Web3とブロックチェーンは、農業分野のデジタルトランスフォーメーションを実現する可能性がある。想定される応用例を紹介する。
枯渇する資源に対処しながら2050年までにさらに20億人分の食料を供給しなければならないという見通しと、農業が温室効果ガスの主要排出源であるという事実から、農業界の注目度はますます高くなっている。
農業界で働いていると、化学物質の削減、収穫量の増加、無駄と排出量の削減といった持続可能(サステナブル)な農業慣行への移行が緊急性を帯びていることが分かる。
気候変動の影響を最も受けるコミュニティーを保護することも優先事項だ。Web3の登場は農業界のイノベーションを可能にし、信じられないほどの速度で繁栄をもたらしている。特に顕著なのがデータの利用だ。データには力がある。だが、これまではごく限られた機関や組織しかデータを持っておらず、データを収益につなげることもなかった。そこにはデータの透明性の欠如、品質、偏り、操作に関する問題が懸念事項として存在していた。
これらの問題の大半を取り除くのがブロックチェーンだ。
食品サプライチェーンは非常に長く、複雑になっている。消費者はもちろん小売業者にとっても産地を追跡することは極めて難しい。ブロックチェーンを利用すれば、産地から食卓まで、あらゆる情報を記録できる。
スマートセンサーとAIの助けを借りれば、サラダの野菜をその産地まで正確にさかのぼり、肥料が使われたかどうかや収穫、梱包(こんぽう)、発送の時期を確認できる。Walmartは、分散化が進む食品供給のエコシステムにブロックチェーンを使って透明性を加えることに長年取り組んでおり、他の大手小売業者もその例に倣っている。
世界の農家の半数は銀行を利用していないという。
だがケニアの農家の98%は携帯電話を持っている。スマートフォンは金融サービスにアクセスする機会を農家にもたらし、状況を大きく変える可能性がある。スマートフォンがあれば暗号通貨を利用して少額の融資を受けたり商品やサービスを購入したり、直接決済したりできる。全ての食料需要を地元の農家に依存しているコミュニティーが多いため、Web3対応の開発は開発途上地域の生活を改善する可能性を秘めている。
世界の農家の95%は5ヘクタール未満の農地しか持たない。アジアやサハラ以南のアフリカなどでは、こうした小さな農家が食料の80%を生産している。だが、気候変動の影響はこうした地域に偏っている。異常気象は農家や地域コミュニティーの生活に壊滅的な打撃を与える恐れがある。
気象観測所や農家からブロックチェーンで送られるクリーンでオープンなデジタルデータは改ざんが不可能なので、Web3対応のインデックス保険の基礎になる。これにより、申請が素早く処理され、迅速な自動決済が可能になる。農家はリスクを適切に管理できるようになり、気象現象、機器の故障などの問題によって悪影響を受ける脆弱(ぜいじゃく)性が減少する。
農業は、カーボンオフセットエコシステムの一員となるのに非常に適した産業だ。土壌は、海洋以外で最大の二酸化炭素吸収源だ。光合成によって二酸化炭素を農業用土壌に吸収させることは、自然を使って気候変動と闘う重要な手段になる。農業は二酸化炭素の排出源の一つだが、大気から二酸化炭素を除去する大きな機会でもある。残念なことに、多くの農家にはサステナブルな農業慣行に移行するための資金がない。そのため炭素認定を受けるチャンスがない。
企業にとってESG(環境、社会、ガバナンス)を運用モデルの中心に据えることが社会的経済的プレッシャーになっている。とはいえ、残留排出量の相殺を目指す企業は測定可能で透明性があり、永続的な高品質の炭素プロジェクトを見つけるのに苦労している。従来の金融メカニズムでは農家の金銭的ニーズを満たせないことが多かったが、ブロックチェーンとWeb3の出現によって関係者が迅速に集まり、緊急に注意が必要な正当な理由に資金を提供できるようになった。
現在の炭素市場では、ブロックチェーン対応の多くのプロジェクトが高品質の農業炭素プロジェクトに融資や事前融資を行うのを目にするようになっている。
ブロックチェーンを巡る話題は暗号通貨と豊富なスキームを手に入れることに終始している。農業界にとってWeb3は、150年近く前に初めてトラクターが出現したときよりも革命的であることに間違いない。Web3は世界中の農家やコミュニティーの生活を改善する。農業界がよりサステナブルになり環境保護を支援することに至るまで、無限の可能性を秘めている。ここで取り上げた例はWeb3の応用例のほんの一部にすぎない。
ロビン・サルオックス氏はeAgronomの共同設立者兼CEO。
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