この10年間でサーバ市場に大きな変化が起こっている。現在自社で採用しているサーバベンダーが提供する情報だけをうのみにしていては、今後のIT戦略が立ち行かなくなる恐れがある。
信頼性が求められる重要なシステムにハイエンドサーバを選択する機会は多いが、そのシステムは5年後、10年後も企業の競争力を生み出す役割を担い続けられるだろうか? 2001年のITバブル崩壊に始まり、サーバベンダーの買収や提携、IAサーバの台頭、国産メインフレームの先行き不安など、この10年間でサーバ市場には大きな変化が起こった。直近ではOracleがSun Microsystemsを買収したり、今後Itaniumを対応プラットフォームから除外することを発表するなど、UNIXサーバ選択にも大きな影響を与える動きが出ている。
そんな中、ユーザー企業は今後のサーバ選択でどのようなことに注意すべきか。本稿では架空企業での次期基幹システム検討ミーティングを例に、サーバ市場の変化と今後のサーバ選びの注意点を解説しよう。同社は2006年にItanium搭載のUNIXサーバを社内標準に採用しており、この5年間ほとんどの重要なシステム案件でItaniumを採用してきた。
情報システム部リーダー(以降、リーダー):「この5年間でUNIXサーバ市場に大きな変化が起きているのは、皆が知っている通りだ。われわれが提供するシステムは5年後、10年後も使えなければならないが、それは単にベンダーに10年後の保証・保守を求めるということではない。5年後、10年後もわが社に競争力を生み出すためのサービスを提供し続けることができるかどうかが重要である。そのために、現在基幹システムに採用しているItaniumサーバ更改に向けた調査を開始したい」
情報システム部メンバー(以降、メンバー):「最近は10年サポートを売りにしているベンダーが多いですが、それは必要ないということですか? いつまでもサポートしてくれた方がありがたいと思うのですが……」
リーダー:「もちろんサポートがあるに越したことはない。ただわれわれが2000年に構築したシステムが今どうなっているかを考えてみてほしい。延命も選択肢の1つだが、そのシステムでユーザーが満足し、競合他社にも勝てるサービスを提供しているといえるだろうか?」
この10年間で実現したシステム性能の向上、仮想化機能の進化、OSやミドルウェアの新機能など、サーバ業界のテクノロジーは大きな進化を遂げている。当然今後もテクノロジーの進化は続くだろう。競合他社がそれらの先進テクノロジーの活用で競争力をアップしようと必死で取り組む中、10年前のシステムをメンテナンスするだけでは戦えないとリーダーは感じていた。
メンバー:「システムメンテナンスだけで10年後も競合他社に対抗するのは無理でしょうね。それに情報システムを担当している者として、やはり最新テクノロジーには敏感でありたいですし、使いこなせるスキルは持っていないといけないですね」
当然同社でもサーバ関連の最新情報は入手している。しかしIAサーバの情報は日頃から入手できているが、基幹システムに採用されるようなUNIXサーバなどのハイエンドシステムとなると、採用しているベンダーからの情報に依存してしまっているのが現状だ。
リーダー:「これまではベンダーに都合のいい情報だけでサーバ導入を判断してしまった可能性も少なくないと思う。今回の次期基幹システムの検討は、Itaniumサーバへの対応をどのようにしたらよいか、われわれの視点でUNIXサーバ市場がどうなっているかも見ていこう」
こうして同社の次期基幹システムのためのサーバ検討プロジェクトが動き始めた。
メンバーはその日からUNIXサーバの現状調査を開始したが、調べ始めてすぐに驚くべき事実に直面する。そこで急きょリーダーとミーティングを開催した。
メンバー:「現在、UNIXサーバの主要ベンダーは、HP-UXを搭載しているHP、Solarisを搭載しているOracle、富士通、そしてAIXを搭載しているIBMです。それぞれ、Intelが開発しているItanium、Oracle/富士通が開発しているSPARC、IBMが開発しているPOWERというCPUを搭載しており、各社ブレードから256コア搭載可能なハイエンドサーバまでラインアップしています」
ベンダー | サーバOS | 搭載CPU |
---|---|---|
