SurfaceやOffice 365の普及を優先?
ついに登場したiOS版Office、Microsoftの真意は
米MicrosoftがついにiOS版のMicrosoft Officeをリリースした。ただし、利用できるのはOffice 365ユーザーのみで、iPad専用画面を用意しないなど制限も多い。Microsoftの意図は?
米Appleは2013年6月10日(米国時間)に開催した「Worldwide Developers Conference(WWDC)2013」で、「iOS 7」および「iWork for iCloud」のプレビューを発表した。その直後、米Microsoftが公開したのが「Office Mobile for Office 365 subscribers」(以下、Office Mobile)である。
この新しいアプリケーションは、iOSユーザーの前々からの要望に応える、iOSデバイスで動作するネイティブのMicrosoft Officeである。ただし、このアプリが正式にサポートするのはiPhoneであり、iPadには最適化されていない。さらに既報通り、利用できるのは「Office 365」のサブスクリプションユーザーに限定される。
iPhoneで動作するOfficeをリリースする。ただしクラウドベースのOffice 365との「抱き合わせ」に限る――。こうしたMicrosoftの施策は、iOSデバイスでOfficeドキュメントの新規作成や編集がしたいと願っていた、数百万人のiOSユーザーを満足させようとする初めての試みだ。
これまで多くのサードパーティーのアプリ開発者が、「CloudOn」や「Quickoffice」(米Googleが買収)といったiPhone/iPadでOfficeドキュメントの表示、編集、新規作成ができるアプリを提供し、正規のMicrosoft Officeが提供されていないギャップを補っていた。
iPadは、機器本来の性質からするとiPhoneよりも文書作成や編集に向いている。にもかかわらず、MicrosoftはiPadをサポート対象から外している。このことは、Officeとの互換性を特に求めているエンドユーザーの視点からは、あからさまな対競合戦略に見える。業界はこの現状について、現時点の売り上げがいまだにiPadの発売当初のレベルに達していない「Surface」がますます売れなくなることを恐れた、Microsoftの戦略だろうと見ている。
「iOSでOffice 365をサポートすると、Windows RT端末の売れ行きは鈍るだろう」と、米調査会社451 Researchでモバイルおよび無線機器の調査部門の責任者を務めるクリス・ヘイゼルトン氏は話す。
Windows RT端末にはOfficeスイートが搭載されている。Windows 8.1(参考:Windows 8.1「スタート」復活にユーザーの反応は)のリリースに伴って、間もなくOutlook 2013にアップグレードされるだろう。
2013年6月初めに開催されたTechEdでのインタビューで、MicrosoftのWindows ServerおよびSystem Centerプログラムマネジメント担当の副社長、ブラッド・アンダーソン氏は、「OfficeをiOS版どころかAndroid版すらリリースしていないのは、Surfaceの売り上げに響きかねないからだ」と、言いにくそうに認めた。
ただしOffice Mobileは、原寸の小さい画面サイズのまま表示するか、2倍に拡大するかのどちらかの方法を取れば、iPadでも動作する。Microsoftは当面の方法として、iPadではオンライン版のMicrosoft Officeである「Office Web Apps」を使うことを推奨している。
Office Mobileは、Microsoft Word、Excelのドキュメントについては、表示や編集、新規作成がいずれも可能である。ただし、Microsoft PowerPointのスライドについては、表示と編集の機能だけに限定されている。また、作成あるいは編集したドキュメントの保存先はオンラインストレージの「SkyDrive」や「SkyDrive Pro」、SaaS版グループウェアの「SharePoint Online」のいずれかの選択肢しかない。
Office 365サブスクリプションプランを契約しているユーザーであれば、アプリは無料で利用可能。iPhone 4、4S、5の各機種か、iOS 6.1が動作するiPod touch第5世代以降をサポートしている。
エンタープライズ分野への影響が大きいOffice Mobile
「MicrosoftのiOSに対するモビリティ戦略には失望した。ユーザーの要望をくみとろうとする姿勢すら見えない」と話すのは、Apple専門のコンサルタント会社、米Tech Superpowersの創立者であるマイケル・オー氏だ。同氏は、Office MobileがOffice 365サブスクリプションを売り込むためのMicrosoftの戦略だと捉えている。
Office Mobileは、大企業にとって、モバイルデバイス管理(MDM)およびモバイルアプリケーション管理(MAM)に関する社内規定の強化が必要かどうかを検討するきっかけとなる製品かもしれない。IT部門の管理者は、自組織のエンドユーザーにOffice Mobileのダウンロードを認める社内規定を用意することにはやぶさかではないだろうが、それは自組織のネットワークをAppleという大企業のアプリストアへの接続を許可することを意味する。エンドユーザーには同時にMAMソフトウェアも端末にインストールしてもらわなければならなくなる。
「これを機会にMAM導入の傾向が加速するだろう。IT部門がモビリティに対する管理を取り戻す機会になる」とヘイゼルトン氏は言う。
一方、前述のオー氏はこうコメントしている。「大企業が、サービスとの連携を前提にモバイルデバイスやアプリケーションの管理を検討しなければならなくなったという視点に立つと、この製品が公開されたことは非常に興味深い」
Appleがエンタープライズ向けにオフィススイート製品を販売している方法を参考にすれば、Microsoftにも、iPhone以外のiOS端末でOfficeアプリケーションをサポートする策を打ち出す余地はあるのではないか。
Appleはオフィス製品である「Pages」「Numbers」「Keynote」を個別のiOSアプリとして、各9.99ドル(米国価格。日本での販売価格は各850円)で有償配信している。業務で使用するユーザーにとって、3製品を合わせた約30ドル(3000円弱)という価格は、製品購入で得られる生産性という価値を考えれば大した出費ではない。Microsoftはこの方式を見習うわけにはいかないのだろうか。
「仮にOfficeアプリをスイートではなく、個別に1点につき10ドルで販売を始めたら、返金処理、すなわち従業員向けのOffice返金プログラムの準備を余儀なくされるIT部門が続出するだろう」とヘイゼルトン氏は言う。一方で、「もしOfficeアプリが有償配信されるとしたら、他のアプリも同じ方法で購入しようと考える企業も現れるだろう。これは、企業がさらに専門性の高い業務用モバイルアプリについて、購入に関する方針や手順を整備することにつながる」(同氏)
加えて、Officeアプリの個別販売は、Microsoftにとって売り上げを確保する手段を増やすことになるし、モバイルソフトウェアのエコシステムを進化させる後押しともなるだろう。2013年4月の第3四半期決算報告でMicrosoftの幹部が明かしたところによると、Office 365の年間の売り上げは10億ドルを見込んでいるという。
Microsoftはこの件に関するコメントを控えている。
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