期待のスマートフォン用新OS
一足早い「Firefox OS」初心者用ガイド
スマートフォン用の新しいOSである「Firefox OS」が2013年後半以降に発売されるというニュースを既に聞いているかもしれない。このOSはどのようなものなのか。重要な点を整理して、Firefox OS の基本を紹介する。
そもそもFirefox OSとは?
スマートフォン界の新参者「Firefox OS」は、Webブラウザの「Firefox」、メールクライアントの「Thunderbird」などを世に送り出した米国の非営利団体Mozilla Foundationの製品である。Firefox OSは現在、開発者とスマートフォンのプロトタイプの開発者のみに提供されているが、2013年後半には一般消費者が手にするモデルにも搭載されることが期待されている。
Firefox OSは、オープンソースの非営利プラットフォームであるLinuxカーネルをベースとしている点は、米GoogleのAndroidと同様である。つまり本質的には、OSを構築したいと希望する全ての人に基盤として提供される。Firefoxが採用しているインタフェースはかなりシンプルなアイコンベースのタッチスクリーン式で、ホームスクリーンは複数画面にわたり、プルダウン式の通知メッセージ領域も備えている。
では、Firefox OSはAndroidと全く同じじゃないか、と思うのは早計だ。
確かにAndroidとFirefox OSはソースコードのコアとオープンソースの思想を共有し、ユーザーインタフェースもアイコンに至るまで、一見かなり似ている。しかし一般に、Androidは業界の主要なプレーヤーから「オープンな」モバイルOSとして認識されているが、Firefox OSはそれ以上にオープンであり、公式アプリストアのGoogle Playのような場所以外からの「サイドロード」(標準以外の手順でインストールすること)も容易だ。言い換えれば、各プレーヤーはデバイスを作るために、Googleのように事前にOSの供給元からのライセンスを得る必要はない。Firefox OSの開発者は、Google方式でもオープンとは程遠いと感じているからである。Firefox OSは完全なオープンプラットフォームとして設計されていて、現在のスマートフォンに従来備わっている機能の一部をサポートしないという選択をしているほど自由度が高い。
そこで、スマートフォンの購入を検討している人にとって、新たな選択肢になり得るかどうかの判断の参考にしてもらうために、Firefox OSの基本とユーザーへの影響力をひも解き、要点をまとめた。
1. Androidと似ているのは外観だけ
AndroidとFirefox OSは、共にLinuxをベースとし、ユーザーインタフェースも似ているが、共通点はここまでだ。まず、Firefox OSは一元管理をするためのアプリストアやエコシステムを持たない設計となっている。Google Playをビジネスモデルの中心に据えているAndroidとは対照的である。これは、OSは他の何物にも縛られるべきではないというMozillaの「オープン」な方針の一環だ。一元管理のための「アプリストア」はない。ある意味ではそもそも「アプリ」すら存在しないのだから。Firefox OSには、AndroidやiOSが採用している、いわゆる「ネイティブ」なアプリケーションはない。Firefox OS対応のアプリと、Firefox OSのインタフェースを開発するための言語はHTML5だ。必然的に、これらはダウンロード可能なWebアプリである。
この背景には、将来のアプリがより簡素化され、開発も容易になるという考えがある。というのは、HTML5が書ければ誰でもアプリを作成できるようになるし、他のプログラミング言語を学ぶ必要もない。すると、ローカライズも容易になる。どの通信事業者であろうとどこの国であろうと、独自の方法でアプリを配布することができるのだ。GoogleやAppleのように、ローカライズに関する固有の規則を本部組織が管理し、それを順守するという規制はない。このことは、次の点につながる。
2. 新興市場、特に低価格の端末向けに設計
Firefox OSは、欧米では消費者向けのスマートフォンの1機種として登場する可能性が高いが、実際に狙っている最大のターゲットは、中国、インド、アフリカのような新興市場での低価格の携帯電話端末である。現在、開発者向けのFirefox OS搭載スマートフォンは、通信事業者がスマートフォン割引を実施しなくても120ドルの安さで販売されている。さらに最終的には、実質販売価格で50ドル程度の低価格を目標としているようだ。販売マージンがもともと少額な機器であるということを考えても、この価格は明らかに破格の安さである。それだけに、仕様面でのニーズもそれなりのレベルとなる。
Firefox OSのデモモデルである、スペインの端末メーカー、Geeksphoneから出ている150ドルの「Keon」が搭載しているのは、わずか1GHzのシングルコアプロセッサ、画面サイズは3.5インチ、解像度は320×480ピクセル、メモリは4Gバイト。さらに低価格なモデルの仕様は、これよりもはるかにローエンドになるだろう。あらためて言うが、Firefox OSは、ローエンドの仕様に対応するために設計されたプラットフォームである。経済的に豊かとはいえない国や地域の人々のために、超低価格の手頃なスマートフォンを実現して普及させることを狙っている。
