IT変革力【第9回】
ITシステムに素敵な名前を付ける意味は何か
開発されたITシステムには、各社名前を付けています。ITシステムに名前を付けているのは、ある意味や効果があるからです。その意味、効果とはいったいどのようなものなのでしょうか。
自己を変え、企業を変革するための「ITマネジャーのための変革力養成」講座の第9回。いつの頃からか、開発されたITシステムに、各社がさまざまな名前を付けるようになってきています。名前を付けるということは、なぜ必要で、どのような意味や効果があるのでしょうか。そして、そこから得られる結果とはどのようなものかを考えていきましょう。
いつの頃からか、開発されたITシステムに名前を付けるのが当たり前のようになってきています。販売目的の業務用パッケージ・システムのSAPやワークス・アプリケーションなどは言うに及ばず、各社共に自社システムにさまざまな名前を付けています。国鉄時代の座席予約システムはMARSというかっこよい名前でしたし、日立製作所が運営するインターネット共同センターには「FINEMAX」というスマートな名前が付けられています。このようなITシステムの名前には一体、どのような意味があるのでしょうか。ちょっと考えてみましょう。
名前の持つ暗示効果
一般に呼び名や名前は暗示効果があるといわれてきました。その最も分かりやすい例が映画にあります。その昔、一世を風靡した女優オードリー・ヘップバーンの主演作に有名な「マイフェア・レディ」があります。これは1964年の映画会社ワーナー・ブラザーズの作品ですが、花屋の娘さんを貴婦人にするという物語です。ブロードウェイとロンドンで大ヒットしたミュージカルの映画化です。物語の中で音声学の教授ヒギンズは、下町訛りの強い貧しい花売りの娘イライザに、毎日、毎日「あなたは貴婦人になれる」と言い続ける訳ですね。そして最後に彼女は立派なレディに変身します。
このようなことは一般的に、実現可能な話と考えられています。そして「ピグマリオン効果」と呼ばれ、心理学上有名な理論です。「ピグマリオン効果」とは、自分が創造した象牙の像に恋をしたキプロスの王ピグマリオンが、女神に頼んで像を本物の女性に変えてもらいます。そしてついに彼女と結婚するというギリシャ神話にちなんだものです。
「ピグマリオン効果」というのは、個人を対象とした暗示効果であり、集団を対象としたものではありません。集団を対象とした暗示効果は、社会心理学上「予言の自己実現」と呼ばれています。
なぜITシステムに集団的な「ピグマリオン効果」が必要なのか
さて、それではなぜITシステムに素敵な名前が必要なのか考えてみましょう。
規模の大きいITシステムのユーザーは、何千人、何万人に及ぶ場合があります。また当然、古いITシステムからの乗り換えや変更に対しては、相当の抵抗が予想されます。
また新しく導入するITシステムは、日々のルーチン業務の中で活用してもらわなければ生産性は向上しません。そのため、開発者もユーザーも協力会社も心を一つにしてITシステムの開発、導入、運用に取り組む必要があります。そのためには人々の心理をそちらの方向に動かさなければならない訳ですね。
ITシステムのネーミングは人々に夢を与える
筆者が知っている、あるソフトウェア会社のシステム・エンジニアの方は「私はボーイング航空機の設計をキャドシステムの『カチア』で行っているんだ!」と胸を張って語っていました。「ボーイング」、「カチア」といった名前が彼のプライドを大きくくすぐり、動機付けを強めていました。
素敵な名前の付いたITシステムは人々に夢を与えます。
ITシステムのネーミングは人々に変化の時を告げる
また新たな名前を持つITシステムは、ユーザーに対して時代が変わったと訴えかけ、変化を促します。例えば2011年、わが国では地上波が全てデジタル化されますが、その時には隅田川沿いに「第二東京タワー」が建てられ、そこからデジタル放送が行われます。「第二東京タワー」という名前は、人々の心に暗に時代の変化の風を送ってくれる訳ですね。
新しいITシステムの名前は「一葉落ちて天下の秋を知る」という中国の淮南子の言葉通り、変化の時を告げます。
ITシステムのネーミングは人々に仕事の愛着心を起こさせる
今でも車やバイク、飛行機を愛する人々の中には、愛車や愛機にまるで恋人のような名前を付けている人々がいます。これは非常に大切なことです。日常業務で活用するITシステムに対して少しでも愛着を持つということは、その分仕事を前向きに実行する動機付けに繋がります。
確かに機能面で優れ、使いやすい高品質なITシステムを安く、予定通り開発することは最も大切なことでしょう。しかし、それだけではユーザーの皆さんはITシステムを十分には使ってくれません。
ユーザーの皆さんにも協力会社にも、そして自分たち開発者や運用者にも夢を与えて動機付けとなる素晴らしい名前を考えましょう。
(野村総合研究所 社会ITマネジメントコンサルティング部 上席研究員 山崎秀夫)
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