Apple、Googleがクラウドで敷く「Microsoft Office包囲網」
オフィススイートに5万円払うのは時代遅れなのか?
仕事の必需品ともいえる「Microsoft Office」。その牙城を崩すべく、安価で便利なクラウドベースのオフィススイートが充実してきた。Microsoft Officeは、今後も優勢を維持できるのだろうか。
クラウドベースのオフィススイートが、データの作成および共有方法を根本から変えつつある。かつてはデスクトップPCで使うものだったオフィススイートが、今では事実上どこからでも、どの端末からでも使えるようになり、さまざまな場面で利用可能となっている。当然ながら、利用する企業の規模も問わない。これはまさに、企業が長年夢見てきたツールだといえる。
そこで問題となるのが次の点だ。クラウドベースのオフィススイートは、長きにわたって業界標準となっている米Microsoftの「Microsoft Office」に匹敵するレベルなのか? 今なお市場で優勢なMicrosoft Officeに、本当に取って代わることになるのだろうか?
参入で出遅れたMicrosoft
米調査会社Gartnerによると、多くの人々が考えるよりもはるかに緩やかなペースではあるかもしれないが、こうした移行は確かに起こりつつあるという。Gartnerの報告によると、オフィススイート市場では目下、クラウドサービスが全体の8%を占めている。だが予測が正しければ、2015年上半期には大きな移行が始まり、クラウドサービスのユーザーは2017年までに33%に増加し、さらに2022年までに60%に増える可能性があるという。
「ビジネス向けオフィススイートの将来はクラウドサービスに掛かっている。Microsoftが、将来的にも優勢を維持するとは思えない」。こう話すのは、クラウドベースのオフィススイート「Zoho」を提供する米Zohoのチーフエバンジェリスト、ラジュ・ベゲスナ氏だ。ベゲスナ氏は、「Microsoft Officeの廃退は確実である」との考えをほのめかす。
その裏付けとしてベゲスナ氏は、Windows以外のシステムで動作するスマートフォンやタブレットが世界中に普及し、その影響でMicrosoftのシェアが大幅に落ち込んでいる点に言及する。
「Google AppsやZohoといったクラウドベースのオフィススイートの利点を考えると、Microsoft Officeが今の立場を維持できるとは思えない。もはやデスクトップPCは重要ではない。重要なのは、オンライン接続の有無やスマートデバイスで業務を遂行できるか否かだ」と同氏は語る。
Microsoftは、既にZohoや米Googleが提供するクラウドの競合サービスにシェアを奪われている。だが遅ればせながら投入したクラウドベースのオフィススイート「Office 365」によって市場での勢いを取り戻し、今後は競い合っていけるかもしれない。だがそれは、Microsoftという強力なブランド力をもってしても簡単なことではない。
その上、Office 365は利用料金が高い。エンタープライズ向けのプラン「Office 365 Enterprise E3」は、利用料金が1ユーザー当たり月額20ドル(米国での価格、以下同じ)と非常に高く、企業の意思決定者が他の製品を選択する原因になりかねない。Office 365には、1ユーザー当たり月額5ドルからの低価格プラン「Office 365 Small Business」も用意しているが、最大ユーザー数が25人に制限されており、iPhone版やAndroid版の「Office Mobile」は利用できない。
企業ユーザー向けの安価な選択肢
ZohoやGoogleは、Microsoftよりもはるかに安価なサービスを提供し、企業ユーザーを取り込もうと躍起になっている。Zohoの有料プランは、1ユーザー当たり月額5ドルから用意されており、プレミアムパッケージ(同8ドル)ではメールとデータ用に、ストレージを最大1Tバイトまで利用できる。
Google Appsのベーシックなビジネスパッケージも同程度の料金だが、ストレージ容量は30Gバイトまでとなっており、足りない分は追加で購入する必要がある。
