ホームセンターのカインズが、店舗とEC双方の集客を向上させたサイト改善の手法店舗検索にはやっぱりGoogle Mapsが効く理由

多数の店舗や事業所を持つ企業にとって、地図上での情報表示は顧客満足度の点で欠かせない。その使い勝手や見せ方を工夫すれば、さらに大きな事業貢献ができるという。

2017年09月26日 10時00分 公開
[ITmedia]

 「近くにあの店はないか」「あの企業にはどう行けばいいのか」――店舗や建物の場所を知るのに、電話問い合わせや紙の地図を真っ先に使う人はもうほとんどいないだろう。スマートフォンやPCで目的地を検索すれば、大抵は地図付きの案内情報が手に入るようになったからだ。しかし「地図が見にくい」「使いにくい」「表示に時間がかかる」と不満の声を聞くことも少なくない。

 多くの企業では自社Webサイトで店舗や事業所の位置を紹介する際、地図サービス(ロケーターマップ)を埋め込んで利用していることだろう。しかし、PCやモバイルデバイスからストレスなく位置情報と関連情報を効率よく閲覧できるWebサイトは実はまだ多くない。ここに着目して、来訪を検討する顧客により高度な地図サービスと効果的な情報を提供できれば、顧客満足度やブランド力の向上、店舗であれば来店者数の増加が期待できるはずだ。

 実際、大手ホームセンターチェーンのカインズでは、地図サービスを活用して実店舗とECサイトの双方で集客数増加に成功している。本稿ではその効果的な地図サービス活用事例を紹介しよう。

全国への出店状況が地図上で簡単に把握可能に

 「店舗検索ページのリニューアル時、社内からは『おおー』と歓声が上がりました」と誇らしげに語るのは、ホームセンターを全国に展開するカインズでeコマース事業部 Web企画部 部長を務める竹永 靖氏。「カインズ総合サイト」の店舗検索ページには、北関東一帯の地図に同社店舗を表すアイコンが埋め尽くされていた。

 カインズは1989年にベイシアから分社化して誕生、以来28年にわたり全国に207店舗(2017年8月時点)を展開するまでに成長してきた。その努力の成果を示す全国出店状況を一目で見渡せたのだ。

 「情報として持っていることでも、実際に可視化してみると印象は劇的に違う。地図を拡大すれば各店舗の位置関係が分かり、縮小すれば全国の出店状況が見える。当社は特に北関東での出店が多く『注力エリアでのドミナント化がここまで進んだ』と社内の士気が上がりました。また、この地図を使うお客さまの評価も楽しみになりました」(竹永氏)

店舗検索ページの一例《クリックで拡大》

幅広い品ぞろえの一方で独自性のある店舗も数多く展開

 同社が取り扱う商品はおよそ10万点、そのうち、プライベートブランド商品が約4割を占める。一般的なホームセンターの品ぞろえに加え、インテリアコーディネートやDIY(工房、教室)など、専門性の高い商品やサービスにも注力しているのが特徴だ。

カインズ 竹永 靖氏

 「売場面積1万平方メートル規模の大規模店舗もあれば、自転車に特化した専門店もあります。店の広さと販売品目、サービスは店舗によってさまざまです。例えばペットに関しては犬、猫、ウサギといった一般的ものを扱う店舗から、ニワトリやロバを扱う店舗まであります」というように、幅広い品目をそろえながら、ところどころに独自性ある品目を取り扱う店舗が散在している。

 「Webサイトの店舗検索ページでは、店舗がどこにあるか、現在地から近い店舗はどこかという情報に加え、店舗で何を売っているのか、どんなテナントが併設されているのかといった関連情報がすぐに分かる内容でなければなりません。またその逆に、目的の商品を売っている店舗はどこかといったコンテンツ主軸の店舗検索も集客する上で大切な要素です」(竹永氏)

 竹永氏は、2009年より同社のECを含むカインズ総合サイトのWeb企画に携わってきた。2010年からは店舗検索のために国産地図サービスの利用を開始してきたが、その運用経験から「お客さまが使い慣れた地図表示により利用のストレスをなくしたい」「店舗情報更新などのメンテナンス負荷を軽減したい」「外国人向けに多言語対応を果たしたい」という思いが強くなっていた。

課題解消のためにGoogle Mapsとロケーターサービスを導入

 こうした課題を解決すべく、同社は2014年から地図サービスのリプレースを検討しはじめた。

 「最も重視したのはブランドイメージを毀損(きそん)しないことでした。当社の経営理念“For the Customers”にのっとり、お客さまに寄り添った商品とサービスを提供することに主眼を置き、業務改善を進めています。地図サービスのリプレースもこの取り組みの一環です」(竹永氏)

 地図サービスは多数あるが、中でもスマートフォンユーザーになじみがあるのが「Google Maps」といえるだろう。グローバルでデファクトスタンダード化したサービスだけに他言語対応が容易で情報の更新スピードも速い。さらにこれまで利用していた地図サービスと比較して地図上に表示される情報量が多すぎず、アイコンの視認性も改善できると踏んだ。

 しかしGoogle Mapsと店舗情報を連携させるサービスを社内で構築するのはハードルが高い。そこで竹永氏はGoogle Mapsによる店舗検索サービスの構築実績を持つ業者を探した。その結果、たどりついたのがゴーガだった。同社は店舗や事業所検索向けのクラウドサービス「GOGA Store Locator」を開発、提供しており、既にファミリーレストラン「デニーズ」など全国チェーン店での実績を持っている。他にも店舗や拠点の多い小売業、サービス事業などで多く採用されている。

