ここまで使えたタブレット/スマートフォン
ノートPCが出張かばんから消える日
長く続けてきた働き方が、本当に最適なのかどうかは分からない。時代が変われば前提も変わる。モバイル端末が多様化する中、今後も仕事にノートPCを使う必然性はあるのだろうか?
フランシス・ポエタ氏は、かつてはノートPCに頼っていた。だが今ではノートPCを持ち歩くことはない。
移行は緩やかだった。しばらくは、ノートPCと台湾ASUSTeK Computer製タブレット「ASUS Eee Pad Transformer」の両方を持って顧客の現場に向かっていた。だが徐々にAndroidタブレットを使う機会が増え、ノートPCはあまり使わなくなっていった。そして、ついにあるとき、ポエタ氏はノートPCが入ったバッグを1週間開かなかったことに気が付いた。
「1週間ノートPCを取り出す必要がなかったのなら、どのくらいの間ノートPCなしで済ませられるだろうか、と考えた」とポエタ氏は語る。
それが、2011年のことだった。
企業ユーザーの間でモバイル端末とクラウドサービスの利用が進む中、エンドポイントではWindowsとx86ベース環境の独占状態が徐々に崩れつつある。エンドポイントほどではないが、データセンターにおいても同様だ。ITの世界にこれほど大きな変革が起きるのは、1990年代の初頭以来だ。
「米Microsoftは、創立当初『われわれは米IBMとは競争できない。われわれは全く新しい市場を作り出す。ターミナル(メインフレームに接続する端末)をコンピュータに変え、それをパーソナルなものにする』と語っていた。それは、米AppleがiPhoneでしたことだ」と米ITソリューションプロバイダーP&M Computersの社長兼CEOを務めるポエタ氏は語る。
Windowsマシンは、一夜にしてターミナルに取って代わったわけではないし、x86サーバはメインフレームを全滅させてはいない。今日の変化も、この先例に倣うことになりそうだ。
今後スマートフォンとタブレット端末は、デスクトップPCやノートPCと共存し、インフラには社内サーバとホステッドサービスが混在するだろう。とはいえ、モバイル端末の流入に伴い派生する問題は、広範囲に及ぶものとなるはずだ。
「働き方は他にもある」
2007年にiPhoneがリリースされたのを機にスマートフォンブームが始まり、企業ユーザーのモバイル化の流れが進んでいる。米調査会社IDCによれば、2012年の世界のスマートフォン出荷台数は7億1260万台と、2011年より44%増加している。
だがクライアントPCにとって本当に脅威なのは、スマートフォンよりも大画面のタブレット端末の存在だ。タブレット端末市場は、スマートフォン市場よりも急速に拡大している。2012年第4四半期(10~12月期)には、タブレット端末の世界出荷台数が前年同期比75%増の5250万台に達し、過去最高を記録した。2012年のクライアントPC市場の成長は横ばいにとどまっている。
こうしたモバイル端末のおかげで、企業ユーザーは仕事の効率化を実現できているという。ポエタ氏もモバイルへ移行する前は、顧客の現場で紙とペンでメモを取っていた。「どの顧客と、いつ、何をすることになっているか、いちいち思い返す必要があった。最初の契約の概略は、飲食店のナプキンにメモした」と同氏は語る。
今では、「Evernote」や「Penultimate」といったメモ作成アプリケーションを使っているとポエタ氏は言う。メモや写真など各種のファイルを整理し、複数の端末で同期するアプリだ。
従業員のモバイル化は、ユーザーに新たな力も与える。米ケーブルテレビ事業者のCablevision Systemsは2012年5月、外回りの従業員を対象にiPadのパイロットプログラムをスタートした。対象となる従業員の多くは、それまで仕事ではコンピュータを持っていなかった。同社はモバイルデバイス管理(MDM)ソフトウェアを導入する一方、従業員にはアプリを自身でインストールする自由を与えることにした。保守的なWindows管理者がなかなか下せない、思い切った判断だ。
パイロットプログラムに参加した従業員の1人は、米Googleの「Google Translate」を使えば、英語を話せない顧客とコミュニケーションが図れることに気付いた。Cablevisionは以前であれば、顧客とのスケジュールを再調整して通訳を送る必要があった。「Google Translateのおかげで言葉の問題が軽減でき、生産性の向上につながった」。プロジェクトでCablevisionに協力した、米Apple認定ソリューションプロバイダーTekserveの最高技術責任者(CTO)を務めるアーロン・フライマーク氏は語る。
「こうしたことは、Windows環境では決して起こらないだろう。Windowsはあまりに管理が厳しいため、進歩や革新が大きく妨げられている」と同氏。
Cablevisionは2012年10月、ニューヨーク州やニュージャージー州、コネチカット州の従業員を対象に、Google Translateをプリインストールした3000台以上のiPadの本格導入を開始した。
米モバイルコンサルティング会社Paladorの共同創業者であるベンジャミン・ロビンズ氏によれば、こうした具体的なアプリベースの業務改善が実現できる点は、モバイル化の魅力の1つであり、コンピューティングの未来の姿でもある。「画一的ではなく、タスク主導、機能主導になっていくはずだ」と同氏は語る。
ロビンズ氏は2012年2月、スペインのバルセロナで開催されたモバイル製品の展示会「Mobile World Congress」にノートPCを持たずに出掛け、それ以来、モバイル端末だけに頼るようになった。使用しているのは、外付けのキーボードとディスプレーに接続できる韓国Samsung ElectronicsのAndroid“ファブレット”、「GALAXY Note」だ。ファブレット(Phablet)とは、スマートフォンとタブレット端末の中間に位置するハイブリット端末を指す。同氏によれば、この変化に伴い、ときには作業方法の見直しを迫られることもあるが、結果的には、それが生産性の向上につながっているという。
「これまで続けてきた方法だからという理由だけで、これまでと同じ働き方をする必要はない。働き方は他にもある」と同氏は語る。
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