2017年04月20日 10時00分 UPDATE
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教員ではなく学習者主導のIT活用へ奈良県がアドビ製品で目指す「アクティブラーニング」の具体像とは?

県立学校の学習者や教員を対象に「Adobe Creative Cloud」の包括ライセンス契約を締結した奈良県。クリエイティブなツールの活用で目指す学びの形とは。奈良県とアドビ システムズの対談から明らかにする。

[TechTargetジャパン]

 現在、奈良県教育委員会事務局(以下、県教委)は、次期学習指導要領や大学入試改革に向けて、教員が学習者に一方的に知識を伝える授業の在り方から、学習者が「自分の考えを表現し、他者の持つ多様性に触れながら、自らの学びを深める 」(注1)アクティブラーニングへ移行すべく、教員のIT活用を促進している。

※注1:中原 淳+日本教育研究イノベーションセンター編著『アクティブ・ラーナーを育てる高校』(学事出版、2016年)から。

 2014年9月に文部科学省が公表した「平成25年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」における「都道府県別 教員のICT活用指導力の状況(全校種)」の項目で、47都道府県中の最下位という不名誉な称号を与えられたのが奈良県だ。この結果に危機感を抱いた同県は、教育委員会を中心にIT活用教育に積極的に取り組み、現在では全国でも珍しい先駆的な取り組みを次々と打ち出している。

 2014年9月に県教委は、教員および学習者がどの高校においてもアドビ システムズ(以下、アドビ)の「Adobe Creative Cloud」(注2)や他社のITツールを標準的に広く活用できる環境を整備。同時にアドビを含む複数のITベンダーの協力を得て、幅広い分野で数多くの教員IT活用研修をリードしてきた。こうした取り組みの価値や将来性について、県教委の教育長を務める吉田育弘氏と、アドビのマーケティング本部副社長を務める木ノ本 尚道氏が語り合った。

※注2:「Adobe Photoshop CC」「Adobe Illustrator CC」といったアドビのプロツールを含む統合サービス。

IT教育“後進県”から一躍先進的な取り組みへ

アドビの木ノ本氏 奈良県における教員のIT活用は、ここ数年の間で急速に進展していると伺っています。どのような背景があったのでしょうか。

写真 奈良県教育委員会の吉田育弘氏

県教委の吉田氏 私が教育長に就任してから、一貫して教員に求め続けてきたのは「学ぶこと」です。学習者に学ぶ姿勢を教えるには、誰よりもまず教員自身が学ぶ姿勢を見せることが大切です。そのためにさまざまな施策を打ってきました。一方でIT活用に関しては、かつては他県と比べて遅れていたのが実情でした。こうした状況を打破するには、教員が自らITについて積極的に学び、活用できる環境を整える必要があると考えました。

木ノ本氏 私たちもこうした考えに共感し、2014年に県教委と、クリエイター向けプロツールであるCreative Cloudの包括ライセンス契約を締結しました。これは日本では初となる、教育委員会と県内全ての県立学校を対象とする包括契約でした。2016年10月には、教員向けコミュニティーサイト「Adobe Education Exchange」の日本におけるサービス提供を開始し、そのコミュニティーでメンバーと共有する教育リソースを奈良県の教員の方々と共同開発をしていく運びとなりました(画面1)。

画面1 画面1 Education Exchange

吉田氏 県教委のスタッフも、何とかして教員のITリテラシーを向上させようと本気になって取り組んだ結果が、アドビとの包括契約にも結び付きました。こうした「現場を知る教員」の熱意が、今の取り組みにつながっています。

木ノ本氏 Creative Cloudを県立高校に全面的に導入した結果、教員の方々は、具体的にどのような形で活用されているのでしょうか。

吉田氏 最も活用が進んでいるのが、学校案内をはじめとする校務文書の作成です。これまでは、校務文書を作成する際には印刷会社に発注していたのですが、Creative Cloudを導入したことで教員が自ら作成できるようになり、従来のわずか1割程度のコストで済むようになった例もあると聞いています。もちろん授業で使う各種教材を教員が自ら作成する上でも、Creative Cloudは大いに役立っています。

木ノ本氏 IT活用の取り組みを主導し、他教員のメンターの役割を果たす「教員エバンジェリスト」というポジションを設けているのも大変ユニークな取り組みだと思います。当初は、当社が教員エバンジェリストに直接研修を行っていました。その後は当社のアドバイスや協力を随時得るものの、教員エバンジェリスト自身が他の教員向けの研修を企画・主催し、Creative Cloudの活用研修を実施しているそうですね。

吉田氏 私たちとしては、全ての教員のITリテラシーを同時に底上げするよりは、まずは高いITリテラシーを持つ教員を育成して、さらに現場で彼らから他の教員へとノウハウが波及していく方法が有効だと考えています。ただしこの取り組みはまだ道半ばで、中には校長がこうした取り組みについて正確に把握できていない学校もあるなど、まだやるべきことは多いと痛感しています。

Creative Cloudから広がるアクティブラーニングの可能性

写真 アドビの木ノ本 尚道氏

木ノ本氏 学習者のCreative Cloud活用成功事例が既にあるそうですね。奈良県立磯城野高等学校の生徒2人が、依水園(名勝に指定されている奈良県の日本庭園)の観光案内のため、Creative Cloudの各種ツールを使って、フライヤー、POP、映像を制作した話を聞いたときには、随分驚きました。庭園内の各所でスマートフォンのカメラを向けると、その場所に対応した観光案内映像が表示されるという拡張現実(AR)技術を駆使したアプリで、Creative Cloudの可能性をフルに生かした素晴らしい事例だと思いました。


