IT変革力【第5回】
ビル・ゲイツはなぜ引退するのか!?
日本では、Web2.0の騒ぎはインターネットの世界の話で、企業のIT部門には直接関係ないと見る向きが圧倒的多数です。しかし、マイクロソフトのビル・ゲイツ社長は、Web2.0に対してジハード(聖戦)であると激を飛ばし、「サービス化の波に備えよ」と言っています。それはどういうことなのでしょうか……。
自己を変え、企業を変革するための「ITマネジャーのための変革力養成」講座の第5回。昨年秋にマイクロソフトのビル・ゲイツ社長が書いた「サービス化の波に備えよ」といったメモが公開され、Web2.0に対する既存のビジネス世界からの最初の大きな反応として非常に注目されました。これは、10年ぶりのマイクロソフトの聖戦だと位置付けられています。マイクロソフト社の置かれている現状の背景には何があり、今後どういった課題が提示されているのでしょうか。また、彼は何を感じ引退していくのでしょうか。そこから、われわれが今後の長期的な課題をどう考えていけばよいのかを考えていきましょう。
マイクロソフトのビル・ゲイツ会長は2008年に実質的な引退を表明しました。その背景にはWeb2.0の衝撃があると考えられます。
日本では、Web2.0の騒ぎはインターネットの世界の話で、企業のIT部門には直接関係ないと見る向きが圧倒的多数です。しかし、米国では事情が異なります。
昨年秋、米国でマイクロソフトのビル・ゲイツ会長が書いた「サービス化の波に備えよ」という話題のメモが全文公開されました。これはWeb2.0に対する既存のビジネス世界からの最初の大きな反応として非常に注目されました。
ゲイツ会長の最初の聖戦とは
マイクロソフトのビル・ゲイツ会長が書いた「サービス化の波に備えよ」は、10年ぶりの彼のジハード宣言(イスラムの聖戦宣言)だといわれています。
ゲイツ会長が最初にジハード(聖戦)を叫んだのは、90年代半ばのことでした。
今を去る1995年、マイクロソフトは長年の研究成果としてアップルに対抗するWindows95と呼ばれるグラフィック機能を備えたパソコンの標準OSを世に送り出しました。
しかし、1995年はネットスケープ設立の年でした。そしてジム・クラークとマーク・アンドリーセン率いるネットスケープがブラウザを開発し、世間の関心は急速にWindows95からインターネットとネットスケープのブラウザに移りました。そしてマスコミではマイクロソフトのインターネット対応の遅れが華々しく喧伝されていました。
折角、苦労して開発したWindows95が時代遅れというレッテルを張られてしまった訳ですね。
その時、ゲイツ会長が「これはジハード(聖戦)だ!」と叫んでインターネット・エクスプローラーという名の無料ブラウザを開発し、インターネットの世界に進出しました。
10年ぶりの聖戦の宣言
2005年秋、米国でWeb2.0のコンセプトの議論が広まり、マイクロソフトはWeb1.0の古い会社であり、グーグルには永遠に追いつけないだろうと言われ始めました。
| 2つの会社のタイプ | ビジネス形態 | 代表企業 |
|---|---|---|
| Web1.0タイプの会社 | IT ライセンスを提供している | マイクロソフト |
| Web2.0タイプの会社 | ITをサービスとして提供している | グーグル |
分かりやすく申し上げれば、「ソフトウェアのプロダクツをライセンスとして提供しているマイクロソフトは、基本機能の変更に数年かかる。バージョンアップにしても大変な時間と手間がかかる。一方、ITをサービスとして提供しているグーグルは、毎日でもサービス内容の変更ができる」といった両社のサービス内容の違いが深く認識され始めた訳ですね。そして最近のWindows Vistaの開発遅れは、米国社会のこの認識に拍車を掛けたと言われています。
これはオフィスなどのソフトウェア・プロダクツをWindowという名のパソコンOSに組み込んで提供するマイクロソフトの得意なビジネスモデルの否定を意味します。
そこでゲイツ会長は、「Web2.0のサービス化の流れに乗り遅れるな! これは聖戦だ」と社内に激を飛ばした訳ですね。
ここで理解しておかなければならないのは、Web2.0のもたらす今後2~3年の中短期的な課題と長期的な課題の区別でしょう。
まずはMSNのサービス収益の問題
さてマイクロソフトにとってWeb2.0によるサービス化の流れの中短期的な課題とは、マスコミからネットへの広告費のシフトのことです。
すでにこの流れは2005年から始まっています。そしてWeb2.0の指摘するうねりの中で、30兆円から40兆円といわれる米国広告費の一定割合がインターネットに流れると予想されています。その大部分をマイクロソフト傘下のMSNではなくてGoogleに持っていかれることに、彼は事業家として危機感を募らせています。
例えば現在、マスコミ活用において情報収集のために米国人がインターネットに費やす時間は、3割から1割5分と言われています。一方、インターネットに投資される広告費はわずか5パーセント以下な訳ですね。当然、これは自然に是正されます。
次の戦場は企業内のイントラネット
すでにGoogle は、SUNと組んでプロダクティビティアプリケーション「StarOffice」をマイクロソフトのドル箱商品である「Microsoft Office」に対抗し始めました。
それに対してマイクロソフトはWebベースの各種サービスを「ウィンドウズ・ライブ」の名称で推進しており、インターネットからイントラネットまでその守備範囲を拡大しています。
またゲイツ会長は、次世代のポータル商品である「オフィス・シェアポイント・サーバ2007」にWeb2.0の要素であるソーシャル・ネットワーキングを入れると言い出しています。
いままでオフィス・オートメーションからイントラネットまで、マイクロソフトが収益源としていた企業内の情報共有のビジネスがGoogleに揺さぶられ始めています。
これまで情報共有の革新はすべからくインターネット上で発生し、それがイントラネットに取り込まれる形態で進化が進んできました。今回も同じ流れでしょう。
すでに筆者もいくつかの企業に導入経験がありますが、イントラネットにブログやソーシャル・ネットワーキングの草の根型情報発信の要素を加えれば、全くオフィスの雰囲気が違ってきます。
長期的には基幹系システムにも必ず影響がある
ここはマイクロソフトにはあまり関係ない領域なので、みなさんご自身でお考えください。
これまで何度か申し上げていますが、Web2.0というのは、技術設計論的にはオープン化議論の進展の一環です。情報処理と通信の技術的社会的融合の中でネットワーク・コンピューティング(グリッド・コンピューティングやブレードサーバなども含む)が進展し、ハードであれソフトであれ、設計図面や設計技法、プロジェクト・マネジメント手法から組織論も含めて、その方向は「モジュール設計」の徹底にあります。
標準的なインタフェースの下でのコンポーネント型設計と軽い祖結合というWeb2.0の思想は、必ずや基幹システムのデザインや詳細設計、運用などにも大きな影響を与えることになると考えられます。
一葉落ちて天下の秋を知る。
ゲイツ会長はWeb2.0の荒波の前に、もはや自分の時代は終わったと感じたようです。そこで後継者たちの新しいアイデアに会社の命運を委ねる決断をした訳ですね。
マイクロソフトのゲイツ会長の危機感を深く認識しましょう。
(野村総合研究所 社会ITマネジメントコンサルティング部 上席研究員 山崎秀夫)
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