HP | HP-UX | Itanium |
Oracle/Sun Microsystems | Solaris | SPARC |
富士通 | Solaris | SPARC |
IBM | AIX | POWER |
リーダー:「各社同じような品ぞろえだが、他のユーザーはどのサーバを選択しているのか気になるな。UNIX市場のシェアはどうなっている?」
メンバー:「そちらも調べてあります。HPはここ何年か、日本のUNIX市場でトップシェアであることをうたっていました。しかし、今回全世界シェアを調べて初めて知ったのですが、世界市場ではHPもOracle/Sun Microsystemsも出荷金額シェアが減少傾向でした。意外なことに、全世界のUNIXサーバ市場ではIBMが多くのシェアを獲得しています。2010年には45%のシェア、4ソケット以上だと54%のシェアです(※)」
※UNIXをOSとするサーバの金額シェア(出典:IDC's Worldwide Quarterly Server Tracker, 2011Q1)。
リーダー:「それは随分われわれの認識と違うなぁ! Intelがハイエンドサーバ向けにItaniumを位置付けていたから、今後の主流になるんじゃなかったのか? HPとOracle/Sun Microsystemsの直近のシェア低下も気になる。SolarisはSun MicrosystemsはOracleによる買収が影響しているのは想像できるが、ItaniumはIntelの投資対象として魅力的でなくなってきたのが原因だろうか?」
メンバー:「それは、Oracleの『今後のItaniumをサポートしない』という発表と関係しているのではないでしょうか。2010年にわが社で導入した顧客管理システムのItaniumサーバなどは、Oracle Datebaseのサポートがなくなる事態に陥りませんか?」
リーダー:「今すぐデータベースの新バージョンが発表されるわけではないし、仮に発表されてもすぐにバージョンアップはしないだろ? すぐに影響は出ないんじゃないかな」
メンバー:「そうですか。ホッとしました!」
リーダー:「ただ安心するのは早いぞ。なぜOracleがItaniumのサポートをやめることになったのかを考えてみる必要がある。場合によってはわれわれのITインフラ戦略の再考も必要かもしれんな」
メンバー:「わが社はItaniumの将来性を評価してデータベースサーバの標準としていますが、状況によっては社内標準を変えるということですか?」
リーダー:「Itaniumサポート打ち切りはOracleが初めてじゃないだろ?(※) 市場で広くミッションクリティカルを担うプロセッサーとして、Itaniumの役割は終わったのかもしれない。想定外かもしれんが、Itaniumがなくなる前に対策を練っておく必要があるな」
※IBMやDellは既に数年前にItanium採用を中止しており、ここ1〜2年は他のハードウェアベンダーに加えて、MicrosoftやRed Hatも次期バージョンでItaniumのサポート中止を表明している。
メンバー:「確かに、Itaniumのロードマップは2世代先まで載っていましたが、出荷は何度も遅れていましたね。OracleがSun Microsystemsを買収してItaniumが競合製品になったことも影響していると思いますが、OracleにとってもItaniumの将来性が感じられなかったのでしょうね。ロードマップがあることが大事なのではなく、ベンダーがそれを実行できるかどうかが大事なのですね」
リーダー:「その通りだ。ベンダーのロードマップに遅延が生じることは、われわれのIT戦略にとってリスクといえるな。今後信頼できるサーバベンダーはどこなのか、市場分析資料なども併せて引き続き調査を頼む」
メンバー:「先週の宿題ですが、米国のアナリストがサーバ市場を分析している調査リポートを幾つか見つけました。現在のシェア変動についてはなるほどと納得できるもので、われわれが現在のサーバ導入前に入手して検討材料にできていればよかったと思いました」
リーダー:「それは興味深いな。早速リポートの内容を説明してくれないか」
メンバー:「はい。まずは……」
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