識者に聞く「次なる投資先」
モバイルとクラウドで「風が吹けば桶屋」的に成長中のネットワーク分野とは?
今、ネットワーク機器の領域で何が起こっているのか。注目すべき製品の“売り”と“買い時”は? IDC Japanのリサーチ担当者に聞いた。
日進月歩の勢いで進化するITの中でも、とりわけ変化の激しいのがネットワークの分野だ。新人担当者はもちろんのこと、ベテラン担当者であってもトレンドを正しくつかまなくては正しい意思決定ができない。今、企業のネットワークで何が起こっているのか。IDC JapanでルータやLANスイッチ、無線LANを含む国内ネットワーク機器市場の調査を担当する草野賢一氏に聞いた。
企業の無線LAN活用はますます進む
「企業向けという視点で言うと、1つは無線LAN製品、もう1つはデータセンターネットワーク機器、この2つが現在のネットワーク分野における成長市場です」と草野氏は語る。
IDC Japanが2014年6月に発表した「国内企業向け無線LAN機器市場の2013年の実績と予測」によれば、2013年の国内企業向け無線LAN機器市場は、前年比24.3%増の216億円。前年まで目立っていた公衆無線LANサービス向けの投資が一段落した一方で、一般企業での無線LAN活用が進んだ結果だという。実際2013年には、米Ruckus Wirelessや米Aruba Networksなど公衆無線LANサービス用機器を中心とするベンダーがシェアを落とす一方で、一般企業向けの製品に強い米Cisco Systemsなどが大きく伸びている。
無線LAN機器の成長を後押しする要因について草野氏は「1つはタブレット利用が増えていること、もう1つは、クライアントPCがデスクトップ型からポータブルなノートPCへ切り替わるケースが圧倒的に増えていること」を挙げる。これらをネットワークに接続するための企業内のインフラとして無線LANが導入されているというわけだ。
「無線LAN機器の広がりとともに顕在化してきている課題が、1アクセスポイント当たりの高密度化です。製品選定には、カタログスペックではなく実際の利用環境下での同時接続の良しあしが基準になってくるでしょう」と草野氏は語る。
アクセスポイントが増えたことにより、それを集中管理する製品への需要も高まってきている。従来は集中管理といえばハードウェア型のコントローラーが中心だったが、高価なものであり、企業の規模によってはオーバースペックなケースも出てくる。そこで最近では例えば、アライドテレシスの「Allied Telesis Unified Wireless Controller(UWC)」のような、アクセスポイントの状態をGUIで監視することができるソフトウェア型、あるいはマネージドサービス型といったように、提供形態も広がってきているという。
「IEEE 802.11ac」に向けた課題
無線LANといえば、ギガビット接続をうたった次世代規格「IEEE 802.11ac」が気になるところだが、企業向け製品についていえば、現状ではまだ目立った動きはなく、本格的に導入が進むのは、802.11acの第2世代規格「Wave 2」対応の製品が出てくる2015年以降になりそうだという。
「遅い機器と混在して使われているうちはメリットを発揮しづらいし、これまで多く用いられてきた2.4GHz帯ではない5GHz帯を用いるため、それを管理する難しさもあります。また、端末側の対応も待たなければいけないところもあり、現時点で802.11acのために何かを買い控えるという動きは出ていないように思います。802.11nのときがそうだったように、企業向きの需要はコンシューマー向きの普及が進んだ後になります。もともとの買い替えスパンを無理に早めて急いで買い換えるというケースは少ないのではないでしょうか」と草野氏は語る。
今これから無線LANを導入しようという企業にとっては、5年後に古くなると分かっている規格の製品に今から投資することをためらうかもしれない。だが802.11ac準拠の無線LAN製品は、現時点では既存の機器との価格差が大きいこともあり、すぐにでも無線LANが必要であれば、802.11n準拠製品の方が現実的だろう。もちろん、さらなる高密度化に備え、より高速な通信環境を整えたいというのであればその限りではない。
仮想化、クラウドがデータセンターネットワーク機器の需要をけん引
