委員の意見はIFRSは連結財務諸表だけに適用し、単体は日本基準を維持する「連単分離」に傾く。
IFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)の適用を議論する金融庁の企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議が11月10日に開催された。10月の前回会議に続き、主にIFRSを連結財務諸表と単体財務諸表にどう適用するかがテーマになった。委員の意見はIFRSは連結財務諸表だけに適用し、単体は日本基準を維持する「連単分離」に傾いていた。
現状では連結財務諸表に日本基準の他、IFRSと米国会計基準(US-GAAP)を適用可能。その場合、単体は日本基準となっている。IFRSで開示している日本企業は住友商事とHOYA、日本板硝子、日本電波工業の4社に限られるが、US-GAAPは30社以上が適用している。この場合、連単で異なる会計基準を適用していることになるが、「具体的な問題は生じていないのではないか」(東京大学大学院教授で委員の岩原紳作氏)という意見が多かった。
IFRSのロードマップを示した中間報告では、会計基準のコンバージェンスについては、連結の会計基準を先にIFRSに近づけて、単体の会計基準はその後にコンバージェンスを行う「連結先行」の考えが示された。また、2010年8月の企業会計審議会では、連単の会計基準に一定期間の違いが出ることを容認した。現在は企業結合会計における段階取得や、包括利益に関する会計基準で連単の扱いに違いがある。
委員の伊地知隆彦氏(トヨタ自動車 取締役・専務役員)は、「グローバルな比較可能性が求められるのは連結だけ。単体ではそのニーズは少ない」と指摘。その上で、「まずは連結を議論をしてその後に単体の議論を行おうとすると、どうしても税務の問題がちらつき、結果的にゆがんだ議論になる。建設的な議論をするためにも連結先行をここでキャンセルして、完全な連単分離をするときが来たのではないかと思っている」と話した。
トヨタ自動車はUS-GAAPで連結財務諸表を開示しているが、「そのことで大きな問題やコストが掛かることはない」と説明。「むしろIFRSが単体に適用されて、税務の手当てがなされない場合、大変な調整や税金の問題があり、その方が問題が大きい」と話した。伊地知氏は単体財務諸表の会計基準については「個人的には同等性の評価を見据えながら、コンバージェンスを検討していくことで十分ではないか、と思う」と述べた。
単体財務諸表のIFRS適用が難しいのは、単体財務諸表が会社法や税法と関係が深いからだ。特に税法では、確定決算主義の下で、会社法上の利益が課税所得計算の基礎になっている。「連結財務諸表については、単体財務諸表を比較した場合、情報提供機能や国際的比較可能性がより重視される。他方、単体財務諸表においては、情報提供機能と同時に、会社法の分配可能額や税法上の課税所得など利害調整機能が強い、といった機能上の相違がある」(金融庁資料)のだ。
そのためIFRSを単体財務諸表に適用するには会社法や税法の改正や運用上の手当てが必須になる。だが、会社法は法務省、税法は財務省などとそれぞれ所管が異なり一体的に改正するのはかなり難しい。そのため、委員からはIFRSを単体財務諸表に適用することには否定的な意見が多かった。
一方、斎藤静樹氏(明治学院大学教授、ASBJ元委員長)は欧州での議論を例に挙げて「いずれ単体が連結に引っ張れて、連単分離が成立しなくなる可能性が高い」と指摘した。「連単はあくまでも一体と考え、IFRSを受け入れるのであれば、連単一体で丸飲みすべきだ」とも話し、会社法や税法についても同時に改正することが必要と指摘した。
米国では基本的に連結財務諸表の開示だけが求められ、単体財務諸表は各州の会社法の規定に任されるなど連結中心。単体は補完的な役割だ。欧州でも連結はIFRSだが、単体の開示はそれぞれの国に任されているケースが多い。このような状況から日本でも連結財務諸表のみを開示し、単体財務諸表については開示しないという選択肢を用意すべきとの意見がある。
委員の逢見直人氏(日本労働組合総連合会中央委員・UIゼンセン同盟会長付、金融庁参与)は「従業員、労働者の観点でいうと、労働条件は単体財務諸表で決まっている」と説明し、人件費比率や労働分配率が適切かどうかをチェックするためにも「単体は単体として開示する必要がある」と主張した。
合同会議の後半では「経済活動に資する会計の在り方」についても議論が行われた。テーマとしては、日本基準の収益費用アプローチとIFRSの資産負債アプローチ、公正価値会計、保守主義、確定決算主義などが挙げられた。委員の佐藤行弘氏(三菱電機 常任顧問、金融庁参与)は「製造業の経営では、フローを表す損益アプローチが重要。これらの数値が経営の目標になり、日々の活動目標になる」と指摘した。保守主義や確定決算主義についても「企業の健全な発展に向けて非常に重要」などとして、IFRSとの違いを強調した。
合同会議では冒頭、委員の八田進二氏(青山学院大学大学院教授)がオリンパスや大王製紙の事案に触れながら以下のように述べた。
「会計監査を取り巻く環境で、重大で深刻な問題は光学機器メーカーの不当な会計処理の問題と、製紙会社の巨額流用事件。これらは一部上場企業で歴史のある、日本の誇れる製造業でありながら、経営のトップが絡んだ不正である。結果として日本の信頼性を根幹から失墜させることになった。まさに由々しき事態だと考えている。
この光学機器メーカーについてはいわゆる金融商品の評価損の先送り(が問題になっている)。金融商品会計基準の適用による評価損の適切な会計処理を回避する目的で、損失の飛ばしを行ったのが主たる原因ではないかと伝えられている。金融商品の会計基準をはじめ、20世紀末の会計ビッグバンで矢継ぎ早に制定された退職給付会計や税効果会計、固定資産の減損などの新会計基準は、バブル崩壊後の日本の会計監査への信頼性が大きく失墜したということで(開発が)始まった。会計基準の国際的対応の一環だったと理解している。
これらはまさしく透明性と信頼性、さらには公平性の高い財務報告を意図して制定された会計基準だったが、残念ながらこういう基準すら順守しない会社が今もって現存していたことに驚きを隠せない。同時にこうした事例は他にもあるのではという疑念が国内外から多く寄せられている」
オリンパスについては金融庁の自見庄三郎担当大臣も冒頭に「公平、透明な市場の観点から極めて遺憾。一般論として市場の公平性、透明性を確保するために各上場企業において企業統治が十分に発揮されるよう適切な情報開示がなされることが必要」などと話した。
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