不正会計、会計監査人も悩んでいるトーマツがセミナー

オリンパスや大王製紙の不正会計事件を受けて会計士や監査法人への風当たりが厳しくなっている。

2012年09月07日 20時00分 公開
[垣内郁栄,TechTargetジャパン]

 「重要な虚偽記載を見逃してはいけないという緊張感は常にある」。有限責任監査法人トーマツの公認会計士 服部一利氏は8月30日に同法人が開催したセミナーで述べた。オリンパスや大王製紙の不正会計事件を受けて会計士や監査法人への風当たりは厳しくなっている。セミナーから見えてきた会計士の悩みやジレンマを紹介する。

 「期待ギャップ」という言葉がある。市場や株主は会計監査人に企業の不正会計の発見や摘発を期待しているが、監査人の実際の監査ではそのような不正摘発を目的としないために起きるギャップだ。この期待ギャップは2002年の「監査基準の改定に関する意見書」に既に登場している。

トーマツの公認会計士 服部一利氏

 そもそも会計監査の目的は、経営者の作成した財務諸表が「すべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて、監査人が自ら入手した監査証拠に基づいて判断した結果を意見として表明すること」(監査基準 第一)だ。これだけ読むと会計監査では、監査人が企業の全ての取引を調べ上げているかのように見える。だが服部氏は「すべての重要な点というところに誤解がある」として、「あらゆる財務諸表が適正かどうかを調べるというイメージがあるが、監査意見は全体として適正とすること。軽微な間違いはあるかもしれない」と話す。このような認識の違いが期待ギャップを生んでいる。「現場の会計士として不安感がある」(服部氏)。

 また、虚偽表示については監査基準で、監査人の意見として「財務諸表には、全体として重要な虚偽の表示がないということについて、合理的な保証を得た」との判断を含めるよう記している。ここでは虚偽記載の発見が会計監査の目的に含まれるといえる。

 ただ、虚偽記載はイコール不正会計ではない。虚偽記載は、意図的でない誤りの「誤謬」と、意図的な誤りである「不正」に分けることができる。さらに不正は「従業員不正」と「経営者不正」に区別される。監査基準上では、不正会計を見つけることが目的ではなく、不正会計や誤謬を含む虚偽記載を見つけることが目的とされるのだ。「会計士の仕事は不正を発見しに行くことではない。不正によって財務諸表が虚偽記載になっているなら、それを見つけないといけないと監査基準ではうたわれている」(服部氏)。ここにも期待ギャップが生まれる原因がある。

 加えて「二重責任の原則」も期待ギャップを生んでいる。二重責任の原則とは、経営者による財務諸表の作成責任と、監査人の意見表明責任を区別すること。つまり「監査人は財務諸表の意見に対して責任を負うのであって、財務諸表の作成に対して責任を負うのではない」ことを指す。会計監査に対する批判としては、会社側が財務諸表に書いていないなら、監査人が監査報告書で問題点などを指摘すればいいとの意見がある。しかし、財務諸表に責任を持つのは経営者。「二重責任の原則があり、監査報告書での指摘は制度的にはできない」(服部氏)。

 会計監査で取られる「リスク・アプローチ」も監査人を悩ます。リスク・アプローチにおける虚偽記載の考えは「重要な虚偽記載の表示が生じる可能性が高い事項について重点的に監査の人員や時間を充てること」をいう。しかし、リスクの適切な識別ができるか、その対応が適切だったかは、後にならないと分からない。虚偽表示が疑われる場合は、「監査スケジュールを外れて集中的に調べる」(服部氏)が、実際はそのための人員のやりくりや手続き、時間の確保など、制約条件や考えることは多く「難しい」と服部氏はこぼす。

 その他、服部氏は実務上の悩みとして「内部統制に依拠した試査による監査」「監査報酬をもらっている立場」「強制的な調査権・反面調査などがない」ことを挙げた。

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