 「ゴーガの技術スタッフは実にマニアック。描画速度を考慮した画像サイズなど、お客さまのストレスのない利用につながるよう、大変細かな点まで提案してくれました。また、『Google Maps API』の活用実績が豊富だったこともあり、画面設計を含めてゴーガに任せることにしました」(竹永氏)

 2015年にGOGA Store Locatorを採用した店舗検索ページのリニューアルに着手、2カ月で実装が完了し、冒頭のお披露目の日を迎えた。「他社製のCMSと連動させていますが、導入に技術的な問題はほとんどありませんでした」(竹永氏)

地図表示の課題と多言語対応の課題はGoogle Mapsの使用で解決

 GOGA Store Locatorの導入で、日本だけでなくグローバルで多くのユーザーを持つGoogle Mapsでサービスが提供できるようになった。定住外国人の多い地域ではもちろん、今後増加が予想される訪日外国人のためにも役立てられる。

 またGoogle Mapsを利用しているため、地図上の情報が以前のサービスに比べて細かすぎず、ロケーターアイコンの視認性が高まり、場所を把握しやすくなった。情報の更新スピードも上がり、拡大・縮小、移動などの操作にも機敏に反応する。またGoogle Maps本体のサービスであるストリートビュー、航空写真にも簡単に切り替えられる。特に車で来店する顧客はストリートビューで事前に道路情報を確認したがる傾向があるため、効果的だったという。

メンテナンス負荷と高負荷時のサーバダウンリスクはゴーガのサービスで解消

 GOGA Store Locatorはクラウドサービスであるため、サーバを自社で運用する必要はない。管理画面から直接店舗ごとの情報を入力できる他、全店舗に共通する修正が発生した場合はCSVファイルを使って一括更新することもできる。また、情報更新のタイミングも掲載開始/終了の日付指定ができる。同社はこれまで全207店の情報更新などの運用を担当者1人が担っていたが、その作業時間は実に半減したという。

 またアクセス集中時にもゴーガ側が管理するリソースで柔軟に対応可能なため、サーバダウンを引き起こす可能性が低くなった。

 「TV番組で当社が紹介された後にはWebサイトへのアクセスが急増し、店舗検索の負荷も跳ね上がります。他社ではシステムダウンしてしまうことがよくありますが、当社はこの導入以来、店舗検索画面では一度もダウンしていません」(竹永氏)

GOGA Store Locatorの管理画面の例《クリックで拡大》

店舗情報の提供方法に工夫を凝らす

 GOGA Store Locatorの標準機能で以前から抱えていた課題は解決した。それに加え、同社は店舗情報の画面に独自の工夫を施し、より顧客にとって活用しやすい店舗検索ページに仕上げた。例えば、絞り込み検索では、ペットショップや自転車ショップなど専門コーナーがある店舗だけを検索可能にした。また、店舗詳細画面には、顧客の現在位置や周辺駅などからの道順と所要時間が分かる周辺地図に加え、電話番号や営業時間、定休日、施設・設備などの主要情報を一覧で表示した。

 これらに加え、併設テナントの種別や営業時間、店舗ごとにペット情報ページやカルチャースクール情報も盛り込み、さらにデジタル広告チラシ閲覧サービスのAPIを利用して店舗チラシ情報への遷移も可能にした。

 「多様な要望を聞き入れ、実現してくれたのはゴーガならでは。豊富な実績を背景に柔軟に対応してくれました」(竹永氏)

(左)スマートフォンの店舗詳細画面(右)広告チラシの表示例《クリックで拡大》

店舗検索機能の改善でO2Oマーケティングが実現

 GOGA Store Locatorの導入により店舗検索がしやすくなり、店舗検索ページへの流入が増えた。また、それと同時にECサイトへの流入も増え、さらには実店舗の売り上げ拡大にも貢献していると竹永氏はいう。

 「ECサイトで商品を注文し、最寄りの実店舗受け取るお客さまが意外と多いのです。注文商品を指定店舗に配送するコストはかかりますが、それでもお客さまが実店舗にいらっしゃると別の買い物もしてくださるため、結果的に実店舗も含めた売り上げ拡大につながっています。EC注文の受け取り商品が2〜3点でも、店頭で7〜20点くらいまで“ついで買い”されるお客さまが多いのです」(竹永氏)

 店舗検索ページのリニューアル以来、店舗詳細ページの閲覧数は170%増加、EC、実店舗への来店客も大幅に増えた。「TVやCMの効果もあるため、全て店舗検索機能の効果とはいえませんが、確実に売り上げに貢献していると思います」(竹永氏)

 地図と連動した店舗検索機能の改善で実質的にO2Oマーケティングが実現したというわけだ。

 竹永氏はサービスの今後についてこう話す。「例えば幼児のいる家庭には成長段階に応じた日用品を、家庭菜園を持つ人には農業用品を、適時にレコメンドして店舗情報とともに見てもらえるようにしたいと考えています。特定商品の店舗在庫状況の表示や、駐車場やレジ周りの混雑状況表示、店舗の人材募集情報の掲出など、アイデアは尽きません」

 技術的にはそのほとんどが可能であり、ゴーガの事例でもコールセンターで店舗在庫の状況を地図上に表示するシステムや、人材募集中の店舗情報を地図にリンクさせたサービスが実現されている。

 「お客さまに喜ばれ、ブランドを向上させることを念頭に、パートナーの力を借りながら徐々にサービスを拡充・洗練していきたいと考えています」(竹永氏)

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