「Software Defined Networking(SDN)」という言葉の意味はあまりにも多様化し、議論がかみ合わなくなってしまっている。議論が深まるような、この言葉のより建設的な定義とはどういったものなのかを探る。
本連載の第1回「【技術動向】OpenFlowはなぜ誤解されるのか」、第2回「【技術動向】OpenFlowに対する4つの誤解を検証する」では、OpenFlowに関する誤解について説明した。今回は、Software Defined Networking(SDN)についての誤解が生まれる背景について説明する。
OpenFlowは技術仕様だが、SDNは異なる。このため、人によってこの言葉で何を意味するかに違いが生じるのは仕方がない。だが、人によってあまりにも違いがあるため、議論がかみ合わなくなるとともに、混乱が生じているのは大きな問題だ。SDN関連製品に関わっている人々や専門家的な立場にある人々からIT系のメディアや記者に至るまで、それぞれが自らの立場や琴線に触れる情報に基づき、あるいは取材対象に振り回されて異なる意味でこの言葉を使うため、これらの人々の発信する情報に接する人々はさらに混乱してしまう。
一説によると、この言葉はもともとOpenFlowを生み出したスタンフォード大学研究所の担当教授であるNick McKeown氏が、技術に詳しくない記者の取材を受けていた際に生まれた言葉だという。その記者が自らの理解のために「OpenFlowとはSoftware Defined Networkingのようなものか」と確認し、McKeown氏はこれに「そうだ」と答えたというのが始まりだという。
これが事実ならば、SDNはOpenFlowを分かりやすく説明するためのフレーズでしかないということになるし、そのままだったら現在のような注目を集めはしなかっただろう。従って、起源から正しい意味を把握しようとするのは、この言葉に関しては無駄な行為といえる。
では、OpenFlowおよびSDNの推進団体であるOpen Networking Foundation(ONF)はどう言っているか。ONFはSDNを、「あらゆるネットワークを、ソフトウェアでプログラミング可能にするアーキテクチャ」だと表現している。
ONFのホワイトペーパー(PDF)「Software-Defined Networking ネットワークの新常識」(日本語版)には、次のような表現がある。
「SDNアーキテクチャでは、コントロールプレーンとデータプレーンが分離し、ネットワークインテリジェンスとステートが理論的に一元化され、それを支えるネットワークインフラストラクチャは、アプリケーションに対して抽象化されます」
さらに、次のように説明している。
「ネットワークのインテリジェンスは、ソフトウェアベースのSDNコントローラに(論理的に)一元化され、ここでネットワークの全体像が管理されます。その結果、アプリケーションやポリシーエンジンには、ネットワークが、あたかも一台の論理的スイッチのように見えるのです。SDNによって、企業・通信キャリアは、ベンダーに依存せずとも、ネットワーク全体の制御が論理的に一カ所から可能になり、ネットワーク設計・運用が飛躍的に簡素化します。また、ネットワーク機器自体も、これまでのように多種多様なプロトコル規格を理解して処理しなくても、SDNコントローラからの命令を受け取るだけでよくなるので、大幅にシンプルになります」(原文ママ)
これは基本的に、OpenFlowプロトコルを前提とした説明だと理解できる。同じホワイトペーパーでは、「コントロールプレーンとデータプレーンをつなぐ初の標準プロトコル」といった、ぼかしたような書き方をしているが、事実上OpenFlowを前提としていると判断していいだろう。ONFのエグゼクティブ・ディレクターであるダン・ピット氏も「OpenFlowはSDNにとって不可欠な役割を果たす」と述べている。
では、米NiciraのNVPのような製品はSDNではないのか。本連載の第2回でも説明したように、NiciraはOpenFlowベンダーではない。コントローラーとトンネル終端ポイントの間にOpenFlowプロトコルを使ってはいるが、それは上記のホワイトペーパーが示唆するような、ネットワーク全体の集中制御のためではない。分散トンネリングの制御のためだ。NVPという製品の目的はネットワーク仮想化であり、ネットワーク全体の集中制御ではない。
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