IBMが提供する3つのパブリッククラウドから、オンデマンド&セルフサービス型IaaSの魅力と課題を紹介する。IBMクオリティの豊富な仮想マシンイメージ、Amazon EC2と肩を並べる低価格なインスタンスが売りだ。
本連載ではパブリッククラウドを使った企業向けシステムの構築について解説してきた。今回からは趣向を変え、クラウドベンダーへの取材をベースに誌面を構成することとなった。取材に当たっては、主としてエンタープライズで利用するユーザーの観点からサービス内容について質疑応答をし、長所や短所をまとめていく計画だ。リニューアル第1弾は、日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)の「IBM Smart Business Cloud - Enterprise」(以下、SBCE)を取り上げる。
日本アイ・ビー・エムによると、本稿で紹介している「IBM SmarterCloud Enterprise+」は、2014年1月31日をもってサービスを終了します。
指摘するまでもないが、IBMはIT業界に長年君臨する「王」である。事業内容はハードウェアの製造・販売からミドルウェアの供給、ビジネスコンサルティングまでと幅広い。その歴史の蓄積は、本連載で取り上げた巨大クラウドたち(Amazon Web Services(以下 AWS)、Google App Engine、Force.comなど)を悠々と一桁上回ってしまう。
そのIBMが「パブリッククラウド」という新たな時代の要請にどのように取り組んでいるのか、非常に興味があるところだが、実はIBMはSBCEを含め、既に3つのパブリッククラウドサービスを提供している。下記に概略を記す。
サービス名 | 内容 | |
---|---|---|
(1) | IBM Smart Business Cloud - Enterprise | オンデマンドで、セルフサービス型の低コストなIaaS |
(2) | IBM MCCS(IBMマネージド・クラウド・コンピューティング・サービス) | 運用・監視など、アウトソーシングサービスと組み合わせたIaaS |
(3) | IBM CoD(IBM Computing on Demand) | HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)マシンのリソース提供サービス |
本稿で取り上げる(1)SBCEは、上記の中で最もシンプルなものである。
SBCEは、2009年11月にリリースされたIaaS型のサービスである。当初の名前は、「IBM Smart Business Development and Test on the IBM Cloud」という長いものだ。この時点では「パブリッククラウドのβ版」「ソフトウェアの開発・テスト向け」と位置付けられていたようで、IBM製のDBMS(Database Management System)、ミドルウェア、開発環境などが平易に利用可能になるという点が特徴だったとされる。
その後、サービスの追加・更改があり、名称も変更になった。初期の特徴は現在でも受け継がれているが、本番環境として使うための機能が拡充されたようだ。恐らく、同クラウド上でWebアプリケーションの開発を終えた後も、そのまま基盤ごと本番環境として使うユーザーも多かったのだろう。名称から「Development and Test」が外れ、より一般的な「Enterprise」へとシフトしていったものと推察される。
前述のような出自であるので、IBM DB2(参考:IBM DB2最新バージョン、進化した4つの特徴)や、IBM WebSphere(参考:Javaの進化を先取る、最新Webアプリケーションサーバの新機能とは)、IBM Rational(参考:ソフトウェア開発が変わる。Rationalが変える)などの仮想マシンイメージがメニュー化されて準備されており、数クリックで利用可能になる点は非常に有益である。従来はこれらの環境のセットアップには、サーバ機を調達してから膨大なインストール作業や設定作業が必要だったが、本サービスを使えば数分で使えるようになる。何といってもIBM自身がセットアップした品質の高い環境が即座に得られるという点は秀逸だ。上手に活用すれば、アプリケーション開発プロジェクトは、今まで以上に本業(開発)に専念することができるだろう。
SBCEの用途としては、前述の「開発・テスト環境」以外に、Webを活用した「新ビジネス」での利用が多いと聞いた。例えば、大手企業の新事業分野やスタートアップ企業での利用だ。筆者は従来的な業務システムでの利用がメインではないかと推察していたのだが、この予想は大きく外れた格好だ。IBMの公開資料には、具体的な活用事例が掲載されているので、参考にするとよいだろう。
SBCEでは、9種類の仮想サーバ(以下、インスタンス)が提供される。下記の表を参照していただきたい。
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