IT変革力【第2回】
ネット・コミュニティーを活用したITによる柔らかな内部統制の確立
内部統制の仕組みを作りに、ネット・コミュニティーを利用する動きが生まれつつある。それは、社員の創造性や情報感度が失わずに企業内の硬直化を防ぐ「柔らかな」内部統制だ。
自己を変え、企業を変革するための「ITマネージャーのための変革力養成」講座。第2回では、現在、最も注目を浴びているテーマの1つといえる内部統制の新しいアプローチを紹介する。内部統制の仕組みを作り上げる際、あまりに硬直的な制度を作り上げてしまうと、社員の創造性や情報感度が失われるなどのリスクの増大が想定される。このようなリスク回避のアプローチとして、ネット・コミュニティーを利用した「柔らかな」内部統制の動きが生まれつつある。
内部統制制度の確立と組織の硬直化リスク
エンロンやワールドコムによる粉飾決算事件を契機として2002年に導入されたサーベイン・オックスレイ法(SOX法)と同じ趣旨の法律(通称、J-SOX法)が2009年3月より、わが国にも導入される見通しとなっています。新たな法律である金融商品取引法として国会で審議される予定ですが、通過は確実でしょう。
また、2006年5月より施行された新会社法では、内部統制の仕組み作りを役員会で決議することを促しています。
わが国にもついに実務面からコーポレートガバナンスを尊重し、具体的な内部統制を確立する時代が到来したようです。その結果、わが国の上場企業は業務の見直しにてんやわんやの状況となっています。
先行する米国では、上場企業の内部統制の仕組み作りに多大な時間と人手、およびコストがかかったと言われています。
わが国でも対象領域を明確にし、リスクを洗い出し、文書化を行い、テストを行うといったリスクの洗い出し業務やドキュメント作成業務に時間がいくらあっても足りない状況、非常に人手とコストがかかる状況が出現しています。
さて気掛かりなのは、コストと時間、人手を大量にかけて立派な内部統制を作り上げた場合、確かに当座のリスク管理はうまく進むかもしれません。しかし一方で、得てして硬直的になる傾向の強い内部統制の仕組みができ上がることにより会社の柔軟性が失われ、社員の創造性や情報感度が失われ、かえってリスクが増大する危険がある点を忘れてはならないと思います。
このような制度が整いすぎると同時に組織の硬直化が進むという問題点は、企業上場に伴う制度面の整備の際、多くの企業で指摘されています。
「統制環境」および「情報と伝達」に対する施策に注目
それでは柔らかい内部統制の確立という施策は有り得るのでしょうか。もちろん、必要最低限のリスクの洗い出し、リスク回避手続きの文書化、有効性のテストと見直しは実施しなければなりません。そのうえで、どんな手立てがあるのでしょうか。
日本版SOX法(金融商品取引法として予定されている)、米国のCOSOフレームワークの発展系として内部統制上の目的を以下の4つに絞っています。
(1)業務の有効性と効率性
(2)財務報告の信頼性
(3)適用される法令の遵守
(4)資産の保全
また、内部統制の構成要素として以下の6点が挙げられています。
(1)統制環境
(2)リスクの評価と対応
(3)統制活動
(4)情報と伝達
(5)モニタリング
(6)ITへの対応
対象業務の範囲を決め、リスクを洗い出し、リスク回避手続きを文書化するという作業は、リスクの評価と対応や統制活動、さらにモニタリングの領域が対象になります。そして、多くの上場企業や世のコンサルティング会社などは、この硬いアプローチを解決策として推進し始めています。
一方、統制環境や情報と伝達などの経営者や社員のモラルに関係する領域は、リスク回避手続きの文書化などの硬いアプローチでは対応できません。もっと柔らかいアプローチが求められます。
それは一体、なぜでしょうか。
統制環境とは経営者の経営姿勢や倫理的な側面であり、企業の風土や社員の倫理観によるものとされています。そして高度成長期の日本企業は、年功序列制や終身雇用制が確立しており、会社を愛するという集団的な倫理規範や一体感が確立していました。しかし、バブルの崩壊後、家族帯同の運動会や運動部が廃止され、飲み会や社員旅行も下火になっています。また、人材の流動化で中途採用者が増加し、男女雇用機会均等法の強化により女性の能力発揮なども大きな課題になっています。また社員はプロフェッショナルへの道を求められ、他者への無関心が助長されています。
ひと昔前、NHKの大河ドラマで取り上げられた『宮本武蔵』は、プロフェッショナルへの道はいかに孤独な道なのかを視聴者に教えてくれました。
さて、そうした中で日本企業の統制環境が緩んできたという指摘があります。
また、情報と伝達という構成要素は、経営者がバッドニュースを知らないとしたら、これは内部統制上の重大な欠陥だという意味です。
このような課題を解決するためにITを活用した柔らかいアプローチが注目を集めています。
ブログなどの活用と内部統制問題解決
インターネット上で個人が自由に情報を発信するブログや、お互い同士が親密な関係を作り合う仕組みであるソーシャルネットワーキングをご存知でしょうか。現在、先進的な企業では、ブログやソーシャルネットワーキングによる社内ネット・コミュニティーが柔らかな内部統制の切り札として注目を集めています。
プロフェッショナルへと成長する社員は、得てして他者に無関心となり、人間関係が冷たくなりがちです。そのような社員が忙しい中、社内ネット・コミュニティーにより社内でいろいろな情報発信をしたり、お互いに親密な関係を作り上げることの重要性が認識され始めています。
社員がプロフェッショナルになる時代の新しい規範は、プロフェショナルへと成長する社員同志の健全な交流の中からしか生まれません。また、新しいアイデアの創出や知識・情報の共有を有効なものにすることも、社員間の信頼関係を前提とします。そしてネットを媒介としたプロフェッショナル同志の交流は、新しい社風を生み出す可能性があります。ブログやソーシャルネットワーキングを活用したネット・コミュニティーが先端企業で果たしている役割は、まさに統制環境の確立であると言えましょう。
また、驚くべきことにブログやソーシャルネットワーキングをうまく活用し始めた企業では、「2ちゃんねる」礼賛論が聞かれ始めています。「2ちゃんねる」とは、インターネット上で荒らしが起こったり、参加者同志がお互いに対立したり、企業批判が飛び交う悪名高いサイトです。
それではなぜ、企業内で「2ちゃんねる」礼賛論が巻き起こっているのでしょうか。
2006年4月より公益通報者保護法が施行されました。分かりやすくいえばその結果、社員には社内の不正を告発する権利が与えられました。社員がマスコミや関連官庁などに内部告発することを考えたら、明らかに社内に「2ちゃんねる」があったほうが企業にとっては都合がよい訳です。これは内部統制の構成要素上、「情報と伝達」に相当する訳ですね。社内「2ちゃんねる」でいろいろな問題が表面化すれば経営者の耳に届きます。そうなれば、バッドニュースを経営者は把握できることになります。
かつて、日本の上場企業経営者があれほど嫌がっていた社内「2ちゃんねる」が、先進企業において礼賛され始めました。
(野村総合研究所 社会ITマネジメントコンサルティング部 上席研究員 山崎秀夫)
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