「マルチコアプロセッサー搭載サーバ+仮想化」が生み出す新しいソフトウェア環境国内ソフトウェアベンダーに聞く最新テクノロジーへの対応

仮想化やクラウドといったテクノロジーにより、ユーザー企業のソフトウェアに対する考え方はがらりと変わった。ソフトウェアベンダーはシステムインフラにおける最新テクノロジーへの対応をどう考えているのか。

2011年02月08日 00時00分 公開
[ITmedia]

 ビジネスのグローバル対応、グループ企業での横断利用、昨今のソフトウェア利用は大規模利用のニーズが増えている。ユーザー企業としては、そうしたシステム構築を、ハードウェア部分も含めて低コスト、最小限の負荷で運用できるように構築したい。

 そうしたユーザー企業のニーズをかなえるために、ソフトウェアベンダーはどう考えているのか。BI(Business Intelligence)や帳票ツールの日本市場でトップシェアを誇る国産ソフトウェアベンダーであるウイングアーク テクノロジーズに、ソフトウェア提供におけるシステムインフラの最新テクノロジーへの対応ついて話を聞いた。

多様化するBIの用途、増え始めたサーバ仮想化利用

 ウイングアーク テクノロジーズは、データ活用ソリューション「Dr.Sum EA」や帳票基盤ソリューション「Super Visual Formade」(SVF)を開発・販売する国内ソフトウェアベンダーだ。同社は2009年5月にDr.Sum EAの「VMware vSphere」対応を発表、2010年10月にはSVFおよび帳票運用管理ツール「Report Director Enterprise」(RDE)といった帳票ツールユーザー限定の仮想化支援キャンペーンを行うなど、積極的に自社製ソフトウェアの仮想化対応を行ってきた。

 Dr.Sum EAは、「業務現場の人たちが自在にデータを活用できること」という思いを込めて開発されているBI製品だ。多くの海外ベンダーのBI製品がユーザーライセンス課金であるのに対して、ライセンス料が全社利用の足かせにならないようにサーバライセンス課金を採用するなど、大人数の利用を想定したさまざまな配慮がなされている。

 「もともと『BI製品の価格破壊』というアプローチから市場に参入した製品ですので、SMB市場や部門での導入が多いと思われがちですが、最近では部門から全社、全社からグループ企業での利用を前提とした導入というように展開が広がってきています」と話すのは、ウイングアーク テクノロジーズ 営業統括本部 マーケティング部 部長 兼 Dr.Sum戦略室 マネージャー 小島 薫氏だ。

 これまで海外製品が主流だったBI製品が、経営層などの一部ユーザーにしか利用されなかった状況を踏まえ、あくまで全社利用を促進してきたDr.Sum EA。その規模がグローバルでのグループ企業横断利用や、全部門、全社員利用といった規模になることを見越して、サーバ仮想化への対応は重要だったと小島氏は語る。

画像 ウイングアーク テクノロジーズ 営業統括本部 マーケティング部 部長 兼 Dr.Sum戦略室 マネージャー 小島 薫氏

 「グローバルで使いたい、グループ企業で使いたい、1000店舗以上のフランチャイズ店舗で使いたい。そうしたニーズに対応するために、都度物理サーバの導入を提案するのはユーザー企業にとって現実的ではありません。近年の経済状況では、コスト意識はシビアにならざるを得ませんから、分析環境を整える際にも仮想化テクノロジーを利用して効率的に構築したいと考えるのは当然といえます。そうしたニーズにいち早く対応するために、Dr.Sum EAは積極的にVMware vSphereに対応しました」(小島氏)

 また、当時は同社のパートナー企業からDr.Sum EAのクラウド対応への要求も多くあったという。Dr.Sum EAをマルチテナントでSaaS(Software as a Service)提供したいというものだ。しかし当時、企業の重要なデータが、複数企業が同居した状態で、1つのサーバに保存されるマルチテナント方式を敬遠する企業は多かった。

 「ユーザー企業が満足できるサービスレベルを保証するには、マルチテナントよりも仮想化単位で企業に利用してもらうというアイデアの方が現実的でした。そういう意味でも弊社のビジネスの広がりと仮想化テクノロジーの普及はちょうど良いタイミングで重なっており、他ベンダーに先行してVMware製品に対応することにしました」(小島氏)

 一方、大規模導入となるとやはりハードウェアのパフォーマンスも重要になってくる。Dr.Sum EAは通常のBI製品と違い、分析や検索のキューブや特殊なインデックス、大規模メモリの力を借りない点が大きな特徴だ。Dr.Sum EAのデータベース設計は非常にシンプルで、分析軸をあらかじめ決めずにデータを入れるだけで分析が可能だ。そのため、初期設計のための負荷は最小限で済み、短期導入が可能というメリットがある。加えて、常にリアルタイムで集計するため、組織変更や、製品体系の変更においても、データベース設計の変更やデータの洗い替えなども不要だ。

