IT変革力【第25回】
携帯電話番号ポータビリティ戦争に大きな影響を与えるかSNSマイスペース
「予想外割」などソフトバンクモバイルの番号ポータビリティ制度開始に伴うサービス戦争に始まり、さらにソフトバンクと米国のマイスペースとの提携も決まって、携帯電話戦争にも新しい現象が見え始めました。これらの新しい動きは一体、どのように理解すればよいのでしょうか。
今回はちょっとしたシナリオアプローチの手法でコラムを書きました。
2006年11月、米国のマイスペースがソフトバンクと組んで日本に進出しSNSサービス(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の提供を開始しました。
一方、ソフトバンクは携帯電話番号ポータビリティ制度の下、顧客の取り合いを活発に行っています。初戦で多少味噌を付けましたが、あれはほんの序盤戦での小さなエピソードにしかすぎないと思われます。
そこで、このSNSサービスの開始と携帯電話番号ポータビリティ制度下での顧客の囲い込みという2つの動きは、急速に融合するという仮説を考えてシナリオを書いてみました(文字数の関係から描いたシナリオは1本だけですが)。
携帯電話戦争とSNSサービス戦争の一体化が本格化する
これは非常に新しいトレンドですが、番号ポータビリティで沸く我が国通信・電信市場にSNSの融合の動きが既に始まっています。
auを展開するKDDIはSNSの老舗グリーと組み、共同でモバイルSNS「EZ GREE」のサービスを2006年11月から開始しました。また、ソフトバンクモバイルを運営するソフトバンクは米国のトップSNSであるマイスペースと共同で、日本国内での展開をし始めました。最近、YouTubeやマイスペースなど米国のサービスもモバイルに力を入れているので、ソフトバンクとマイスペースの共同事業も自然に携帯電話戦争に巻き込まれていくでしょう。
携帯電話の世界は奇々怪々な動きをしている?
携帯電話戦争は単に番号ポータビリティだけの世界ではなく、あのミクシィで知られるSNSのサービスまで絡んできています。SNSのようなネットの社会環境が一種の技術サービス環境であるプラットフォームの携帯電話戦争に絡むというのは、過去の電話サービスの歴史になかった全く新しい現象です。かつての、ヤマハによるピアノというインフラの販売にヤマハ音楽教室というサービスをかぶせてきた形態に似ていなくもありませんが。
これらの新しい動きは一体、どのように理解すればよいのでしょうか? 従来型の電話サービスのレンズでものを見ていると混乱します。
昔、戦前の日本には平沼騏一郎という首相がいました。この方は独ソ不可侵条約が突然、締結されたので首相を自ら辞任したことで有名です。なぜなら、お互いに敵同士だと考えていた右のファシズムを代表するナチス・ドイツと左を代表する共産主義のソビエト連邦が手を結び、ビックリしたというわけです。彼は辞任時に「欧州情勢は奇々怪々」という有名な言葉を残しています。「独ソ不可侵条約とは、さっぱりわけが分からない出来事だ」という意味です。
現在、携帯電話など通信、電話の世界に起こり始めているのは、このような「奇々怪々」な事態だと思われます。
背景にはWeb2.0の潮流がある
それでは一体、携帯電話の世界では何が起こっているのでしょうか? その背景にはWeb2.0と呼ばれるボランティアと、広告費のマスコミからインターネットへのシフトに支えられた無料経済の台頭があります。このボランティアが支える世界は「コモンズ(入会地)」と呼ばれるネット上の穏やかな社交の世界であり、広告費のシフト規模はWeb2.0の経済的影響力を支えると考えられます。
携帯電話ネットワークを含むインターネットという基盤上に、村の入会地というべき「穏やかなコモンズ」ができ始めているというのがWeb2.0の理解の基本です。そして、日本のGREEや米国のマイスペースなどのSNSは、この「穏やかなコモンズ(村の入会地)」の具体的な形と考えられます。そして、携帯電話ネットワークを含むインターネットは、「穏やかなコモンズ(村の入会地)」を支える基盤なわけです。携帯電話網や固定電話網のインターネットへの一体化は、日本の場合、総務省が推進する次世代IPネットワーク構想の下、日本電信電話株式会社ら三大通信・電話事業者が共通に持つNGN構想により2010年を目指して整備が進んでいます。2011年7月までには、NGNに全ての地上波放送網が再放送という形態で吸収される可能性が高いです。
さて、ボランティアと広告費に支えられるWeb2.0経済は、情報系の商品やサービスに対して無料化圧力を強めてきます。音楽や書籍、ビジネスソフトなどが対象になっていますが、スカイプなどの動きを見ていますと電話サービスも例外ではないようです。
すでに米国では、プロバイダー事業から撤退したAOLが同社のインスタントメッセージングの活用者4100万人を囲い込むため、無料電話のサービスを開始しています。そして、4100万人に対しSNSとしてのAIM Pagesという名の「穏やかなコモンズ(村の入会地)」を提供しようと計画中です。
そして、他社のサービスとの接続に関しては付加価値として、比較的高い料金を取ろうという戦略が計画されています。
以下参照
▼AOL to Add Free Phone to Instant Messaging Feature
筆者は「予想外割」などソフトバンクモバイルの番号ポータビリティ制度開始時のサービス戦争に端を発し、さらにマイスペースとの提携へと進んだ一連のプロセスは、このAOLの戦略に酷似していると考えています。AOLは4100万人の無料電話サービスの替わりに広告を載せる方向です。そうなれば当然、ソフトバンクモバイルもYahoo!JAPANなどとの間で広告戦略に関する何らかの動きが進んでいると考えてもおかしくはありません。
携帯電話の囲い込み戦争は「穏やかなコモンズ(村の入会地)」の戦争になるかもしれない
すでにKDDIはSNSの老舗グリーと組み、共同でモバイルSNS「EZ GREE」のサービスを始めています。ソフトバンクモバイルがマイスペースを携帯電話戦争に巻き込んだとしても全然、おかしくありません。そうなれば最大手のNTTドコモが出遅れているということになりかねません。
携帯電話戦争は以下のような二層で戦われる可能性が強くなります。
第一層 技術的な仕組みとしてのプラットフォーム
第二層 穏やかなコモンズ(村の入会地)としてのSNSの魅力
携帯電話戦争の勝負は意外にも穏やかなコモンズ(村の入会地)としてのSNSの魅力でつくかもしれません。
そうなれば、例えばミクシィのようなSNSサービスとしてのコモンズに魅力があるから、携帯電話サービスもコモンズを支えるA社のサービスに留まっているという時代が来るかもしれません。
あえて言うと、「穏やかなコモンズ(村の入会地)」は携帯電話戦争の最終兵器になる可能性があります。英語ではキラーアプリケーションと呼ばれていますが。
勝者は2つの領域で1人勝ちをする?
携帯電話の囲い込み戦争とSNSサービスの広告費獲得競争は、両方押さえたところが1人勝ちをするだろうというのがこのシナリオの結論です。
そうなれば、ミクシィはNTTドコモあたりと組む必要性が出てきます。
このシナリオが成立するためには、まずその前に米国マイスペースは、ソフトバンクと組んで携帯電話戦争の台風の眼になる事が前提です。
このあたりのシナリオが誰の目にも明らかになるのはマイスペースが本格サービスを始める2007年春頃でしょうか。
ソフトバンクに代表される携帯電話サービスと、マイスペースのようなSNSの動きに注目しましょう。
(野村総合研究所 社会ITマネジメントコンサルティング部 上席研究員 山崎秀夫)
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