LANを設け、他からのアクセスを排斥した上で、同LAN上に自社のセグメントの一部を切り出し、仮想サーバにはプライベートIPアドレスを付与することができる。また同仮想LANと、オンプレミス側のLAN/WANの間を、インターネットVPN接続することで、パブリッククラウド上のリソースを、あたかも自社のLAN/WANの延伸であるかのように使える。
この時、保持できる仮想LANの個数(上限)と、インターネットVPN経由で接続できる拠点の数(上限)は確認が必要だ。スペック上は制限があっても、申請などによって増やすことも可能な場合があるのでよく見極めたい。
仮想LANとの間の接続がインターネットVPNでは不十分だという場合もあるだろう。社内ルールの制約からインターネットVPNが使えない場合や、オンプレミス/パブリッククラウド間のトラフィックが大きく、帯域保証が必要な場合もある。IP-VPNや専用線接続のオプションの有無について確認しておく必要がある。
バックアップ用途
クラウドと相性のよい言葉に、DR(災害復旧)、バックアップなども挙げられる。オンプレミスのサーバ群のバックアップ先として、クラウドをインターネット越しに使えるオンラインストレージ装置として使うことはイメージがしやすい。一種の遠隔保管と考えることができ、実際に需要も多い。
パブリッククラウドのオブジェクトストレージは、安価であり可用性も高い。容量制限もなく、技術的にシンプルで使いやすく、筆者もお気に入りのサービスの1つだ。代表格は「Amazon Simple Storage Service」(Amazon S3)、「Windows Azure ストレージ」「Google Cloud Storage」などである。いずれも1Gバイト当たり月額10円程度で利用でき、利用料が増えるほど1Gバイト当たりの単価が下がるプライシングとなっている。
オブジェクトストレージと比べて、一段突き抜けた感のあるサービスも紹介しておこう。「Amazon Glacier」という1Gバイト当たり月額1円程度という超低価格サービスだ。前述のAmazon S3とよく似ているが、Amazon S3に置いたファイルのさらなる長期保管用途に向いている。テープ保管をイメージすると分かりやすい。ファイル名は自動付与され、データの読み出し準備には数時間かかる。どうやら読み書きする以外の時間は、ストレージ装置に通電しないことでコストを下げているらしい。ユーザーの手元には、しばしば数年以上前のアクセスログやトランザクション情報など「ほぼ確実に参照しないが、長期の保管義務を伴う」データがある。Amazon Glacierはこの種のデータの保存に適しているといえる。ドル箱サービスであるAmazon S3と社内競合してしまいそうな気がするが、こういうサービスを平然と繰り出してくるところがいかにもAWSらしい。Amazon Glacierはデータセンター事業者(その多くがAWSを競合とみなしていたはずだ)がバックアップデータの保管先として検討をしているようだ。
オンプレミスのストレージ装置のバックアップをクラウド上に平易に保持するための「仕掛け」にも着目したい。例えば、オンプレミスのファイルサーバにソフトェアを仕込むタイプのものがある。特定のフォルダ内のファイルは随時パブリッククラウド上のストレージにインターネット経由でコピーされる。同様の機能をストレージ装置自体が有しているものもある。いずれの場合も専用の設定画面で、クラウド側のアカウント情報などを登録していけば平易に利用できる。これらのものの多くがAmazon S3とWindows Azure ストレージに対応している。「ハイブリッドクラウド」(オンプレミスとパブリッククラウドを融合させ、いいとこ取りをする)の入門コースと考えると良いだろう。
後編「セキュリティや移行性など、課題で比べる主要IaaSの選び方」では、本稿の冒頭で列挙した観点の後半5つをご紹介する。
加藤 章(かとう あきら)
株式会社 ISIDビジネスコンサルティング クラウドストラテジスト
システム開発のPMやビジネスコンサルティング、事業企画などを経て、現在は戦略ITコンサルティングに従事。パブリッククラウド活用に軸足を置き、各種調査、ビジネス開発、情報発信なども積極的に行っている。TechTargetジャパンでは2010年6月から連載「企業向けシステムを構築するパブリッククラウド」を執筆中。
*これまでの連載(企業向けシステムを構築するパブリッククラウド)が書籍になりました。情報のアップデートに加え、コラムなども大幅加筆しています。
『企業システムのためのパブリッククラウド入門 ~主要ベンダ11社を徹底紹介~』
電子版1500円、ペーパーバック(プリント・オン・デマンド)2310円です。
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パブリッククラウドのIaaS選び、10のチェックリスト
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