 また、Dr.Sum EAは複数サーバを利用した分散データベースによる大規模データへの対応も可能で、この場合は物理サーバを複数用意するよりも、サーバ仮想化を適用する方が柔軟な構成が可能になる。そして、最新のマルチコアプロセッサー搭載サーバの力を借りたソフトウェア設計は必然的な流れで、Dr.Sum EAは最新のインテルプラットフォームでの技術検証、最適化を行っており、コア数の増加にも積極的に対応している。

 現在、Dr.Sum EAのパートナー企業からも、「マルチコアプロセッサー搭載サーバ+仮想化」で構築したいというリクエストが増えているという。BIはユーザー数が増えれば当然アクセス数が増える。しかしレスポンスの遅いBIが使われないシステムになってしまうことは歴史が証明している。「データ量が爆発的に増え、複数システムでの横断検索やグループ企業を含めた全社利用といった活用が加速し、その分析環境を低コストで効率よく構築したいとなれば、『マルチコアプロセッサー搭載サーバ+仮想化』の構成がインフラとしてスタンダードになっていくことでしょう。また、利用者が増え、扱うデータの量や種類の増加に伴って、信頼性に対する要求も非常に厳しくなっています。最近、グループ間の利用はIFRS(国際会計基準)対応のためという例もあり、そういった意味で、ハイエンド製品『インテル Xeon プロセッサー 7500番台』への期待はBI分野でも高いですね」(小島氏)

帳票サーバの削減と基幹システムに求められる信頼性に応えるプラットフォーム

 SVFは、ERPなどの基幹系システムと連携して活用される帳票ツールである。公共、金融業、製造業、流通業をはじめ業種を問わず導入されており、「総合帳票基盤」という紹介が示す通り、企業内で作成・送付・印刷される帳票のためのシステムをワンストップで提供するソリューションだ。2010年には新バージョンSVF Ver9を展開し、仮想化やクラウドなど多様化する運用環境への柔軟な対応と、信頼性の高い帳票運用を提案する他、グローバル化に伴う言語対応を積極的に進めている。

 「従来はアプリケーションごと、システムごとにそれぞれ帳票システムを作ることが多かったのですが、コストやメンテナンスを考えて『帳票ツールを共通で利用したい』というニーズが増えています」と語るのは、ウイングアーク テクノロジーズ 営業統括本部 SVF戦略室 室長 谷口 功氏だ。帳票システムを作る上では「帳票サーバ」の存在が欠かせない。これまでは支店や拠点、システムごとに導入され、いわば個別最適化されてきた帳票サーバだが、フロントエンドの帳票ツールを複数拠点で共通で使うようになるとどう変わるのか。

 「仮想化技術が一般化した現在、複数拠点で同じ帳票ツールを利用したい場合、ユーザー企業は当然『本当にサーバをそこに置く必要があるのか』と考えます。多少サーバを大型にしても、仮想化テクノロジーを利用して、例えばエリアごとに区切った処理を掛けてしまうといった使い方で、帳票サーバの削減を検討するのは自然な流れといえます」(谷口氏)

画像 ウイングアーク テクノロジーズ 営業統括本部 SVF戦略室 室長 谷口 功氏

 また、基幹系システムと密接にかかわる帳票システムは、信頼性というキーワードも避けて通れない課題だ。その点について谷口氏は、「オープン系のシステムは常に言われることですが、『止まらないこと』が非常に重要です」と語る。VMware vSphereを適用し、「vMotion」や「VMware HA」を活用すれば、仮想化ならではの冗長性を実現できる。また何かトラブルがあったときの修正やパッチ適用などを仮想化上で実施することで、メンテナンス性が大きく向上し、結果的に信頼性を大きく向上させることができるという。

 「帳票システムは一見地味に見えますが、上位システムや、データ出力・印刷などの出力環境と連携して稼働しています。それだけで完結するものではありません。印刷した帳票を顧客に届ける、帳票に従って作業を行う、そうして初めて業務が完結するのです。決められた時間に、間違いなく印刷されるという信頼性は、ハードウェアの性能にも左右されます。インテル Xeon プロセッサー 7500番台に搭載された高度なRAS(Reliability Availability and Serviceability)機能は、こうした信頼性の要件を満たすと期待しています」(谷口氏)。SVFは常に最新のインテル Xeon プロセッサー搭載サーバで技術検証を行っており、64ビットにも対応している。そして、64ビット環境にするとコア数に応じて処理性能が上がることを実証しているという。

