機器の低価格で開かれた仮想現実(VR)の医療利用医療ツールとしての仮想現実(第2回)

仮想現実(VR)は今、医療現場に導入されてさまざまな治療に成果を挙げている。VRの可能性、そして課題とは何だろうか。

2017年08月09日 08時00分 公開
[SA MathiesonComputer Weekly]
Computer Weekly

 臨床心理学を専門とするダニエル・フリーマン教授は、バルセロナ大学の研究者たちと協力して高所恐怖症の治療を支援する目的で仮想現実(VR)環境を構築した。(第1回は7月19日号に収録)。

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 全般性不安障害の治療においては、VRの効果はやや薄いかもしれない。だが、現実の環境の中で患者の問題の原因となる要因が何であったとしても、VRは治療に有効なはずだとフリーマン教授は主張する。同教授はまた、人前で話すことが難しいなど、より一般的な恐怖症の治療にもVRを応用できるとも付け加える。

 これがまだ実現していない理由は単純明快だ。「機器が高価だし、かなり高度な専門知識も必要だから」と、同教授は説明する。「例えば高所恐怖症の治療の場合、環境を構築するのに5人規模のチームでも9カ月はかかる」

将来の可能性

 価格が数百ポンドのVRヘッドセットが発売されたことで、こうした開発作業が実行に移される可能性が格段に高まった。臨床試験を終えたフリーマン教授は、オックスフォード大学や他の共同創立者と協力してOxford VRというスピンオフ企業を立ち上げ、その優れた環境の商業化を目指している。

 一方、カナダのケベック大学ウタウエ校心理学科の教授であるステファン・ブシャール博士も、社交不安障害などの精神疾患を治療するためのVR環境の開発に取り組んでいる。この障害に悩む患者は、社交的な活動で他人と関わることに恐怖を感じ、生活が困難になる。

 ブシャール博士も共著の論文を『British Journal of Psychiatry』誌に寄稿している。その研究で同博士たちは、第1回で紹介した暴露療法について、VRを導入した場合と標準的な手法とを比較している。その結果、VRを導入した方が効果が高く、一部の指標では標準的な手法を上回る値が得られただけでなく、治療費もより安価に抑えることができたという。さらにこの研究では、患者が実感した治療の効果が6カ月後も持続していたことが分かった。

 不安障害の治療に使われる仮想環境は総じて、現実的というよりはビデオゲームのような感じだとブシャール博士は説明する。これは、意図的に高度な演算機能を要求しない設計にしているのも一因だが、ユーザーの想像力に任せる余地をあえて残しているためでもある。「非常に現実味あふれる環境を構築したところで、不安障害の治療にはあまり影響しない」と同博士は話す。「患者は、自分の感情をコントロールしようと試みるが、恐れている事象に直面すると、簡単に恐怖感にとらわれてしまう。例えばクモ恐怖症の人は、いかにも偽物くさいオモチャのクモを見ただけでも恐怖感に襲われる」

 ブシャール博士は、VRに人工知能(AI)を取り入れることで、テロ行為などの危険な状況にある仮想患者への対処法を学ぶ、精神保健従事者向けの研修が実現する可能性を感じている。そこでブシャール博士もフリーマン教授と同様に、In Virtuoというスピンオフ企業の経営に関与している。同社は現在、ノルウェー、フランス、ベルギーで製品を販売している。

 また、オーストラリアのメルボルン大学では、VRを使って患者自身でトレーニングを進めるためのプログラム作りに取り組んでいる。

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