大手企業のA社は、コーポレートサイトの大幅な拡充に乗り出した。情報更新の効率向上を目指してコンテンツ管理システムを導入。一定の目的は果たしたものの、そこには思わぬ落とし穴が待っていた。
Webマーケティングの重要度は高まるばかり。今や、顧客は十中八九インターネットからアクセスしてくる。Webサイトはまさに“企業の顔”であり、そこで提供できる情報が今後の取引の成否を大きく左右する。
そこで大手企業のA社は、コーポレートサイトの大幅な拡充に着手することにした。陣頭指揮を執るのは、広報部の鈴木由紀子氏(仮名)。通常の広報業務に加えて、10年ほど前から同社のコーポレートサイトと社内ポータルサイトの運営を任されている。広報部員が少ないことから、実際のサイト更新や簡単なアクセス解析作業などにも携わっている。
コーポレートサイト拡充のポイントは、発信する情報量の増加だった。幸い、同社には充実した内容を誇るイントラネット環境があり、一部のコンテンツはそのままコーポレートサイトに再利用できる。しかし現状では、自社開発の更新ツールを使って鈴木氏が手作業でコンテンツを“移す”ことが必要だ。イントラネットの情報が更新されると、自動的にコーポレートサイトにもそれが反映される仕組み、つまり各部署の社員とWebを統括する広報がGive & Takeになる仕事の仕組みが作れないだろうか──。こうした発想から、企業向けコンテンツ管理システム(以下、CMS)の導入を検討することになった。
CMSの選定に当たって鈴木氏が掲げた要件は、以下の5つ。
こうした観点から検討した結果、最初に候補から外したのが「FatWire Content Server」だった。テンプレート作成にある程度のプログラミングスキルが必要で、公表されている国内の導入実績も当時はそれほど多くなかった。また、多言語、パーソナライズ、動的配信が可能など、高機能ではあるがそれらの機能が自社に必要とは思えなかった。限られたユーザーで利用するシステムの割には、高価に感じられたのもマイナスだった。
そうした中、自社の情報システム部門の紹介もあって急浮上したのが「CMS B」(仮名)という製品だった。日本全国に拠点を持つIT企業が販売代理店を務めており、抜群の国内導入実績を誇っていた。中でも最も引かれた特長は、“誰もが簡単にサイトのテンプレートを作成ができる”と強調されていた点だ。これなら情報システム部門に頼らず、広報部だけで扱えると思い、「CMS B」の導入を決定。部門トップもそれを承認した。
「CMS B」の販売代理店の「段階的に導入していきましょう」というコンサルティングもあり、新システムは約3カ月で本番稼働を果たした。CMSの導入により、イントラネットとの連動はまだ果たせていないが、コーポレートサイトの自動更新は実現し、作業は楽になった。また、サイトの変更に際してはすべて履歴が残されるため、万一の場合は詳細に調査することもできる。
ただ、予想外のこともあった。「CMS B」のテンプレート作成には独自技術の習得が必要で、思っていたほど簡単ではなかった。情報システム部門に依頼すると、“これは独自性が強く、僕たちでもちょっと時間をかけて勉強しないとマスターできない”と言われた。「CMS B」のユーザー会に参加すると、導入各社が同じような悩みを抱えていた。
また、コーポレートサイトが充実するにつれて社内外からの期待が高まり、「イントラネットのコンテンツを承認ワークフローを経由してコーポレートサイトに配信したい」「各事業部でコンテンツを投入し、見込み客の開拓をしたい」「アンケートなどの動的配信を簡単に利用したい」といった要望が寄せられるようになった。だが、「CMS B」は広報部の限られた担当者による限定した使い方には向いているが、これらの全社展開は実現が難しかった。
そして、より大きな壁が立ちはだかった。A社の持ち株会社化により、思わぬライセンス契約問題が生じてしまったのである。「CMS B」のライセンスは、“サーバ単位”ではなく“企業単位”で発行される体系となっていた。そのため、「CMS B」を動かしているサーバは従来通り1台のままであるにもかかわらず、持ち株会社は「CMS B」を利用できるが事業会社は利用できないということになってしまった。事業会社も「CMS B」を利用するためには、それぞれ追加ライセンスを購入する必要がある。だが、事業会社が15社となったA社の場合、それは莫大な金額に跳ね上がることを意味する。
新たなニーズに対応できないばかりか、「各部門の情報をコーポレートサイトに効率的に集約して情報発信したい」という当初の目的すらままならなくなった鈴木氏。彼女が下した決断とは?
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