オフコンを引きずるERPにはさよならを、技術者が注目する次世代ERPとは「Microsoft Dynamics AX」エンジニア座談会

エンジニアは次世代ERPのテクノロジーをどう見ているのか。開発生産性を向上させ、トータルコストを抑える先進テクノロジーの姿が、エンジニアが集まった座談会で赤裸々に語られた。

2011年06月20日 00時00分 公開
[ITmedia]

 ERPベンダー各社が伸び悩み、市場自体も停滞傾向にある中、急成長しているERPパッケージがある。マイクロソフトのERPパッケージソフトウェア「Microsoft Dynamics AX」(以下、Dynamics AX)だ。2010年度は、対前年度比210%と大きく売り上げを伸ばし、2011年に入っても販売は好調に推移しているという。

 Dynamics AXが急成長している背景には、従来のERPパッケージに変革をもたらす先進テクノロジーへのチャレンジがある。オフコン発祥のERPを時代遅れにする新しい感覚のUIを搭載し、技術者によるデモンストレーションにも柔軟に対応。「Microsoft Office」と同等の使いやすい操作性や、Javaエンジニアに親しみのある扱いやすい開発言語、レイヤーに基づく開発に対応し、優れたカスタマイズ性を実現する階層型アーキテクチャを搭載する。これらの先進的な技術がERP技術者を引きつけているのだ。

 今回はDynamics AXのシステム構築・導入の最前線で活躍するシステムエンジニア4人に、Dynamics AXの先進テクノロジーが開発の現場にどのような変革をもたらそうとしているのか、本音を語ってもらった。

評価が高いユーザビリティ

――「Microsoft Dynamics AX」(以下、Dynamics AX)が評価される要因の1つにユーザビリティがあります。ユーザーからどう評価されていますか。

座談会参加者
氏名 企業名 所属
見田龍司氏 日本電気株式会社 第一製造業ソリューション事業部
主任
山岸 敦氏 横河ソリューションズ株式会社 情報エンジニアリング第1事業部
営業部1Gr長 コンサルタント
小野和幸氏 株式会社アイ・ティ・フロンティア SMBソリューションユニット
事業推進 担当部長
永田恭將氏 フューチャーレイズ株式会社 ERPソリューション部
マネジャー
【司会】鈴井洋介氏 日本マイクロソフト株式会社 Dynamicsビジネス本部 ERPソリューション推進部
シニアテクノロジースペシャリスト

山岸氏 普段からMicrosoft Excelを使い慣れているユーザーからは、ユーザーインタフェースが似ているので使いやすいと聞いています。やはり、Microsoft Office製品に近いユーザビリティを備えていることが高い評価につながっています。

小野氏 ユーザビリティについては、「分かりやすい、使いやすい」というユーザーがいる一方で、オフコンを長年利用していたユーザーは、コマンドラインインタフェースの感覚に慣れているので、Dynamics AXは使いづらいという声もありますが、全ての画面の操作性が統一されていることや、メニューに戻らず関連画面に遷移できることなど、最終的には高い評価につながっています。

画像 NECの見田龍司氏

見田氏 確かにオフコンの単票画面は、[Tab]キーを押すとどんどん入力が進んでいきますね。その感覚に慣れていると、Dynamics AXの操作性に違和感を覚えるのも仕方ないと思います。

永田氏 ユーザビリティに関しては、見せ方を工夫することも必要だと思います。Dynamics AXの標準画面は、メニューや項目などが盛りだくさんで、出し過ぎている印象も受けます。例えばビデオデッキでたくさんボタンがあってどれから押したらよいか分からないという感覚を覚えるのと同じかもしれません。ある程度、画面の表示項目を絞ってからユーザーに提案すると、より使いやすいという評価が得られます。操作説明が簡単になるので、トレーニングの時間も短縮できると思います。

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短期開発でトータルコストを抑制

――Dynamics AXは企業のコスト削減には貢献できていますか。

小野氏 Dynamics AXは、従来の同規模のERPパッケージと比較して、Fit&Gap分析にかかる要員はそれほど変わりませんが、拡張性・カスタマイズ性に非常に優れた製品ですので、開発工数・期間を抑えることができ、トータルコストは削減できています。

画像 横河ソリューションズ 山岸 敦氏

山岸氏 従来のERPパッケージに比べて開発工数が大幅に短くなったことに加え、ユーザー画面のボタンの変更や項目の追加などがカスタマイズ費用に入らなくなったことで、導入コストは確実に削減できています。

見田氏 ユーザー画面のカスタマイズ性の高さと、導入におけるコストメリットは、Dynamics AXの強みです。このことを顧客に強く訴求していく必要があると考えています。

