まともな広告宣伝をしないで、果たして「偉大なブランド」を作ることができるのか……。語りつくされたかの感があるグーグル神話を、ブランドマーケティングの専門家、ニール・テイラーが、マーケティングの側面から分析する。果たして、その結論は?
書名:Google 最強のブランド戦略
価格:1,470円(税込)
著者:ニール・テイラー
翻訳:石原 薫
出版社:ソフトバンククリエイティブ
「グーグル」が最強のブランドだということは、多くの人にとって異存のない意見だろう。ブランド評価の最大手であるインターブランド社(英)の「ブランドチャンネル」調査で「世界でもっとも愛されているブランド」に2度も選ばれている。
本書では、そのインターブランド社のシニアコンサルタントだったニール・テイラーが、「ブランド」という側面からグーグルの秘密を解き明かす。
グーグルが有名になったのは、口コミということになっている。最初は、その技術の素晴らしさに業界メディアが飛びついた。使いやすさを実感した情報通のジャーナリストたちが、グーグルの強力な支持者になっていった。そうやって、多くの人がグーグルのことを人づてに聞いて知ったのだ。
グーグル自身も、ブランドを売り込むのではなく、製品の質を高め、まず最高の検索結果を出すことが先決だと語っている。確かにグーグルは、一般の大手企業のようなマーケティング活動やテレビや雑誌といったマス媒体を使った宣伝活動は行っていない。しかし、本当に口コミの力だけなのだろうか。大々的なマーケティングや広告宣伝なしで、これほど偉大なブランドを作れるものだろうか。これが本書のテーマだ。
著者のニール・テイラーは、「トーン・オブ・ボイス」の専門家だという。トーン・オブ・ボイスというのは「語り口調」のことで、そのブランドをより「らしくする」ための特定の表現(文体・語調)を戦略的に決定することだ。例えば、企業案内を「弊社は……」と書き出すか「私たちは ……」とするか、ブランドイメージに合わせてコントロールし、統一化するということだ。
本書の前半では、そういった専門家の目でグーグルの歴史をたどり、その特徴を紹介している。トーン・オブ・ボイスの専門家らしく、ブランドの表面に出てこないグーグルの「人格」「文化」「哲学」といった部分を中心に取り上げていく。ポイントは「遊び心」と「オーセンティシティ(真実性)」だ。前者は例えば「ホリデーロゴ」(休日やイベントに合わせて表示される特別ロゴ)であり、後者は「10の事実」(グーグルの理念)における「ユーザー第一主義」などだ。
いずれも、グーグル好きにとってはよく知っている内容なので、物足りなさを感じる人もいるかもしれない。しかし、分かりやすい、優しい口調で進むので、なるほどと楽しめる内容だと思う。
後半からはマーケティング面からの「グーグル」ブランドの分析へと進む。グーグルのスタート時に、検索エンジンはすでに山ほどあったが、そこから抜け出すことができたのは、ひとえに技術の素晴らしさだ。しかし、実用的で効果が高いというだけで「もっとも愛されるブランド」にはなれないだろう。そこにプラスされているブランドイメージが重要だ。ニール・テイラーは、それを「ほんわかとしたぬくもり」と表現している。
例えば、「グーグルは使っていて楽しい。それは一つには、多くのブランドに必ずと言っていいほど存在する視覚的暴力がグーグルにはないからだ。代わりに大きな白いスペースがあり、そのおかげで静けさがある」と言っている。
また、トーン・オブ・ボイスの専門家としての分析もある。「グーグル以外にもユーザーに対してくだけたトーンを使う企業はあるかもしれないが、大手企業のほとんどは相手が投資家となると話し方を変える。<中略>プリンとペイジがIPOの際に投資家あてに書いた手紙は、ブランドにおけるトーン・オブ・ボイスの鑑だ」と敬服している。
ニール・テイラーの分析では、グーグルの「人を夢中にさせる魅力」を形作っているのは「ストーリー性の高さ」だという。そして「それがブランドを売り込んでいないという同社の主張に疑問を感じる一因でもある」と述べている。実はグーグルストーリーは管理されていて、グーグルは反マーケティングというマーケティングをしているというのが、ニール・テイラーの見方だ。グーグル自身は、表向きにはそうは認めないかもしれない。また、もしかしたらそれは偶然の産物かもしれない。しかし、(伝統的なマーケティング活動とは違うが)結果として壮大なマーケティングが行われていると結論付ける。
あいかわらず読みやすい口調で、具体的なエピソードを交えながら徐々にこの結論へと進めるので、楽しんで読むことができる。技術的な面からではなく、ブランドとして、「ユーザーとの関わりを中心にしたグーグル」について知識を得たいという人にお勧めでできる。
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