【技術動向】SDNはなぜ誤解されるのかOpenFlow/SDN、誤解の構造【第3回】

「Software Defined Networking(SDN)」という言葉の意味はあまりにも多様化し、議論がかみ合わなくなってしまっている。議論が深まるような、この言葉のより建設的な定義とはどういったものなのかを探る。

2012年12月07日 08時00分 公開
[三木 泉,TechTargetジャパン]

 本連載の第1回「【技術動向】OpenFlowはなぜ誤解されるのか」、第2回「【技術動向】OpenFlowに対する4つの誤解を検証する」では、OpenFlowに関する誤解について説明した。今回は、Software Defined Networking(SDN)についての誤解が生まれる背景について説明する。

 OpenFlowは技術仕様だが、SDNは異なる。このため、人によってこの言葉で何を意味するかに違いが生じるのは仕方がない。だが、人によってあまりにも違いがあるため、議論がかみ合わなくなるとともに、混乱が生じているのは大きな問題だ。SDN関連製品に関わっている人々や専門家的な立場にある人々からIT系のメディアや記者に至るまで、それぞれが自らの立場や琴線に触れる情報に基づき、あるいは取材対象に振り回されて異なる意味でこの言葉を使うため、これらの人々の発信する情報に接する人々はさらに混乱してしまう。

 一説によると、この言葉はもともとOpenFlowを生み出したスタンフォード大学研究所の担当教授であるNick McKeown氏が、技術に詳しくない記者の取材を受けていた際に生まれた言葉だという。その記者が自らの理解のために「OpenFlowとはSoftware Defined Networkingのようなものか」と確認し、McKeown氏はこれに「そうだ」と答えたというのが始まりだという。

 これが事実ならば、SDNはOpenFlowを分かりやすく説明するためのフレーズでしかないということになるし、そのままだったら現在のような注目を集めはしなかっただろう。従って、起源から正しい意味を把握しようとするのは、この言葉に関しては無駄な行為といえる。

ONFにとって、SDNはアーキテクチャ

 では、OpenFlowおよびSDNの推進団体であるOpen Networking Foundation(ONF)はどう言っているか。ONFはSDNを、「あらゆるネットワークを、ソフトウェアでプログラミング可能にするアーキテクチャ」だと表現している。

 ONFのホワイトペーパー(PDF)「Software-Defined Networking ネットワークの新常識」(日本語版)には、次のような表現がある。

 「SDNアーキテクチャでは、コントロールプレーンとデータプレーンが分離し、ネットワークインテリジェンスとステートが理論的に一元化され、それを支えるネットワークインフラストラクチャは、アプリケーションに対して抽象化されます」

 さらに、次のように説明している。

「ネットワークのインテリジェンスは、ソフトウェアベースのSDNコントローラに(論理的に)一元化され、ここでネットワークの全体像が管理されます。その結果、アプリケーションやポリシーエンジンには、ネットワークが、あたかも一台の論理的スイッチのように見えるのです。SDNによって、企業・通信キャリアは、ベンダーに依存せずとも、ネットワーク全体の制御が論理的に一カ所から可能になり、ネットワーク設計・運用が飛躍的に簡素化します。また、ネットワーク機器自体も、これまでのように多種多様なプロトコル規格を理解して処理しなくても、SDNコントローラからの命令を受け取るだけでよくなるので、大幅にシンプルになります」(原文ママ)

 これは基本的に、OpenFlowプロトコルを前提とした説明だと理解できる。同じホワイトペーパーでは、「コントロールプレーンとデータプレーンをつなぐ初の標準プロトコル」といった、ぼかしたような書き方をしているが、事実上OpenFlowを前提としていると判断していいだろう。ONFのエグゼクティブ・ディレクターであるダン・ピット氏も「OpenFlowはSDNにとって不可欠な役割を果たす」と述べている。

NiciraのNVPをきっかけに、言葉の意味を再考する

 では、米NiciraのNVPのような製品はSDNではないのか。本連載の第2回でも説明したように、NiciraはOpenFlowベンダーではない。コントローラーとトンネル終端ポイントの間にOpenFlowプロトコルを使ってはいるが、それは上記のホワイトペーパーが示唆するような、ネットワーク全体の集中制御のためではない。分散トンネリングの制御のためだ。NVPという製品の目的はネットワーク仮想化であり、ネットワーク全体の集中制御ではない。

会員登録(無料)が必要です

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

新着ホワイトペーパー

事例 NTTドコモビジネス株式会社

5つの事例に学ぶ、多店舗ビジネスにおけるネットワーク運用課題の解消方法

多店舗展開を行う企業では、ネットワークの構成や運用ルールが店舗ごとに異なるケースが多く、管理の煩雑さや故障発生時の対応遅延などの課題を抱えがちだ。このような課題の解決策を、5つの事例から探る。

製品資料 NTTドコモビジネス株式会社

出社したのに接続できず遅刻? インターネット回線のトラブルをなくすには

「出社しているのに業務クラウドに接続できず打刻ができない」「オンライン会議が落ちてしまう」など、インターネット回線に関するトラブルは今も後を絶たない。そこで注目したいのが、法人向けに設計された高速インターネットサービスだ。

事例 NTTドコモビジネス株式会社

通信回線の逼迫をどう乗り越えた? 建設現場におけるネットワーク最適化事例

建設現場では、データの大容量化に伴う通信回線の逼迫が業務の障壁となるケースが増えている。本資料では、ネットワークの再構築により通信環境を最適化し、意思決定の迅速化や安全対策の高度化を実現した企業の事例を紹介する。

事例 NTTドコモビジネス株式会社

OS更新時の帯域逼迫とセキュリティ課題を解消、事例に学ぶネットワーク刷新術

セキュリティ対策に不可欠なWindows Updateだが、複数店舗・拠点を構える企業では回線が逼迫する要因であり、業務の停滞につながる大きな問題だ。あるアパレル小売チェーンの事例から、ネットワークの抜本的な改善策を紹介したい。

製品資料 NTTドコモビジネス株式会社

IT人材がいなくても大丈夫、工事不要で高速なWi-Fi環境を構築する方法

Wi-Fi環境は、業務の効率化や柔軟な働き方を支える重要な存在だ。しかし、従来の固定回線型Wi-Fiには、工事の手間や設置の制約といった課題がつきまとう。そこで注目したいのが、工事不要で導入できるWi-Fi製品だ。

アイティメディアからのお知らせ

From Informa TechTarget

「テレワークでネットが遅い」の帯域幅じゃない“真犯人”はこれだ

「テレワークでネットが遅い」の帯域幅じゃない“真犯人”はこれだ
ネットワークの問題は「帯域幅を増やせば解決する」と考えてはいないだろうか。こうした誤解をしているIT担当者は珍しくない。ネットワークを快適に利用するために、持つべき視点とは。

ITmedia マーケティング新着記事

news017.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

news027.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news023.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...