3. 競合する事業者は皆無ではない
Firefox OSがターゲットとしている低価格の携帯電話端末の分野でも、競争は既に起こっている。Google Playを含むGoogleエコシステムが搭載された、「正規ライセンス品」のAndroid携帯電話端末では、近い将来、実質的な販売価格が50ドルを切るものが登場する可能性は低い。しかし、ジェネリックな(ほとんどが中国製の)Androidクローン端末ならば、既にその価格帯に届くものが出始めている。その中から、結果的にFirefox OS端末の発売を阻むものが現れるかもしれない。Firefox OSよりも大規模でアプリも豊富なことで人気の高いOS(Android)が、Firefox OS端末が本来狙っていたユーザーをまんまとさらってしまうこともあり得る。Firefox OSが想定する購買層の人々は、「この端末の値段に少しだけ上乗せすれば、有り余るほどのAndroidアプリが動作する携帯電話が買えますよ」という売り手の言葉に心を動かされる可能性があるからだ。
だが、この予想は大外れかもしれない。新興市場の消費者の動向を予測するのはやはり難しい。また欧米諸国でも、ローエンド市場の消費者は、とにかく欲しいものを買う、という決断を下す可能性がある。唯一確かなことは、OSの人気は概して、動作するアプリの量と質で決まるということだ。
4. Firefox OSは利益を全く目的としていない
大手端末メーカーが払うライセンス料とGoogle Playから利益を得ているGoogleのAndroidとは違って、Firefox OSは利益を得るようには設計されていないし、今後もその予定はない。Mozilla Foundationはあくまで非営利団体で、ソフトウェアを作って利益を得ようとはしていないからだ。Mozilla Foundationの場合、アプリの開発費用は、寄付または互恵的な取引でまかなわれている。互恵的な取引の一例として、MozillaとGoogleとの間の取引が挙げられる。Googleは、人気の高いFirefoxブラウザのデフォルトの検索エンジンとしてGoogleを採用してもらうことと引き換えに、Mozillaに多額の資金を提供している(不思議に思う読者もいるかもしれないが、この取引には、ローエンドのスマートフォン市場でAndroidのパイをFirefoxが奪うことはないだろうという算段が働いている。GoogleはAndroidは自力でローエンド市場のシェアを取れるとみているようだ)。
ところで非営利という性質は、とらえ方によっては有利にもなる。Androidにはつきものの、ユーザーの操作履歴に基づく広告やCarrier IQによる操作情報の収集などの商業色や、特にAndroidで顔認証や生体認証の重要性が増していることに対して抵抗がある消費者にとっては、Firefox OSはむしろ魅力的だろう。
5. スマートフォンをより安くすることは、欧米のローエンド市場にも有効
Firefox OSは主に東半球の新興市場に狙いを定めていると推測されるが、だからといって西半球には希望はないと決めつける理由はない。50ドルのスマートフォンは、300ドル以上もするiPhoneやAndroid端末に比べれば使える機能が少ないとしても、厳しい経済事情下にある消費者には十分に魅力的だ。特に、スマートフォン割引を実施しない通信事業者が増えてきているので、低価格のサードパーティーのスマートフォンが受け入れられる余地は、間違いなくある。「Google Nexus 4」はかなりの成功例だ。通信回線契約は付かず、端末のみで299ドル(日本では2013年6月現在で未発売)の「ハイスペックな割には安い」スマートフォンが登場したことは、Firefox OS端末の狙いである、「通信回線契約のないが安価なスマートフォン」にニーズがあることの証拠といえよう。
結論
全てをいったん脇に置いて、Firefox OSは楽観的に見たとしても厳しい戦いに直面している。有利な面が幾つかはあるものの、単純な事実として、Firefox OSはスマートフォンの分野に最も遅れて参入するOSである。そこには既に2大勢力、AndroidとiOSが台頭しており、さらに「Windows Phone」と「Blackberry 10」も、現状からの巻き返しを図っている。
このような状況の中、スマートフォンの世界でほとんどのメーカーが売りたいと願っている、利益率の高いミッドレンジからハイエンド端末の分野で、Firefox OS端末が足掛かりを得ることは極めて難しい。Firefox OS端末が市場への参入に成功するかどうか、また、Firefox OS端末が欧米や他の国々のローエンド市場の開拓者となれるかどうかは、現時点では見通しが立てられない。しかし競争が激化しているスマートフォン市場での勢力争いで、Firefox OSが苦戦を強いられることには、疑いの余地はない。
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