“ファブレット”で営業スタッフの生産性向上
ノエビアも導入する「大画面スマホ」はタブレットの代わりになるのか?
化粧品や医薬品の製造販売を手掛けるノエビアグループが、大画面スマートフォン“ファブレット”を導入した。その用途とは何か? 選定の理由は? 担当者に聞く。
スマートフォンよりも画面が大きいが、タブレットよりは小ぶり。こうした大画面スマートフォン“ファブレット”に注目し、自社や傘下の事業会社に導入したのが、ノエビアホールディングスを持株会社とするノエビアグループだ。同グループがファブレットを導入した経緯やファブレットで利用しているシステムなどについて、ノエビアホールディングス 情報システム部の担当者に聞いた。
ファブレット利用の現状:報告業務や情報共有に利用、役員には決裁機能も用意
ノエビアグループは2013年4月から、事業会社の営業スタッフを中心に740台のファブレットを利用している。化粧品などを製造販売するノエビアに400台、医薬品や食品などの製造販売を手掛ける常盤薬品工業に300台、化粧品受託製造のボナンザに20数台を導入し、各事業会社の営業スタッフが1人1台のファブレットを持つようにした。その他、役員に20台弱を配布している。
ファブレットから利用可能にしているのは、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)のグループウェア「IBM Notes/Domino」のメールや社内掲示板、社内ニュースに加え、セールスフォース・ドットコムの営業支援SaaS「Sales Cloud」、独自開発の売り上げ照会用Webシステムだ。役員など部長以上の決裁者の一部は、Notesで開発したクライアントアプリケーション(Notesアプリケーション)である決裁機能も利用できるようにした。Dominoや売り上げ照会用Webシステムへは、VPN経由でアクセスする仕組みを取る。
ファブレット導入の経緯:営業スタッフ本来の業務に専念できる環境を
ノエビアグループがファブレット導入に踏み切ったきっかけは、グループの中核企業であるノエビアが抱えていた課題にあった。「営業スタッフが本来の営業活動に専念できるようにすることが課題となっていた」と、ノエビアホールディングス 情報システム部 課長の滝川 奈緒美氏は説明する。
販売代理店による訪問販売を主力事業の1つに据えるノエビア。同社の営業スタッフの主要業務は、販売代理店が開催する販売会の支援業務や行動管理だ。営業スタッフには、業務用のノートPCを支給。ノートPCから社内システムへアクセスし、行動管理といった業務を進めてもらう形を取っていた。
ノエビアでは、ノートPCでパンフレットなどの資料を作成する営業スタッフも多い。資料作成に役立つツールがそろったノートPCを使うと、営業スタッフの工夫次第で見栄えのよい資料を作れてしまう。それ自体はよいことだが、「見栄えにこればこるほど資料作りに熱中し、余分な時間を費やしてしまう傾向がある」(滝川氏)。結果として、営業スタッフの業務効率の低下を招いていたという。
さらに、ノートPCや従来型携帯電話の更新時期が迫っており、端末の刷新をしなければならないという課題もあった。特に、ノートPCの搭載OSはWindows XPであり、2014年春に正式サポートが終了するため、サポート終了前までの刷新が急務となっていた。
“3種の神器”からファブレットへ
こうした背景を踏まえ、行動管理や販売促進といった本来の業務に専念できるよう、営業スタッフの仕事を見直しに着手したノエビアグループ。同グループは営業スタッフに占める女性の比率が高く、ノートPCの重さも課題となっていたこともあり、ノートPCを前提としない業務プロセスの検討の機運が高まった。
同社はこれまで、営業スタッフにノートPCと従来型携帯電話を1人1台支給しており、ノートPCからの通信を可能にする共有の通信カードも配備していた。検討の結果、この「3種の神器」(滝川氏)の支給を取りやめることを決断。代わりにスマートデバイスを導入する方向で検討に入った。
2012年9月に始まったスマートデバイスの導入検討プロジェクトでは、コストと業務の両面から、導入後にどういった効果や影響があるかを検討。選定作業の末、2013年4月にファブレット導入に至った。
ファブレット選定理由:画面の大きさとVPN接続が鍵
ノエビアグループが選定したのは、5インチ以上の大画面を持つ韓国Samsung Electronicsのファブレットである「GALAXY Note II」だった。「今までノートPCでやっていた業務をカバーしないといけないので、ある程度画面が大きくないと使いにくい」(滝川氏)と判断。「選定当時にスマートフォンの中では一番画面が大きかった」(同氏)というGALAXY Note IIを選択した。
同社が利用するシスコシステムズ製VPN製品へ接続する専用クライアントソフトである「Cisco AnyConnect Secure Mobility Client」が、Samsung製Android端末向けに先行提供されていたことも、端末選定の鍵となったという。
