グローバルSCM製品紹介【第1回】
高速処理でサプライチェーンの先を見通す「SAP SCM」、高シェアの理由は?
製造業を中心にSCMの再構築に取り組む企業が増えてきた。厳しい市場環境の中で、サプライチェーンの最適化と需給予測が不可欠との考えが背景にある。SCMで高いシェアを誇るSAP製品の機能をまとめた。
多様なSCMソリューションを展開するSAP
世界の大手企業向け業務アプリケーション市場において高い導入シェアを維持するSAP。同社はERPパッケージ製品「SAP ERP」で広く知られるが、SCM(サプライチェーンマネジメント)の製品、ソリューションも幅広く展開しており、この分野におけるリーディングベンダーとしても有名だ。本稿ではSAPのSCMソリューションを紹介する。
SAP ERPを利用するグローバル製造企業のニーズに応える形で、SAPはここ15年ほどの間に次々とSCM製品を投入し、ポートフォリオを強化してきた。その代表的な製品の1つが、「SAP Advanced Planner and Optimizer」(SAP APO)だ。SAP APOはSAPのSCMソリューションの基盤となる製品。具体的にはSCMの販売計画と需給予測、安全在庫管理、供給配分計画などの機能を持つ。サプライチェーン全体のプロセスにおいて、生産計画、価格、輸送、全体スケジュールなどを管理する。自社のERPをはじめ、サプライヤーのシステムとも連係し、リアルタイムで在庫などサプライチェーンの情報を見られるのが特徴。同製品は1998年に提供開始され、現在までに2000社以上の導入実績を持つ。
例えばSAP APOを使うことで、週次の販売実績データと需要予測データを計算し、翌週の販売計画とそれに基づく生産計画を立案できる。生産計画は各拠点の生産能力やリードタイム、安全在庫情報などを考慮して立案可能。計算結果を各拠点の工場に渡し、生産指示を出せる。同時に、販売拠点に対して翌週の入庫予定情報を送信する。SAP APOを使うことで「計画系をトリガーにしたSCMのPDCAサイクル全体をカバーできる」(SAPジャパン ソリューション統括本部 業務オペレーションズマネジメント本部 SCM/製造ソリューション部 部長 山崎秀一氏)。
SAP APOで構築したサプライチェーンに対して、社外の取引先や輸送業者との商流・物流の進捗状況を可視化する「センス&レスポンス」ソリューションとして、SAPは「SAP Event Management」(SAP EM)を用意している。SAP EMは自社のサプライチェーンだけではなく、パートナーが関わるサプライチェーンも含めてプロセス全体を可視化することを可能にする。販売管理や在庫管理、輸送管理などサプライチェーンに関わるシステムが行うアクションを“イベント”として検知。そのイベントが事前設定した閾値から外れる場合はアラートを出して管理者に知らせる。またイベントを分析して要因を見つけ出し、改善することもできる。
SAPはその他、倉庫で広く使われているRFIDやバーコードを管理する「SAP Auto-ID Infrastructure」(SAP AII)も提供している。SAP AIIは、RFIDリーダーやバーコードリーダー、組み込みシステムと自社のサプライチェーンを統合するためのソフトウェア。工場内や出荷・入荷時のチェックでRFIDやバーコードを使っている場合、SAP AIIはその情報を処理して、SCMシステムに渡す。複数のリーダーで同時に読み取られた大量データを高速に処理することが可能で、RFID、バーコードのデータを扱う運送業や小売業で利用されているという。
製品間のスムーズな連係が特徴
SAPの実行系SCMソリューションは、もともとは製造業向けが多かったが、現在では物流にかかわる部分を製造業特有のプロセスとは切り離し、倉庫管理システム「SAP Extended Warehouse Management」(SAP EWM)や、輸送管理システム「SAP Transportation Management」(SAP TM)のような独立した製品として提供している。
SAP EWMは倉庫内の効率性を高めるソフトウェア。ジャストインタイム生産では、適切な場所に適切なタイミングで、適切な製品や部材を用意する必要がある。そのためには倉庫内の効率性も重要。SAP EWMはレイアウト画面を使って倉庫内の棚をデザインすることができる。また、製品などの倉庫内の移動をモニタリングして非効率な運用になっていないかを確認できる。効率性が下がっていたり、倉庫内の運用にボトルネックがある場合は、解決のための方策が示される。