 大規模な企業では、支店ごとに1台ずつ物理サーバを設置する場合があるが、仮想化を活用すればエリアごとに仮想化されたサーバを立てるなど、効率の良い仕組みが可能になる。支店の増加や統廃合の場合にも素早く対応できるだろう。ウイングアーク テクノロジーズでは仮想化環境での検証を現在行っており、SVFのVMware vSphere対応については2011年に春には検証を終え、対応の発表を行う予定としている。

最新テクノロジーへの対応はソフトウェアベンダーとして当然の努力

 ソフトウェアへのニーズの広がりに伴い、サーバ仮想化やマルチコアプロセッサー搭載サーバといった最新のテクノロジーへいち早く対応してきたウイングアーク テクノロジーズ。谷口氏は「ハードウェアに関する技術的な知識をソフトウェアベンダーもきちんと持たなければならないと感じています」と語る。

 「特に弊社の製品はパッケージ製品とは少し違い、ミドルウェアやツールといった立ち位置の製品ですので、SIerやエンドユーザーが構築するシステムの中に組み込まれて利用されます。そうなると仮想化で構築するとか、CPUを指定するという、システム構築の前提が出てきます。製品選定の際、SIerからのお問い合わせに対応できるよう、常に最新のテクノロジーに対してアンテナを張っています」(谷口氏)

 「海外製品よりもわれわれの製品の方が良いと思っていただくためには、やはり新しい技術をどんどん取り入れて、BIであれば新しいUIをどんどん提供していく必要があります。しかしただ提供すればいいというものではありません。より良いものを提供したいので、画面もパフォーマンスも自然と“世界で戦えるもの”という考え方になっていきます」(小島氏)

 Dr.Sum EAに関していえば、インテルの最新仮想化技術を搭載したサーバを使用し、ヴイエムウェアの技術協力を受けて検証を重ねた結果、仮想化環境でもネイティブ環境とほぼ変わらないパフォーマンスを実現しているという。

 加えて谷口氏は「ユーザー企業は、『長く使えるかどうか』を重視しながら最新テクノロジーの情報を集めています」と指摘する。「3年、5年といった中長期のスパンでユーザー企業のシステム基盤になり得る技術に対応していくことが、ソフトウェアベンダーに求められています」(谷口氏)

 「ユーザー企業からの信頼性要求は高まる一方ですので、今後もヴイエムウェアやインテルの最新技術をいち早く取り入れながら、新しいシステムインフラを最大限生かせるソフトウェアを提供していきたいですね」(小島氏)

「仮想化+マルチコアプロセッサー搭載サーバ」、VMwareとインテルの強力タッグ

 2010年、インテルはエンタープライズ向けに多くの製品群を発表している。特に基幹業務向けのインテル Xeon プロセッサー 7500番台は、基幹業務に要求される信頼性を支援するために、20を超える新たなRAS機能を搭載した。その他、仮想化支援機能の拡張や、前世代に比べて大幅に性能を向上したことにより、基幹業務を支えるIT基盤の次世代化を支える重要な製品になっているという。

 「2010年は、インテル Xeon プロセッサー 7500番台を搭載したサーバ製品の登場により、真の基幹業務の仮想化、クラウドアーキテクチャ化が始まった年として記憶されるでしょう」と語るのは、インテル マーケティング本部 エンタープライズ・プラットフォーム・マーケティング エンタープライズ・ソリューション・スペシャリストの田口栄治氏だ。

 「ウイングアーク テクノロジーズの事例でも分かるように、新たなサーバ基盤と仮想化ソリューションの拡張によって、基幹業務の次世代化が始まっていることを実感しています。この基幹業務向けの新たなIT基盤によって、レガシーな環境に比べて劇的にコストを削減しながら、非常に柔軟なサービス基盤が構築されることが、企業にとってとても大きな価値をもたらすでしょう」(田口氏)

 インテルでは、ミッションクリティカルな基幹業務のIT基盤向けに、インテル Xeon プロセッサーをさらに強化していくという。今後は、性能の向上とともに、ますます重要となるセキュリティ機能(暗号化による情報保護や、なりすまし防止など)の拡張を行う予定だ。「こうした新たなIT基盤上で、エンタープライズの革新を推進する多くのソリューションが生まれることを期待しています」(田口氏)

 一方、ヴイエムウェア テクノロジー アライアンス部長の森田徹治氏は「日本では大企業からSMBまで仮想化技術が浸透し、ミッションクリティカルな領域にもVMware製品が活用されるようになりました」と語る。

 「ウイングアーク テクノロジーズのような日本を代表するソフトウェアメーカーがVMware環境をサポートし、ユーザー企業のコスト削減や運用の効率化につなげていることは、大変素晴らしいことです。今後もウイングアーク テクノロジーズとはクラウド技術の連携などさらなる協業を図っていきます」(森田氏)

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