ネットワークの分野でもう1つの大きな潮流として草野氏が挙げるのがデータセンターネットワーク機器だ。データセンターに導入されたイーサネットスイッチ、レイヤー4~7スイッチ(ADC)、WANアプリケーション配信(WAN最適化)、InfiniBandなどを指すデータセンターネットワーク機器の2012年の市場成長率は、前年比成長率20.8%で市場規模は668億3900万円だったという。「成長がいつまで続くかという議論はあるかもしれませんが、今のところデータセンター側にITのリソースを集中させるというトレンドにあるのは間違いありません」と草野氏は言う。
この市場が急成長を遂げる背景には、モバイルサービスの利用拡大と、企業のITシステムのデータセンターへの統合、仮想化、クラウド活用の増大などがある。
「“第3のプラットフォーム”の利用が増えていく中でネットワークも無関係ではいられなくなっています」(草野氏)。第3のプラットフォームとはIDCが提唱する概念の1つで、今日のITの世界の中核となる基盤のことを指す。その構成要素は「モバイル」「クラウド」「ソーシャル」「ビッグデータ」の4つ。ネットワークにおいて無線LANとデータセンターネットワーク機器が成長分野となっているのも、まさに第3のプラットフォームを支えるインフラという位置付けだからなのだろう。
クラウドサービスが提供するネットワーク機能を迅速にかつ効率的に提供するため、SDN(Software Defined Network)の導入が進んでいることも見逃せない。IDC JapanではデータセンターにおけるSDNは、2017年には342億円市場になると見ている。
SDN/NFVの現状
データセンターにおいてはSDNの運用が実現しつつあるが、運用の主体はまだ大規模なクラウドサービスプロバイダーなどが中心だ。ただし、「今後、企業がプライベートクラウドを構築する中で、ネットワークの要素の1つとして、これからSDNが検討されていく」と草野氏は言う。
なお、企業ネットワークのSDN化となると、需要は限定的だ。企業のLANやWANの集中管理を実現する方法の1つとして検討されることはあるかもしれないが、大きな広がりは見せていない。IDC Japanの調査でも、企業ネットワークSDN市場はデータセンターSDN市場の4分の1程度の市場規模にとどまると見ている。
第3のプラットフォーム時代にネットワーク担当者はどうあるべきか
IDC Japanが2014年7月に発表した「IT投資動向に関する国内CIO調査結果」では、2014年度のIT予算が前年比で「ほとんど/全く変わらない」とする企業は全体で64.2%に達する。この傾向は近年ほとんど変わらないという。一方で、営業やマーケティングなど業務部門独自の「情報システム部門非関与予算」が「ある」または「あると思う」という回答が全体で19.8%、大企業では38.8%に上る。
IT部門が関与しない予算が増加する理由として「現場の要件をより迅速にシステムに反映するため」がトップで、次いで「新たなテクノロジーやIT製品/サービスに対する情報システム部門のスキル不足」が挙げられている。これは見方によっては、IT部門の存在意義が問われているといえるのかもしれない。そんな中、ネットワーク担当者はどう振る舞うべきか。
「基本的な接続を保つことはこれまで通りやっていかなくてはいけませんが、一方でこれからのネットワーク担当者は、常に安定したネットワークを、企業のLAN/WANだけでなくクラウドとの接続まで含めて提供することを考えなくてはいけない」と草野氏は言う。
具体的には例えば、WAN高速化製品の導入や、もし自社の中でアプリケーションを実装するのであれば、アプリケーションデリバリー コントローラー(ADC)などをより積極的に活用していくことが考えられる。実際、米Riverbed Technologyのように、WAN高速化製品にクラウドアプリケーションの高速化という観点からアプローチしているベンダーもある。「クラウドのアプリケーションをより快適に使えるよう、ネットワーク側でもやれることをやっていくべきです」(草野氏)。
安全で安定したネットワークを供給するというネットワーク担当者の役割そのものは変わらない。しかし、より上位の、アプリケーションレイヤーからネットワークを見ることも必要だし、アクセスの手段が広がっていることを考え、ネットワークとアプリケーションのパフォーマンスを合わせて評価するような仕組みも必要になってくるというわけだ。
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