デジタルツインがもたらす医療革命――COVID-19の研究・治療を開始実世界では不可能なことを実現

医療分野にもデジタルツインが応用されつつある。実世界ではあり得ない数のデータを使ってさまざま分析できるデジタルツインによって、医療は大きく進歩する可能性がある。

2022年03月02日 08時00分 公開
[Arash GhazanfariComputer Weekly]

 エンジニアリングや製造の分野では既に一般的なデジタルツインが、医療の世界にも応用されつつある。病気のパターンの検出、治療効果のシミュレーション、最も有望な臨床研究の方法の特定に必要な情報がデジタルツインによって研究者に提供される。

 従来デジタルツインには膨大なコストがかかったが、新たな技術が手頃な価格で出回るようになり参入障壁は下がった。

キーとなるのはデータ

iStock.com/metamorworks

 デジタルツインを使うことで、医学的に類似した大規模コホート(共通因子を持つ集団)で「自分のような患者」を比べられるようになる。これによって疾患の生物学的指標を特定し、年齢、性別、民族、さらには基礎疾患が似た患者の治療法を比較・検証できる。実際の患者で同規模の分析を行うのは不可能だ。

 デジタルツインは臨床研究の方法論に革命をもたらすかもしれない。デジタルツインならば被験者の健康を危険にさらすことなく洞察を引き出せる。

 もちろん、デジタルツインを使うにはデータファーストの考え方が必要だ。より多くのデータを集めることでデジタルツインを増やすことができ、より多くの発見と最適な治療が実現する。

 データは医学の未来を開くキーとなる。われわれ全員がデジタルツイン用の「巨大な」医療データ(電子カルテ、デジタル医療画像、ゲノム解析)を作り上げるベースとなる。

デジタルツインのメリット

 デジタルツインは、比較できる患者コホートを作成するのに役立つ。これを実世界で作るのは不可能か、法外なコストがかかる。危険が伴う治験に被験者を使う必要もなくなる。デジタルツインを適切に使えば、臨床医は最適な治療法を決定でき、患者の転帰が改善し、効率が最大化し、病院のコストが削減される。

 新型コロナウイルス感染者を助けるためにデジタルツインを活用する研究も始まっている。推定によると、新型コロナウイルス感染者の20人に1人は、8週間以上続く症状に苦しんでいる。すぐに回復する感染者と症状が長引く感染者がいる理由はまだ分かっていない。デジタルツインには、こうした症状の謎を解き明かす可能性がある。「最もリスクが高いのはどのような感染者で、その理由は何か」「最も一般的なのはどのような症状か」「最も効果的な治療法は何か」といった疑問の答えが得られるかもしれない。

 Dell Technologiesは米ボストンを拠点とする非営利オープンソース研究機関i2b2 tranSMART Foundationと提携し、デジタルツインの生成に必要なコンピューティング機能、機械学習、ストレージを提供するデータエンクレーブを構築した。

 データエンクレーブに、さまざまな監視システムや電子カルテに散在する世界中の患者データを匿名で収集、保存する。これを分析して得た洞察は、広範な臨床研究コミュニティーに共有される。

 研究者は、遺伝的背景や病歴、長期的な影響を組み合わせ、デジタルツインで数百万件もの個別治療シミュレーションを実行する。つまり、実世界の患者に危険を及ぼすことなく可能な限り最高の治療法を特定できる。データを提供する患者は、研究によって突破口が開かれた場合、そのメリットを直接かつ即座に得られる可能性がある。

 このデジタルツインは、疾患固有の医療用デジタルツインを作るのにも役立つ。医師や研究者はこのデジタルツインを多くの事例に応用できる。AI主導の研究とデジタルツインは、2030年までに10億人規模の健康、教育、経済的機会を促進する。

技術パートナーシップの重要性

 この種類と規模の研究には、データや学習の偏りを防ぐための合成データセットを含む膨大な量の匿名患者データが必要だ。実用的な洞察を得るため、コンピューティング、ストレージ、機械学習を活用しなければならない。同時に、患者のプライバシーとデータのセキュリティも確保しなければならない。

 この点についてはITが真価を発揮する。科学分野の研究者の経験、知識、スキルとIT分野の専門家の知識やインフラを組み合わせれば、コロナ禍に勝利する可能性が高くなる。デジタルツインは貴重な武器になるだろう。

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