実はノエビアグループは、端末に優先して通信事業者の選定を進めた経緯がある。販売代理店があるのは地方が中心であり、「全国各地で安定して通信できる通信事業者であることが大前提だった」と、ノエビアホールディングス 情報システム部 課長代理の水門陽介氏は語る。既に従来型携帯電話でも契約し、利用実績もあったNTTドコモと継続して契約。NTTドコモが提供する端末の中から選定を進め、上述した理由からGALAXY Note IIの導入に至ったという。
タブレットも導入、ファブレットの限界を補う
ノエビアグループは、ファブレットと併せてタブレットの導入も進めている。ファブレットのように1人1台ではなく、営業スタッフ2、3人に1台程度のタブレットを導入し、共有してもらう考えだ。個人的にiPadなどのタブレットを所有している現場の営業スタッフから、「『タブレットでプレゼンテーションをしたい』とか、『新製品やチラシを顧客に見せるときにタブレットを使いたい』といった声を多く受けていた」(滝川氏)ことが、タブレット導入の背景にあるという。
画面が比較的大きいファブレットがあれば、タブレットを導入しなくても十分なのではないかという疑問も残る。だがノエビアグループは、「ファブレットでできることと、できないことがある」(ノエビアホールディングス 情報システム部の青木 隆氏)と判断し、ファブレットとタブレットの組み合わせを選択した。
利用者だけが画面を見る業務処理であれば、ファブレットでも快適に利用できる。だが「他人に資料を見せるといった用途の場合、ファブレットの画面サイズでは厳しい」(青木氏)と判断。ファブレットにタブレットの役割を期待するのではなく、「ファブレットはあくまでもスマートフォンとして利用することを考えて導入を進めた」(水門氏)という。テザリングが可能なファブレットは従来型携帯電話と通信カードの代わり、タブレットはノートPCの代わりという位置付けだ。
「全てを一気に入れ替えると現場が混乱する恐れがあった」(滝川氏)ため、タブレットの導入はファブレットよりも遅らせており、現在はファブレットと既存のノートPCを並行運用している。タブレット導入完了後は、営業スタッフが利用しているノートPCを撤廃する。Microsoft Excelファイルの作成などクライアントPCが必要な作業をする場合は、オフィスに設置したデスクトップPCを共有する形を取る。
“3度目の正直”で導入へ、SaaS導入が後押し
ノエビアグループがスマートデバイス導入を検討し始めたのは、今回が初めてではない。同社は、2010年ごろからスマートデバイスの導入を検討。過去2度あった導入プロジェクトでは、iPhoneを含めさまざまな端末の導入を検討してきたものの、導入までこぎ着けることはできなかった。今回の第3次導入プロジェクトで「機が熟した」(滝川氏)と判断、今回のファブレット導入に至ったという。
ファブレット導入の動きを後押ししたのが、ファブレットとほぼ時を同じくして検討を進めたSales Cloudの導入だ。
同社の営業スタッフは今まで、Notes/Dominoを使って行動管理をしてきた。だがNotesアプリケーションを使い込んだ結果、登録済みの文章数が増大。「レスポンスが遅くなり、業務効率が悪化していた」(滝川氏)という。
こうした中、2013年1月ごろにセールスフォース・ドットコムからSales Cloudの提案があり、Notesアプリケーションのレスポンスの遅さを解消する手段として、Sales Cloudの導入検討を進めた。セールスフォースからの説明を受け、Sales Cloudがスマートデバイスからの使い勝手に配慮しており、ファブレットとの相乗効果が図れると判断。Sales Cloudの導入に至ったという。
Sales Cloud導入を機に、今までNotes/Dominoが担っていた日報などの営業記録処理をSales Cloudに集約。一般営業スタッフの場合、週報も廃止した。現在Sales Cloudを利用しているのは、ノエビアと、常盤薬品工業の化粧品ブランド「ノブ(NOV)」の事業部だ。今後は、常盤薬品工業の他事業部にも導入を進めていくという。
ファブレットの導入効果:“遅いPC”から解放
ノエビアグループの従業員がファブレットのメリットとして評価する声が多いのは、当然ではあるが画面の大きさだという。「営業スタッフからは、『画面が大きく、メールや売り上げ実績の文字や数字が見やすい』という声が挙がっている」と青木氏は語る(画面1)。
また、ファブレットと併せて導入したSales Cloudに営業記録の報告機能を集約したことにより、「起動の遅いWindows XPのノートPCを立ち上げなくても、営業記録の報告ができるようになったことも好評」(同氏)だという(画面2)。管理者にとっても、「誰がどこで何をしているのかをタイムリーに把握したり、地方の営業拠点の営業スタッフの状況を本部でリアルタイムに確認したりできるようになったのが利点」(滝川氏)だと評価する。