SAP TMは輸送業者に発送依頼を出し、その輸送状況をモニタリングすることができる。工場出荷から船積み、顧客の受領まで異なる輸送業者が混在する状況でも貨物の状況をチェックすることが可能。SAP TMで特に注目されるのは輸送コストの削減に結び付く機能だ。貨物を1カ所に集めてまとめて発送したり、バラバラの貨物が1つになるように計算することで、輸送の総コストを削減できる。また国を跨ぐ輸送では、税関などで輸出入禁止物がチェックされるが、SAP TMではその国ごとの規制を確認し、禁止物が含まれる場合にアラートを出すことができる。
SAPは、サプライチェーンを形成する社外のさまざまな企業とのスムーズな連係を支援するための情報基盤として、「SAP Supply Network Collaboration」(SAP SNC)という製品も提供している。この製品はサプライチェーンに関わるパートナーとの情報共有プラットフォームとして利用することができる。
SAPはSCMに関連する多様な製品、ソリューションを提供しており、今や世界最大のSCMベンダーの1社といえる。しかし、同社のSCMソリューションの本当の強みは、「多様な課題領域にそれぞれ対応する製品を個別に多くラインアップするにもかかわらず、それら全てが互いにスムーズに連係して動作する点にある」と山崎氏は述べる。
高速処理基盤で突発的な変化に対応
山崎氏によれば、ここ1、2年の間でSCMの世界には、これまでにない新たなニーズが生まれつつあるという。それが、「突発的な変化」への対応だ。例えば、2011年に発生した東日本大震災やタイの洪水では、製造業を中心に日本企業のサプライチェーンが大きなダメージを受け、その脆弱性が明らかになった。企業は突発的な変化にも対応できるSCMソリューションを必要としている。
企業のこうした切迫したニーズに応える形でSAPが提供するのが、「SAP Supply Chain Response Management by ICON-SCM」(SAP SCRM)だ。インメモリ技術を活用したサプライチェーン計画の高速処理が大きな特徴。需給状況を監視し、災害などが発生した場合に、納期や在庫、売り上げ、利益などの主要なKPIに与える数値的な影響を迅速にシミュレーションすることができる。その上で生産能力や部品、代替拠点、代替品目、輸送手段などの制約条件を考慮した代替の計画を自動で立案できる。新規顧客を狙うべきか、既存顧客に製品を供給すべきかなど条件に応じた戦略の優先付けにも役立つ。従来の計画系ソフトウェアでもこのような計算は可能だが、SAP SCRMはこの計算を数分単位の処理時間で行うことが可能。そのため1日に何度も実行でき、計算結果の精度を高めることができる。
S&OPソリューションの導入事例も登場
インメモリ技術による高速処理と言えば、SAPはインメモリ型データベース製品「SAP HANA」を有している。このSAP HANAの高速処理を生かしたSCMソリューションも、徐々に登場してきている。代表的な製品が、企業におけるS&OP(Sales and Operations Planning)の取り組みを支援するための製品「SAP Sales and Operations Planning Powered by HANA」(SAP S&OP)だ。
S&OPとは、経営層や販売部門が金額ベースで策定する予算や事業計画と、生産部門や在庫管理業務の現場が数量ベースで管理する需給計画、この両者の予実を定期的にすり合わせ、サプライチェーンを全社レベルで最適化していくという取り組み。SAP S&OPは、このS&OPを実現するためのプラットフォームを提供する。需給状況のデータや生産管理データ、財務データを抽出し、リアルタイムに分析。今後の考えられるシナリオを導き出す。企業は複数のシナリオを比較してサプライチェーンや生産現場、マーケティングなどで取るべき施策を検討する。多くの企業では財務部門向け、生産現場向けなど複数の事業計画が同時に立案、実行されているが、SAP S&OPはこれらの計画を1つに統合し、実行可能な形で各部門に渡すことができる。
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