永田氏 ユーザー画面を柔軟に変更できることは、一方で、保守を担当する情報システム部門にとっては、エンドユーザーからの変更要求に頻繁に応じることで、逆に管理工数を増大させてしまうというリスクもあります。しかし、従来のように、1つの変更要求に対して多額のカスタマイズ費用を払うのも、余計なコストと言えますね。このメリットとデメリットを、情報システム部門に理解してもらうことも重要です。

「衝撃だった」レイヤーテクノロジー

――Dynamics AXが評価される要因の1つに、導入時や変更時に柔軟なカスタマイズが行える階層型のアーキテクチャ「レイヤーテクノロジー」があります(※1)。実際に販売パートナーはこの機能をどう活用し、顧客にどんなメリットをもたらしているのですか。

見田氏 NECでは、現在、国内大手製造業のグローバル展開において、アジアの販売拠点にDynamics AXの導入を進めています。このケースでは、パートナーソリューション向けのレイヤー、当社が開発を担当するレイヤー、顧客自身がカスタマイズ開発を担当するレイヤーの3階層を用意しました。そして、ERPの共通機能の開発は当社、帳票など各国向けオリジナル機能の開発は顧客と、レイヤーの役割分担を明確にしました。これにより、当社と顧客が同時並行で開発を進めることができ、開発生産性やメンテナンス性の向上を実現することができました。

画像 アイ・ティ・フロンティアの小野和幸氏

小野氏 アイ・ティ・フロンティアでは、当社が提供するテンプレートを入れるレイヤーと、顧客の固有要件をカスタマイズするレイヤーの2階層を使用しています。これにより、テンプレートに直接手を入れることなく顧客の固有要件の追加開発が行えるため、品質の向上・開発コストの削減が実現できます。また、導入後の保守において影響調査が容易に行えることも大きなメリットです。

永田氏 レイヤーという概念のない従来型のERPパッケージでは、カスタマイズのためにソースコードを改変するとモディフィケーション扱いになり、プログラムのロジックが全て変わってしまいます。そうなると、元に戻すことは難しい。Dynamics AXのレイヤーテクノロジーを活用すれば、プロトタイプ段階での機能のFit&Gapも容易です。導入の上流フェーズにおいても、生産性向上のメリットを得られることは大きいですね。

山岸氏 横河ソリューションズではプロセス製造業向けにDynamics AXの導入を進めていますが、基本的に4階層のレイヤー構成です。プロセス製造業向けソリューションのレイヤー、当社が提供するテンプレートを入れるレイヤー、当社がカスタマイズを担当するレイヤー、そして顧客がカスタマイズを担当するレイヤーの4つです。特にDynamics AXは、ソースコードやデータベースがオープンなので、顧客自身がレイヤー内で柔軟にカスタマイズを行えるのが大きなメリットです。栗山米菓さまのように、Dynamics AXの導入をほぼ自社で完了した事例もあり、非常に手離れがよいことも評価できます。

開発経験者が1日でマスターした独自開発言語

――Dynamics AXの独自開発言語であるX++(※2)は、開発の現場ではどう評価されていますか。

山岸氏 従来、横河ソリューションズではCOBOLに近い開発言語や初期オブジェクト指向言語を使っていたため、新たな技術者を調達することが困難でした。これに対して、X++はJavaに近い言語なので、技術者を確保、育成しやすくなりました。当社では、X++をベースにした開発ツールを自主開発して利用していますが、Javaを理解している技術者ならば、短期間で使いこなせるようになります。

画像 フューチャーレイズの永田恭將氏

永田氏 開発経験のある若手の技術者にX++の学習を促したところ、1人で自習して、半日程度で画面を作ってきました。プログラミング開発の経験があれば、簡単に入っていけるようです。

小野氏 アイ・ティ・フロンティアの開発メンバーは、ほとんどがJava経験者なので、X++も違和感なく扱うことができています。ただ、Dynamics AXはオブジェクト指向設計のため、Dynamics AX特有の“作法”を考慮しながら開発する必要があります。

見田氏 現在、パートナーと連携してX++の技術者育成に取り組んでいます。特別な教育プログラムを用意しているわけではありませんが、Javaの技術者であれば、自習レベルでもX++を習熟することは可能です。後はオブジェクト指向への対応が課題になりますが、どのフォーム、テーブルに書くのかというDynamics AX特有の“作法”が分かってくれば問題ない。他の言語に比べれば、比較的、技術者育成はしやすいと考えています。

――X++はDynamics AXの独自言語とはいえ、派生元がC#ということもあり、Javaにも近いといわれています。C++やJavaなどのオブジェクト指向型言語での開発経験があれば早く技術習得ができるというのもエンジニアにとっては大きなメリットですね。