スマートフォンよりも画面が大きいファブレットは、多くの人にとって片手で操作するのは難しいというデメリットもある。だがこのことに関して、今のところ不満の声は聞かないという。「ノエビアグループの営業スタッフの多くは女性であり、そもそも私物のスマートフォンも両手で操作している人が多かった」(滝川氏)ことが、その背景にある。
セキュリティ対策:ホワイトリスト化で業務専用端末に
ノエビアグループがファブレットのセキュリティ対策の主軸に据えるのが、モバイルデバイス管理(MDM)製品だ。第1次導入プロジェクトのときから「スマートデバイスを導入する際は、MDMが必須だという考えがあり」、動作検証をしてきたという。MDM製品が備えるアプリケーションのホワイトリスト制御機能(管理者が指定したアプリケーションだけを利用可能にする機能)を利用し、ファブレットで利用できるアプリケーションを制限するのが、主な使用方法だ。
ホワイトリスト制御をしているため、従業員がファブレットへアプリケーションを追加することは基本的にできない。こうした制御方針について、従業員からの苦情は現在のところ受けていないという。「既に個人でスマートデバイスを持っている割合が多いので、会社支給の端末は業務に特化したアプリケーションのみを使えれば十分だと考える従業員が多いと考えている」(青木氏)
管理画面と国産の安心感がMDM選定の基準
MDM製品には、アイキューブドシステムズの「CLOMO MDM」を採用した。選定の決め手となったのが、管理者権限の階層化機能だ。
ノエビアグループでは、MDM製品の管理自体は情報システム部が担当するが、運用時には委託先のヘルプデスクメンバーにMDM製品の操作を任せている。この際、「委託先に管理者権限を全て渡すことには問題がある」(青木氏)と判断。CLOMO MDMが持つ管理者権限の階層化機能を使えば、委託先にヘルプデスク業務に必要な権限だけを付与できることを評価した。
それに加え、ホワイトリスト制限やリモートワイプ、リモートロック、ポリシーの配布といった同社が必須だと想定した機能が利用できること、管理画面の操作性が他製品と比べて高いと評価したこと、国産製品なのでトラブル時のレスポンスが早いと考えたことなどから、CLOMO MDMの選定に至った。
通信事業社が提供するMDMは、選択肢から外したという。「将来的に通信事業者を変更する可能性もあるため、そのときにMDMも変更するという手間が発生することを避けたかった」(水門氏)からだ。
ホワイトリスト制御には課題も
CLOMO MDMの基本機能については、これまで大きな問題なく利用できているというノエビアグループ。ただし「最初は混乱した」(青木氏)というのが、ホワイトリスト制御の設定方法だ。CLOMO MDMは、アプリケーション名ではなく、アプリケーションのパッケージ名(例えば「マップ」の場合、「com.google.android.apps.maps」)で制御する仕組みを取ることが背景にある。
同社は、制御したいアプリケーションのパッケージ名が分からない場合、アイキューブドシステムズからのアドバイスを得ながら制御設定を進めた。こうしたことから、「電話などの主要アプリケーションをまとめた基本リストをテンプレートとして用意してもらえるとありがたい」(水門氏)と要望する。アイキューブドシステムズは、今後の機能強化での改善を模索しているという。
またマルウェア対策については、CLOMO MDMのホワイトリスト制御を補う目的で、GALAXY Note IIにプレインストールされているマルウェア対策ソフト「ドコモあんしんスキャン」を利用している。
今後の展開:BYOD解禁の要望にどう対処するか
ファブレットについて、ノエビアグループの営業スタッフは「満足している」(青木氏)というが、今後改善すべき課題もある。現状、ファブレットからはDominoベースの掲示板の閲覧はできるが、編集や書き込みができない。また、営業スタッフは「集計業務でExcelファイルを頻繁に利用するので、Excelファイルを編集してアップロードできるようにしてほしいという要望もある」(青木氏)。こうした課題について「解決に向けて取り組みたい」(同氏)と意気込む。
営業スタッフからは「『私物端末を使わせてほしい』という声が根強くある」(滝川氏)といい、私物端末の業務利用(BYOD)も検討はしているものの、現状では採用していない。「統制面の課題を全てクリアしようと思うと、BYODはハードルが高い」(同氏)と判断しているからだ。
ノエビアグループがBYOD解禁の課題だと考えるのが、「従業員の退職時に、端末が回収できない」(水門氏)ことである。現状のセキュリティ対策はMDM製品が中心だが、「私物端末に業務データを残さないようにしないといけないとすると、MDM製品だけではなく、端末内に会社用の領域を作り、その部分だけワイプできる製品が必要になる」(同氏)ことも考慮しなければならない。
とはいえ、同社はBYOD解禁の可能性を否定しない。「会社が端末を提供せず、全て私物端末にするぐらいのことまでできる環境になれば、BYOD解禁も検討の価値がある」(滝川氏)
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