見直し迫られる企業の事業継続【第2回】
BCP再構築のポイントは「分散化」と「共同化」
大震災を受け、企業のBCPはより高度化が求められている。限られた企業資産を有効利用し、真に事業継続力を高める方策は「分散化」と「共同化」だ。
原因事象ベースから結果事象ベースのシナリオへ
1.原因事象ベースでの計画の限界
これまで企業においては、政府や各種団体が提示しているBCP(事業継続計画)策定に関わるガイドラインなどを参照し、計画策定と対策実施を行っているケースが多いと思われる(参考:前回記事「BCP機能せず、そのとき企業に何が起きたのか」)。これらのガイドラインでは最初にリスク(大規模地震、大規模火災、病原菌の大規模感染)を想定し、当該リスクで発生する被災状況の中で、事業の復旧から復興に至るシナリオを策定し、これに対応する行動計画・対策を取るというプロセスを踏んでいる。この方式の優れた点は、リスク想定をすることで計画としての全体スケジュールの把握や、広範な資源への対策を検討できることである。
一方、想定されたシナリオをベースに計画・対策を行うため、問題が生じる可能性もある。今回の東日本大震災はこれまでに想定されたいかなる地震よりも大規模で、かつその後に津波の二次被害を伴った。このようなシナリオを超えた災害では、復旧のための各種資源の再調達時期およびインフラ復旧計画が想定と全く異なり、当初の計画やスケジュールとまるで違う時期、レベルで、復旧のための各種資源が提供される。このため被災という極めて厳しい状況下で、対応を最初から練り直す必要が生じてしまう。自社が直接被害を受けた企業にとっては、何から手を付けるべきか分からないという状況に陥りかねない。
2.企業の業務プロセスを支える各種資源
今回の震災のように範囲が広範で、被害レベルが激甚であった場合、従来の想定リスクシナリオベースの事業継続計画では対応できないことが分かってきた。そもそも企業の業務プロセスは以下の図のように、多様なインフラリソース に支えられて成り立っている。
電気、ガス、水道、通信網といった社会インフラでは通常でも被害想定が検討されているが、企業活動においてはシステムを預けているデータセンターやエレベーターなどの管理を行うビルメンテナンス会社、各種部材を搬送する物流会社なども社会インフラに準ずるインフラとして認識すべきだ。事業継続計画を策定する場合も、このようなインフラを考慮する必要がある。
企業の業務プロセスを継続するためには、これら社外資源と、社員や設備などの社内資源(社内リソース)の依存関係を明確にし、各種資源が被災した場合にどの業務プロセスへ影響があるかを判断し、計画外の被災への対応を決定していく必要がある。
3.結果事象ベースでの計画見直し
原因事象をベースにしたこれまでの分析・計画を見直す方向性の1つが、結果事象ベースでの計画見直し(再構築)である。結果事象ベースでの見直しとは、リスク想定から離れて、「1.原因事象ベースでの計画の限界」で示した各種資源(社内リソースからインフラまで)が何らかの災害により機能を逸失した場合に、いかに事業の復旧から復興までを執り行うかという観点で計画を練り直すことである。
結果事象ベースでの見直しのメリットは、
- リスクを想定せず、資源の逸失だけに注目することで、どのような災害時にも被災資源単位での計画・対策の組み合わせで対応可能
- 逸失された資源に着目した計画になるため、資源の機能回復が当初計画と異なるタイミング(計画より早まる場合も、遅くなるケースも想定される)で行われた場合であっても、柔軟に対応できる
が挙げられる。結果事象ベースの事業継続計画の見直しを行うことで、これまで全体最適を目指して策定されていた計画が、個別資源レベルで詳細に機能する実効性の高い計画になることは間違いない。
真の事業継続力強化とは?
1.これまでの事業継続対策
計画レベルでの事業継続力の強化については、前項までの方法で実現可能であるが、実際に結果事象ベースで対策実施を行う場合、社内リソースから社会インフラまでを包含した広範な分野で対策を行う必要がある。これまでの事業継続計画の考え方の主流は、それぞれの資源に対して代替リソースを検証し、通常業務とは別にこの代替リソースを準備する「多重化」だった。多重化することで、被災時には代替リソースを利用した事業復興が可能となるが、事業プロセスを守るためにやみくもに多重化を推進すれば、経営の圧迫要因になりかねない。また、この点がこれまでの事業継続計画に二の足を踏む企業が多かった要因の1つともいえよう。
また単独企業の内部で多重化をして対策を取っていた場合でも、サプライチェーンや社会インフラのような外部を含めた対策がなかったために機能しなかったケースも、今回の震災では多数見られた。
2.多重化から「分散化」「共同化」へ
それでは効率的に「事業継続が容易な事業プロセス」を考えるにはどうすればいいだろうか? 多重化の悩みを解決する1つの方法は、「分散化」と、分散化のデメリットを補う「共同化」だ。この場合の分散化とは、例えば
- ITインフラが依存している電力に影響が出た場合にも業務遂行可能なように、データセンターの物理ロケーションを別電力網に設置する
- オフィスが倒壊しエレベーターが動かないなど、施設・設備に影響が出た場合でも業務遂行可能なように在宅での業務遂行を前提とした業務プロセスとする
- 物流業者が機能しないことを想定し、取引する部材供給ベンダーを複数にする、または部材供給ベンダーと工場とのロケーション配置を検討する
などだ。資源を分散配置することで被災資源への対応力を強化することがポイントだ。
3.分散化のメリット
分散化では上図のようにインフラの影響を排除するため、複数拠点で業務を行うスプリットオペレーションなども含まれる。分散化の効果は、被災地域の拠点が災害で業務縮退しても、非被災地域へ業務拠点を置くことにより、非被災地域企業との取引を問題なく遂行できる点だ。業種によっては先に例示した「オフィス・自宅」や「オフィス・避難地域の拠点」といった分散化の組み合わせも考えられる。社会インフラや準社会インフラといった地域依存の資源に対する影響から逃れるには、どのような形態を取るにせよ分散化の観点が必要であると考える。
しかし、単純に業務を分散化することは、業務の効率性を阻害する可能性があるのも事実である。管理面でも複数拠点をカバーする必要が生じるため、少なからず影響が懸念される。このデメリットを埋め合わせ、さらに企業活動の最適化を目指すのが「共同化」である。
4.共同化のメリット
共同化は、各企業がリソースを共同で調達すること、ないしは共同利用可能な基盤上で業務を展開することを指す。簡単な例ではクラウドコンピューティングの利用が当たるだろう。またシェアードハウスの利用といった、業務プロセスの共同化も含まれる。こういった従来の共同化の考えを、事業継続にも積極的に取り入れるべきだ。
共同化の例としては、地域金融機関における業務・システム共同利用がある。共同バックアップセンターを持つことで、各地域金融機関は危機対策投資を抑えている。また、高価になりがちな金融システムを共同開発し、成長分野への投資の容易にしているのだ。
換言すれば、分散化、共同化のゴールは危機対策と成長投資の両立である。単純に危機対策のために業務を分散化するのではなく、社内の複数拠点間にある業務プロセスを精緻化することや、同業種内で業務・システムの共同化を図ることで、プロセスの標準化、最適化を促進できるのである。
株式会社 日立コンサルティング
日立グループのコンサルティング事業における中核会社。さまざまな社会インフラとITを支えてきた日立グループの知恵と力を礎とし、また、日本、北米、欧州、中国を中心とした日立コンサルティングのグローバルな知のネットワークを活用して、社会と企業の新しい価値創造に取り組んでいる。
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