高額なBI機能をタダで利用できる

――Dynamics AXでは、SQL Serverのビジネスインテリジェンス(BI)機能「SQL Server Analysis Service」(SSAS)を標準提供しています。この機能は現場ではどのように活用されていますか。

山岸氏 横河ソリューションズでは、月次の集計・分析でSSASを活用し、Excelによるフォーマットを顧客に提供しています。一方、業務帳票など日々使うものについては、X++で開発したり、けい線が必要な場合はExcelと連携してフォーマットを整えて出力しています。

永田氏 従来、BI機能のために高額な専用ツールを導入する必要がありました。Dynamics AXではBI機能をいわばタダで使うことができます。これには衝撃を受けました。

見田氏 NECではX++で開発したリポート機能を活用しています。

小野氏 SSASのBI機能は提案の際には非常に興味を引きます。定型リポートはX++で開発した当社の帳票テンプレートを提案し、分析系リポートはSSASのBI機能を提案するといった使い分けをしています。また、フォームが簡単に作れるので、Excelボタンでダウンロードしてユーザーが自由に加工するパターンも多いです。

――Dynamics AXではユーザーの役割や見たい情報の粒度に応じて、リポート様式もさまざまな形で提供できるのが特徴です。定型帳票はX++で開発したテンプレート型帳票を、集計・分析用にはExcelを使って動的にデータを切り替えて表示できるSSASリポートを提供できます。 現場ユーザーにも、その特徴をご理解頂き、有効に活用できているようですね。

 とはいえ、他社のERPパッケージにもBIのオプションがいろいろあると思います。他社のBI機能と比べ、AXのBI機能はどんなポイントで差別化されると思われますか?

小野氏 他社製品ではクエリ機能でSQL文を書いて、画面に出力し、データをダウンロードさせるということが多いのではないでしょうか。Dynamics AXではデータを分析するためのキューブ(分析用多次元データベース)やExcelとの連携が標準で提供されているため、他社製品で必要とされるクエリ作成や出力画面設計といった構築工数を削減できるのは大きなメリットです。

見田氏 キューブの定義などをERP内で行い、SQL Serverに配信するという機能までを備えているのが、Dynamics AXのポイントだと思います。トランザクションのデータベースと分析用のデータベースの整合性が取れているということは、正しいデータを“見える化”するという点で重要な基盤要素です。

画像 司会を務めた日本マイクロソフトの鈴井洋介氏

――標準の項目だけを分析するのであれば、どのERPでも比較的に簡単ですが、通常はその分析にロジックを追加したり、同時に集計を行うようなことが求められます。その際に分析用DBとトランザクションデータのDBがきちんと同期しているのかということが議論になります。Dynamics AXはトランザクションのDBと分析用のDBがきちんと項目レベルで同期をしていることで連携がしやすくなっています。

 顧客からは「アナリシスサービスはSQL Serverの機能ですよね」と質問されることがあります。SQL Serverの機能であれば、他のERPでもアナリシスサービスの機能が利用できるという意味だと思うのですが、そうではありません。SQL ServerとDynamics AXは共通のマクロソフトのテクノロジー基盤で動いているからこそ、運用面でもメリットが出てきます。“BI”はBI専用パッケージで、“ERP”はERPの機能だけを備える専用パッケージで、という従来の分離型思考から脱却し、人、物、コストを管理するためのソリューションであるERPと、それらのリソースの“動き”を的確に分析するためのBIが、一体となることで初めて経営効率の改善、戦略的経営が実現できることを、顧客にもアピールしていきたいと思います。

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※1)「レイヤーテクノロジー」

アプリケーションの更新や変更を分離して管理するためにDynamics AXが使用する方法を「レイヤー化」と呼ぶ。レイヤーは、アプリケーションのソースコードを始めとする各オブジェクトを格納する階層で全8階層ある。レイヤーを使用することで、作業中のレイヤーより下位のレイヤーのアプリケーションオブジェクトに干渉することなく、追加および変更を行うことができる。あるレイヤーのオブジェクトを変更すると、その変更されたオブジェクトはそれより下位のレイヤーのオブジェクトより優先される。レイヤーを使用するとソフトウェアを“ビジネスニーズに合わせる”ことができるので、レイヤー化は、開発者および企業にとって非常に魅力的な機能といえる。

画像 アプリケーションを管理する階層(レイヤー)構造《クリックで拡大》

※2)「X++」

Dynamics AXで使用されるオブジェクト指向プログラミング言語。C++に似ているため、広範囲のトレーニングを受けなくてもプログラミングが可能とされている。プログラマーは、既存のDynamics AXシステムクラスにアクセスすることで、基本I/O、XML、実行時にGUIのコントロールを変更するなど、さまざまな機能を利用できる。


画像 座談会の様子

提供:日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:TechTarget編集部