足りないビジネスアプリケーション
「iPad Pro」がMacとWindows PCを駆逐? 「それは無理」と断言される理由とは(1/2 ページ)
「iPad Pro」はMacとPCを代替する実力を備えているようにもみえる。Apple CEOのクック氏も「iPad Proは両者をリプレースするだろう」というが、多くのPC業界関係者は「正直言ってそれは無理」と考えているようだ。
「iPad Pro」に多くの企業が注目している。だが、多くのPC業界関係者は、米Apple CEOのティム・クックが語った「大画面を備えたこの新デバイスはMacとPCをリプレースするだろう」という意見に同意していないようだ。ビジネスアプリがそろっていないというのがその理由だ。
12.9型ディスプレイを搭載し、新しいスタイラスの「Apple Pencil」および着脱式の「Smart Keyboard」を備えたiPad Proの登場で、ユーザーが「MacBook」や「Windows」搭載PCを捨ててiPad Proを置き換える世界を想像しているクック氏は、「もはやMacとPCを使用する必然性はなくなった」と述べたと報じられている(参考記事:Apple ティム・クックCEOが語ったビジネス向けモバイルの“衝撃”)。
「iPad Proは、(デスクトップ)PCとノートPCのリプレースを狙った製品だ。この最新デバイスを使う多くのユーザーは、iPad Proとスマートフォンさえあれば他に何も必要ないことが分かるだろう。大画面を搭載したスマートフォンによってiPad miniなどの小型ディスプレイを搭載するタブレットの需要が減少した。iPad Proもこれと同じ効果をもたらすだろう」(クック氏)
一方、PC業界関係者は、大画面ディスプレイとキーボードを備えたとはいえ、iPad ProがMacやPCを駆逐することはないとみている。
Apple製品リセラーである米TSP創業者でCTOのマイケル・オー氏は、「iPad ProがPCを絶滅させるには、PCを取り巻く状況が一変して、1000ドルのiPad Proを買ってPCとおさらばしたいとユーザーに言わせるだけの理由を提供しなければならない。だが現時点では、iPad Proにそれだけの魅力があるとは思えない」と話す。
iPad本体の実売価格は799ドルからだが、これは169ドルのSmart Keyboardと99ドルのApple Pencilを含まない。
オー氏によると、今のiPad Proに欠落しているのは、プロフェッショナル向けソフトウェアの大手メーカー、例えば米Adobeなどが提供する専用のビジネス向けアプリだ。また、iPad Pro専用の(あるいは同端末の機能を活用した)ポピュラーなハイエンドソフトウェアプラットフォームがあれば、プロフェッショナルへの訴求力が大いに高まるという。
Appleが提携を結んでいる米IBMは「iOS」用アプリを開発中だ。だが、IBMが最も新しいiOS用のアプリ群をリリースしたのは2015年3月で、iPad Proの機能を利用したアプリはまだリリースしていない。
「製品の名前に付いているProが当てはまるのは、それにふさわしいアプリが存在する場合だけだ」とオー氏は語る。「評価の高い新しいスタイラスと大きくなった画面によって、現在出回っているアプリがそうした水準に達するとは思えない。iPad Proの機能を活用し、より多くのビジネスユーザーに訴求する画期的なビジネスアプリはまだ存在しない。こうしたアプリが数カ月中に登場しなければ、iPad Proの売れ行きが伸びないだろう」(オー氏)
iPad Proの「Retinaディスプレイ」は、iPadシリーズで最高の解像度を持つ。デバイス本体の大型化に伴い、バッテリー持続時間が伸びた他、新しいプロセッサ「A9X」の搭載でデバイスの処理能力も強化した。また、iPad Pro向けに設計した「iOS 9」は、改良したマルチタスク機能によって大型ディスプレイの利点を生かせるようになった。この機能では、ユーザーは画面を分割して複数のアプリを同時に実行できる。「Microsoft Office」のiOS 9バージョンのようなサードパーティー製アプリでも同時実行は可能だ。
「ディスプレイの大型化に伴い画面の表示スペースが増えたことで、iPadのエコシステムが大きな進化を遂げる可能性がある」と話すのは、米IT調査会社Moor Insights and Strategy 社長兼主席アナリストのパトリック・ムアヘッド氏だ。「クック氏は、(自分でも)予想もしなかったようなアプリが出現してiPad Proが大成功するのを期待している。なぜなら、iPhoneとiPadではそれが起きたことを同氏は経験しているからだ」
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そんなムアヘッド氏でも、「iPad ProがPCとMacをリプレースするだろう」という発言がクック氏の口から出たのは意外だったという。それはAppleが目指すべきことではないからだ。「Appleが創出したのは、ハードウェア製品の新しい分野だ」と同氏は“意外と思った”理由を話す。
近年、PCの販売が減少しているが、Appleは他の大手PCベンダーと比べるとずいぶん健闘している。2015年10月末の決算報告でAppleは、2015年9月期(7~9月期)の「iMac」とMacBookの販売台数が前年同期比で3%増の570万台だったと発表した。米調査会社IDCによると、同四半期にPC市場の規模は全体で11%縮小している。
「戦略的に見れば、PCとMacを合わせた市場を狙うのが断然有利だ」とムアヘッド氏は話す。
iPadがPCをリプレースするというクック氏の発言は必ずしも新しいものではない。同氏の前任者である故スティーブ・ジョブズ氏も同じ考えを表明したことがある。同氏は2010年に「PCはいずれトラックのような存在になるだろう。トラックを運転する人もいるが、ほとんどの人は車を運転する」と語った。
「これは、PCやMacよりもiPhoneを身近に感じて育ったミレニアル世代(1970年代後半、または、1980年以降に生まれた世代)に狙いを定めて長期的な視野に立った発言だ」とムアヘッド氏は指摘する。「伝統的なIT分野では、こうした議論が起きることはない。仕事をするにはPCかMacが必要だからだ」
iPadは最初のモデルが2010年4月に登場して以来、市場で最も人気のあるタブレット端末で、IDCによると、現在も20%以上のシェアを確保している。だが、iPadの売り上げは5四半期連続で減少している。これは市場全体の縮小傾向を反映したものだ。
iPadのスリム化、高速化、多機能化を実現した数々の先進技術に加え、長いバッテリー駆動時間や「Touch ID」などの新機能を提供したにもかかわらず、AppleはiPadの売り上げを回復できないでいる。
米VDC Research Group 上席モビリティアナリストのエリック・クライン氏は「販売が急増するとは思えないが、iPad Proは魅力的なデバイスだ。だが、従来モデル、例えば、2012年に登場したiPadも十分に優れている」と話す。
クライン氏は、MacユーザーがiPad ProをMacの代替品と考えることはあり得ないという。「Appleの支持者たちはMacを愛している」と同氏は語る。「私はMacユーザーの代弁者ではないが、大多数のユーザーはiPadを補助的デバイスと見なすのではないかと思う」(クライン氏)
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