IT変革力【第8回】
Web2.0で始まったメディア・ミックス
数年後の企業内情報共有の動向を押さえるヒントは、米国の映画、放送業界で現在起こっているマーケティングにあります。現在どのようなことがインターネット上で起こっているのでしょうか。そして、米国で成功したマーケティングとはどのようなものでしょうか。
自己を変え、企業を変革するための「ITマネジャーのための変革力養成」講座の第8回。米国の映画界におけるマーケティングの成功は、今後のオフィスでの情報共有の仕方や、現在、日本で変化しつつあるワークスタイルに活用できるヒントが隠されています。現在のインターネット上で起こっていることを知り、今後のオフィス内の情報共有にどのように有効活用できるかを考えていきましょう。
インターネット上で起こったことは、数年遅れで必ずイントラネットで起こるというのが企業内情報共有を考える場合の鉄則ですが、数年後のオフィスを考えるヒントを得るために米国の映画、放送業界で現在起こっているマーケティングを眺めてみましょう。
まず筆者がWeb2.0で注目しているのは、Googleに代表される検索サービスに加えてCGM(Consumer Generated media)と呼ばれる、多くのインターネット参加者がブログやSNS(ソーシャルネットワーキングと呼ばれる社交倶楽部の仕組み)、その動画版である動画SNSや音楽SNSなどの草の根的な情報発信、社交用メディアであることをお断りします。
フォックス映画、X-MEN3のマーケティングの成功
2006年5月26日に全米で封切られた『X-MEN3 the last stand』は、週末の興行実績が第1位、史上4位となり、全米の映画、テレビ業界を震撼させました。これが3部作の最終章です。また日本ではファイナルデシジョンという名前で9月公開されます。
米国では、メモリアル・デイ(連休)を含めた5月26日~28日のウィークエンド・ボックスオフィスで、1億700万ドルを稼ぎ出しました。これは大ヒット記録だといわれています。公開第2週目とはいえ、第2位の有名な『ダ・ヴィンチ・コード』の3350万ドルを大きく引き離し、興行収入第1位を獲得しました。
通常、第3作目になると興行収入は前作にくらべて落ちる傾向が一般的です。しかし、今回は様子が異なります。
第1作目 オープニング・ウィークエンド 5447万ドル
第2作目 オープニング・ウィークエンド 8558万ドル
第3作目 オープニング・ウィークエンド 1億700万ドル
当初の国内売り上げ目標は2.1億ドル(約230億円)だった訳ですが、公演開始後1ヶ月後の売り上げはすでに2.25億ドル(約248億円)に達し、売り上げ目標を大きく上回っています。こんな大ヒットは滅多にありません。
米国の映画界は昨年あたりから、売り上げが伸び悩んでいる(興行収益が前年比マイナス)ということを頭に入れて置いてください。
マーケティングで活用されたWeb2.0メディア・ミックス
それでは、どのようにしてフォックス映画はX-MEN3のマーケティングを成功させたのでしょうか。実はその秘密はWeb2.0の中でソーシャル・メディアと呼ばれている新技術の組み合わせにあります。
映画X-MEN3のために活用された新しいポータルサイト(マイスペース)、約320万人の若者を囲い込んだSNS(マイスペース)の内部コミュニティ、彼らの書くブログ、プロモーション・ビデオを配布する動画SNS(マイスペース・ビデオとYouTubeのビデオ)などが組み合わせられてマーケティングのために活用されています。その上、フォックス映画を所有する有名なメディア王マードック氏のニュース・コーポレーションは、従来メディアのテレビや新聞をキャンペーンに活用しています。
これはWeb2.0系のブログなどのソーシャル・メディアが既存メディアと組み合わせられて展開された、初めての本格的マーケティング・キャンペーンの成功事例であると言えるでしょう。マーケティング用語ではこれをメディア・ミックスと呼びます。
その結果、フォックス映画は大量の若者を口コミ経由で映画館に動員しました。
このX-MEN3のマーケティングの成功は、6月に3大テレビ・ネットワークのNBCと動画SNSの新興トップ企業YouTube、ワーナーブラザーズとYouTube のライバルである動画SNS のGubaとの戦略提携を誘発しました。こうして既存メディアとWeb2.0系メディアとのメディア・ミックスが進行し始めました。
NBCは人気テレビ・ドラマ「オフィス」のキャンペーン用ビデオを動画SNS のYouTube上で視聴者に自ら製作してもらおうとキャンペーンを始めています。こうして草の根的なプロモーション・ビデオとマスコミの製作する「ドラマ」との組み合わせが始まりました。
Web2.0メディア・ミックスで未来のオフィスは実現される
さて筆者は、インターネットで起こったことは必ずイントラネット上で発生すると考えています。すでに2008年の引退を宣言したマイクロソフトのビル・ゲイツが指摘していますが、次世代の企業内ポータルであるシェアーポイント・サーバには、SNSが実装される方向にあります。またすでに多くの米国企業ではブログやRSS、Wikiといったソーシャル・メディア、さらにはフェースブックに代表されるSNSがペプシコーラやインテルなどの有名企業に導入され始めています。またマイスペース・ビデオやYouTubeなどはeラーニングの手段として注目されており、わが国の一部の企業でもテスト導入が検討されています。
さらに筆者はIP電話がこの流れに巻き込まれると考えています。米国の有名なパソコン通信のAOLはSNSの開始に当たり、インスタント・メッセージング機能を無料電話に発展させました。
これまでの企業が内外で作成する情報共有のためのポータルサイトは、本部からの情報発信中心であり、いわば公式マスコミ的なものでした。特に社内の情報共有の中心は本部から送られて来る通達に焦点が置かれていました。
それが現在、大きく変わろうとしています。その最初の走りが企業内へのRSSやブログ導入な訳ですね。まだ多くの企業では社長ブログと本部ブログ程度にしか活用されていませんが、今後はeラーニングのためやテレビ会議用の動画SNS、職縁社会を復活させるための社交と社交や知識共有SNSなどが、従来型のメディアである衛星放送、ポータルサイト、職制を通じた情報共有などと共に活用される時代が近づいています。
正社員は自律したプロフェッショナルになることを求められ、社員各自が自由な席に座るフリーレイアウトのオフィスや直行直帰型のワークスタイルが営業を中心に定着し始めています。そうなれば社長のメッセージや会社の戦略の浸透は、メディア・ミックスをいかに上手に活用するかが組織的コミュニュケーション能力の決め手ということになるでしょう。
すでに日本でも会社戦略や新組織体制を正式決定前に社員に公開し、草の根的な議論を呼び起こす、社員参加型のネットを活用したマネジメントが試みられ始めています。社員が自発的に情報発信するWeb2.0のCGMの時代には、トップや本社からの一方的なマスコミスタイルのメッセージだけでなく、認知心理学が「巻き込み効果」と呼んだ草の根型情報発信も同時に活用してマルチメディアのネットで社員を動かすマネジメントが定着するでしょう。フォックス映画はWeb2.0などのメディア・ミックスを活用して若者を映画館に動員しました。次は同じ仕組みで組織が社員を動かす番です。
(野村総合研究所 社会ITマネジメントコンサルティング部 上席研究員 山崎秀夫)
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