さらに、米Appleもクラウドベースのオフィススイートを提供する。Appleは現在、近くリリース予定の「iWork for iCloud」のβ版を新規iOS端末の購入者に無償で提供している(参照:iOS向けに無償化された「iWork」、「Microsoft Office」はどうする?)。
Zohoのベゲスナ氏によれば、こうした大幅に安価な料金は、企業が「Microsoft以外のオフィススイートを選択する」という決断を下す上で大きな役割を果たすはずという。「クラウドベースのオフィススイートのユーザーは、多額のライセンス費用を節約できる。かつてノートPCが5000ドルもした時代には、オフィススイートに500ドル支払うのも理にかなっていた。だがノートPCが大幅に値下がりした今、もはやオフィススイートに500ドルを支払う意味はない。50ドルなら問題ない。だが500ドルはおかしい」と同氏は語る。
Microsoft Officeの強み
ただし、Microsoft OfficeとOffice 365には明らかな強みがある。特に重要なのは、既にMicrosoft製品を中心に構築されているオフィススイートのITインフラとの互換性が高いことと、ユーザーが使い慣れていることだ。「こうした強みが鍵になる」と、米コンサルティング/市場調査会社Compass Intelligenceのチーフモバイルストラテジスト、ゲリー・パーディ氏は指摘する。
「データの規格が最も重要だ」とパーディ氏は強調し、次のように語る。「月額1ドル95セントのクラウドベースのオフィススイートがあっても、Microsoft Officeとの互換性がなければ話にならない。Microsoft Officeとのデータ互換性は必須だ」
移行を検討するのであれば、「データの互換性だけでなくユーザーの満足度も確実にする必要がある」と同氏は続ける。
エンドユーザーが鍵になるという点については、前出Zohoのベゲスナ氏も同じ意見だ。「Microsoft Officeからクラウドベースのオフィススイートに移行する企業にとって最大の難題は何だと思うか」と尋ねると、ベゲスナ氏は心理的な問題を挙げた。
「最大の問題はマインドセットだろう。例えばユーザーは、ドキュメントをメール送信する代わりに、共有する方法を学ぶ必要がある。ユーザーは数多くの小さな変更点に慣れなければならない」と同氏は語る。
大手各社の戦い
Compass Intelligenceのパーディ氏によれば、こうした要因が積み重なり、オフィススイート大手各社の戦いは天王山を迎えようとしているという。「企業がオフィス業務に利用するソフトウェアをめぐり、Google、Microsoft、Appleの間で戦いが繰り広げられている」と同氏は語る。
「AppleのiWorkはMicrosoft Officeと互換性があり、モバイル端末で便利に使える。またGoogleの『Quickoffice』を利用すれば、あらゆるAndroid端末からMicrosoft Officeファイルへアクセスして内容を更新できる」とパーディ氏は語る。
「Microsoftが事業を撤退するというわけではない。だが極めて真剣にこの市場を狙っている大手が存在しているのは確かだ」と同氏は続ける。
Microsoftにとっては1つの時代の終わりか?
数字も、パーディ氏が正しいことを示している。Microsoftは撤退したりはしない。Microsoftが発表した2013年第4四半期(4~6月期)決算はアナリストの予想を大きく下回る内容となったが、Office 365の需要増やMicrosoft Officeのアップグレード収益に後押しされ、売上高は199億ドル、純利益は49億7000万ドルとなっている。
「多くの大手企業が完全にクラウドサービスへ移行することはないだろう。それよりも、Microsoft Officeと互換性のあるクラウドベースのオフィススイートを取り入れ、状況やプロジェクトに応じて使い分けることになるのではないだろうか」とパーディ氏は指摘する。
「iOS版とAndroid版のベーシックなMicrosoft Officeがあれば、移行の動機付けは薄れる。Microsoftは、クラウドストレージを必要とするユーザー向けのサービスとして、個人や中小企業向けには『SkyDrive』、エンタープライズのファイル共有には『SharePoint Online』を提供している」(同氏)
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