SDNに過熱する業界と冷めた目で見る市場
SDNの本格導入が進まない4つの理由
SDN(Software Defined Network)はネットワークの一元管理を可能にし、サービス展開のスピードアップや管理作業の効率化に寄与する。だが、その本格導入に至るまでには複数の課題が残されている。
ネットワーク運用を大幅に改善するSDN
ネットワークをプログラムによって制御するネットワークアーキテクチャ、SDN(Software Defined Networking)が注目を集めている。現在、アドレスの設定やトラフィックのルーティングなど、単調で時間のかかる運用管理タスクは高価な専用ハードウェアと密接に結び付いており、その上で実行されている。しかしSDNに移行することで、こうしたタスクを高価なハードウェアから切り離し、コモディティハードウェア上で動作するソフトウェア機能として利用することが可能になる。
これにより、企業は多くのメリットを享受できる。例えばトラフィックの経路設定や遅延の最小化などについて、クローズドなベンダー固有のネットワークスイッチやルータに頼ることなく、単一のインタフェースで全てのネットワーク機能を扱えるようになる。サービス展開のスピードアップ、管理作業の簡素化、コスト削減も狙える。
ネットワーク機器ベンダーは、こうしたSDNへのパラダイムシフトの可能性に注目している。既にSDN市場に参入している新興企業群、Adara NetworksやBig Switch Networks、Contextream、Embrane、Vello Systems、Vyattaなどの他、Brocade Communications、Cisco Systems、Dell、Extreme Networks、Hewlett-Packard、Juniper Networksなどの大手ベンダーもSDN市場への参入に積極的な姿勢を見せている。2012年7月、VMwareがSDNを手掛けるNiciraを12億6000万ドルで買収する計画を発表したことも、この市場の可能性の大きさを示している。
「実際、VMwareが明らかにした買収価格は、誰の予想よりもはるかに高かった」(米Enterprise Strategy Groupのシニアアナリスト、ボブ・ラリバート氏)
SDNへの移行を「データセンター仮想化に向けた自然な流れ」と見る向きも多い。データセンターではサーバ仮想化が一般化しており、ストレージの仮想化も進んでいる。SDNによってネットワーク仮想化を行うことは、データセンターの進化における次のステップになるというわけだ。
SDNの浸透を阻む4つの課題
だが実際には、SDNの導入はまだほとんど進んでいない。米ZK Researchの主席アナリスト ズース・ケラバラ氏は「SDN市場を野球の試合に例えると、ピッチャーがウォームアップをしているところ。企業がSDNのメリットを実感するようになるのは、まだかなり先の話だ」と話す。
その本格導入に向けた1つ目の課題は、SDNのメリットを得るためには、多角的な取り組みが要求される点だ。具体的には「物理コントローラー」「物理コントローラーのネットワークソフトウェア」「アプリケーションがネットワークサービスを呼び出すためのAPI」という3つの構成要素をSDNに対応したものに変更しなければならない。
このうち物理コントローラーだけはネットワーク制御技術、OpenFlowによりSDN対応が進みつつある。OpenFlowを使えばパケットの経路選択をユーザーがプログラムで制御できる。これにより、ネットワークの管理情報を転送データから分離できるため、アクセス制御リストやルーティングプロトコルなど、従来のアプローチで実現できるトラフィック管理よりも高度なトラフィック管理が可能になる。
OpenFlowベースのネットワーク製品については、Google、Hewlett-Packard、IBM、Big Switch Networks、Vello Systemsなどが2011年ごろから次々と発表してきた。2011年3月にはDeutsche Telekom、Facebook、Google、Microsoft、Verizon、Yahoo!が、OpenFlowの利用促進を目指すコンソーシアム「Open Networking Foundation(ONF)」を設立。会員企業は着実に増え続け、現在は80社を超えている。だが、SDNに必要な他の要素技術はまだ青写真の段階にある。
2つ目の課題は、実用面での懸念事項が幾つか残されている点だ。例えばスケーラビリティが挙げられる。長年にわたって進化してきた従来のネットワークは多数のノードをサポートできる。だがSDNはまだそうした大規模ネットワークで安定的に機能することが実証されていない。また、分散していた情報を集中管理するため単一障害点になりやすいという問題もある。このためベンダーは堅牢な管理ツールを開発する必要がある。
3つ目は投資判断の問題。多くのアナリストは「今後登場するSDN製品の多くは、従来のネットワーク製品並みの価格で豊富な機能を提供するようになる」と予想している。だが使用率の低いハードウェアを廃棄することでコストを削減したサーバ仮想化とは異なり、SDNはその効果を視覚的に把握することが難しい。この点で、サーバ仮想化に比べると意思決定層の理解が得られにくいことが予想される。
4つ目の課題は新しい運用体制の整備だ。調査会社の米Forresterは「次世代ネットワークを使うためには、管理体制と運用プロセスの変更、新しいスキルセットが不可欠となる。しかるべき運用体制とスキルがなければ、ソリューションを導入しても効果が得られず、かえって運用効率の低下を招いてしまうかもしれない」と指摘している。
SDNは多くの可能性を秘めている。しかし以上のように、その活用のためには新しいネットワーク機器への投資や、長期にわたる(厄介かもしれない)ネットワークノードのアップグレード作業、ネットワークエンジニアのスキルセットの再構築などが求められる。長期的には多くのメリットが得られる可能性があるが、短期的には大きな負担が発生することも予想される。そうした点が、SDNに対するメディアやベンダーの過熱ぶりとは裏腹に、多くの企業がこの技術に対して慎重な姿勢を見せている理由のようだ。
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