「所属している人数さえ答えられない」英陸軍のデータ管理改革退役予定者のデータも間違っていた

「陸軍に所属している人数さえ答えられないほど、信頼できるデータがなかった」英陸軍。データ品質向上プログラムで品質とガバナンスを向上させ、陸軍の現状把握と効率化を実現しつつある。

2013年06月25日 08時00分 公開
[Brian McKenna,Computer Weekly]
Computer Weekly

 2012年11月にフィリップ・ハモンド英国防相は、英国陸軍のデータ品質向上プログラムでは、新たな取り組みとして「陸軍全体」つまり正規軍と国防義勇軍の両方の兵士データを統合していくことを発表した。

 最近ロンドンで開催された英IRM UK主催の年次イベント「Data Governance Conference」において、Army Personnel Data Management Organisation(APDMO:英陸軍人事データ管理機関)の代表を務めるマーティン・リッチリー氏は、陸軍全体という考えが今後のデータ品質およびデータガバナンスの取り組みに反映されるとしているが、具体的にどのような対応になるかは現時点では不明だ。

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 「粗悪なデータに起因する資金、運営、風評上のリスクを負っているのは基本的に正規軍であるため、当初は国防義勇兵は考慮せず正規兵のみを対象にしていた。しかし、『Strategic Defence and Security Review』(戦略的防衛および安全保障の見直し)とその中の予備軍に関するセクション『Future Force 2020』によって、その方針は覆った。現在では義勇軍のデータ品質の改善にも取り組んでいる」とリッチリー氏は説明する。

 British Army Headquarters Land Forces(英国陸軍本部陸上部隊)の人員調整局において要員システム担当アシスタントディレクターを務めるジャイルズ・バクスター氏は、2年前の本誌Computer Weeklyのインタビューの中で、陸軍のデータ品質向上プログラムが、いかにコスト管理および要員計画を改善し、優れたビジネスインテリジェンスの布石となっているかを語っている。

 バクスター氏によると、JPA(Joint Personnel Administration:統合人材管理システム)の導入以来、データ品質の問題を解決した陸軍の経験が、他の大規模な非軍事組織にとって教訓になっているという。中でも、ITに問題解決を任せるのでなく、データ品質の問題を抱えている事業部自体が責任を持って対応すべきであるという教訓は、特に強い影響を与えている。

 JPAは、データ層ではなくプロセス層を基盤にしていたという。「各兵士の情報を記録したデータテーブルは1つもなかった。われわれ全員が見落としていたことは、JPAのデータは他の戦略的計画プロセスを左右するということで、要員計画はその1つだった」とバクスター氏は明かす。

 「陸軍に所属している人数さえまともに答えられないほど、信頼できるデータはないに等しかった」(バクスター氏)

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英陸軍データ品質向上プロジェクト

 英陸軍のデータ品質向上プロジェクトは、2008年12月にコンサルティング企業のBAE Systems Deticaの主導でデータ管理およびガバナンスプログラムが開始されたことで、本格的に動き出した。BAE Systems Deticaの協力の下、APDMOが編制されて、データ品質の向上にたゆまず取り組む体制ができた。

 英陸軍は定数が数千人不足していたが、不況の影響で、退役者はほとんど出ず志願者は増えた。そのため、1年余りが経過した2009年末時点では、承認された定数10万3000人を超えるほどになった。現在も陸軍在籍者の数は増え続けており、1億ポンド相当のコスト上昇圧力になっている。

 「退役すると見込んでいた人数が多すぎた。契約終了が近い兵士を表す“満期退役予定者”のデータが間違っていたためだ」とバクスター氏は説明する。

 しかし、データ品質プログラムのおかげで、この状況に対応することができた。陸軍は是正措置として2010年の新兵募集の規模を縮小し、4000万ポンドの費用節約に成功している。データ品質プログラム全体の費用は400万ポンドである。

 リッチリー氏によると、2013年1月1日時点での陸軍の在籍者数は、訓練を終了した正規兵9万4610人、訓練中の正規兵8670人、訓練を終了した国防義勇兵(TA)1万9040人、訓練中のTA兵6000人弱だという。退役年金受給者は数十万人とのことだ。イギリス連邦とアイルランドをはじめ兵士の国籍は50か国にわたり、兵卒から大将まで17の階級があり、職種は250に分かれている。また、たとえ同じ階級内であっても呼称は複雑であり、インターネットや携帯電話が使えないような地域も含め、要員は世界各地に配備されているなど、属性は実にさまざまだ。人件費は、国防予算全体では27%に当たるが、陸軍予算全体では74%を占める。陸軍は、海軍と空軍を併せたよりも規模が大きい。

 現在では、要員が実際に成果を目にしてきているので、陸軍全体でデータ品質向上の必要性が理解されてきているという。データ品質向上を推進するワーキンググループが、陸軍内の階級をまたいで活動しているし、兵士からすれば昇格などの点で、データの精度向上にメリットがある。

 リッチリー氏は、正規兵と予備兵のデータを統合する計画は、データガバナンスとデータ品質を改善するよい機会だと話している。

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