奈良県立磯城野高等学校 AR活用事例《クリックで動画再生》


吉田氏 私も研究発表会でこれを初めて見たときには正直驚きましたし、クリエイティブツールを通じて生徒が短期間のうちに問題解決のアイデアを形にしたことには感動すら覚えました。中にはこうした体験によって自らの可能性に気付き、メディアについてもっと学びたいと大学進学へと進路を変えた生徒もいるのです。そもそも、この事例は農業科における郷土学習の中で生徒が取り組んだものです。「情報」の授業として行った取り組みではありません。

 現在、人工知能(AI)関連の技術がものすごい勢いで進化を遂げており、今人間がしている仕事のかなりの部分に取って代わるのではないかといわれています。そんな時代の到来に備えて、今子どもたちが学校で体験すべきことは、自分たちにはアイデアを形として表現できる創造的な力があることに気付くことです。Creative Cloudのようなプロツールは、AI技術が将来担う仕事とは本質的に違う、創造的に考え、結果を出すという高度な仕事の体験を教育現場にもたらすはずです。そういう意味では、アクティブラーニングの格好の事例だと考えています。

木ノ本氏 一方で、今後のチャレンジはありますでしょうか。

吉田氏 惜しむらくは、現在ではまだIT活用教育に熱心な教員が学習者を主導して、こうした取り組みを進めている点です。理想を言えば、教員が指導しなくとも、学習者の方からアイデアや成果が自発的に出てくるようにしなければいけないと考えています。デジタルツールの使い方は、教員より学習者の方がはるかに習得が早いので、10年経てば教員よりも学習者の方が育ちます。できるだけ早く、こうした状態に持っていきたいですね。

木ノ本氏 アクティブラーニングとは、まさにそうした姿勢を育むためのものですからね。

吉田氏 そのための取り組みの1つとして現在、県立学校の生徒会長が集まる連絡会でCreative Cloudのレクチャーのようなことができればいいなと考えています。生徒会長は、学校行事をリードする立場の生徒です。彼らがアドビ製品の活用方法を覚えて学校に帰った後、学校行事などの場で積極的に活用することを提言すれば、生徒発の活用がどんどん進むのではないかと期待しています。

 生徒主導でCreative Cloudを活用してどんなことを生み出してくれるのか、とても楽しみにしています。こうして教員の側、生徒の側の両面から、学校におけるIT活用を広げていくことができれば理想だと考えています。

木ノ本氏 ぜひ当社としても、そうした取り組みに協力させていただきたいと思います。Education Exchangeには、教員向けだけではなく学習者向けの情報も多く掲載されていますし、学習者が発信する情報や作品も多く掲載、共有されています。こうした場を活用すれば、現在の活動が奈良県全域、もしくは全国的に波及していく可能性もありますね。

PCの更新タイミングとソフトウェアの契約期間を完全に分離

写真

木ノ本氏 奈良県では当社の製品だけでなく、他社の製品についても包括契約で導入を進めていることが多いようですが、そうした調達の方針に至った背景には、どのような事情や理由があったのでしょうか。

吉田氏 かつて県立学校でのソフトウェア導入は、各学校の教務主任が導入したいソフトウェアを決めて、教育委員会と相談して導入を決めていました。その選定プロセスにおいては、現場の教員の意向は反映されないことも多く、いわんや学習者には全く向き合っていませんでした。こうした状況は、私が現場の教員をしていたころから約20年間変わりませんでした。これを思い切って変えたかったのです。そのためには、現場で本当に求められる「良いもの」が必要だと考えていました。

木ノ本氏 現場の意向をソフトウェア製品の選定に反映させるようにしたのですね。

吉田氏 その通りです。現場の教員からは「『Adobe Illustrator CC』や『Adobe Photoshop CC』を使いたい」という要望があったのですが、その意向がなかなか反映されませんでした。個別に導入するとなるとコストも掛かりますから、なかなか要望に応えることができなかったのです。アドビと包括契約を結んだことで、コストを抑えながら全ての県立学校の教員や学習者がアドビ製品を使えるようになりました。

木ノ本氏 学校ごとに個別に導入するとなるとコストが掛かりますし、契約期間がばらばらになってしまいますから、ライセンス管理が煩雑になりますね。

吉田氏 今回のCreative Cloudの包括契約では、アドビに3年の契約期間を実現していただきました。通常、クライアントPCの入れ替えサイクルは5年となっており、ソフトウェア製品もこれまではハードウェアに付属するものとして扱われてきました。そのためクライアントPCの入れ替えタイミングで、各校独自にソフトウェア製品の導入を検討してきました。Creative Cloudの包括契約を機に、クライアントPCとソフトウェアの更新を切り離して考えられるようになりました。

 ハードの整備にはどうしても時間がかかりますが、ソフトウェアの力を利用すれば、高い能力を持つ教員をすぐ育てることができます。アドビとの包括契約によって、これが可能になったわけです。

木ノ本氏 ちなみに今回の包括契約では、教員が自宅でCreative Cloudを利用できる権利が含まれています。今の子どもたちは、スマートフォンやタブレットを使って、普段の生活の中で気付いたことを写真や動画で気軽に保存して、それをさらにその場で加工するといったことをごく当たり前のようにしています。教員もCreative Cloudを使って、学校だけでなく学外の日常生活の中で、ふと目にしたことや気付いたことを保存したり加工したりすることで、子どもたちのライフスタイルや技術革新に合わせた教材開発が可能になるのではないでしょうか。

吉田氏 一般企業ではITを使って「場所にとらわれない働き方」が広がりつつありますから、個人的には学校の教員もそうした働き方ができるべきだと考えています。残念ながら現在はさまざまな制約があって、教員は学校という場所に縛られている面があります。アドビ製品を自宅でも使えるようになったことが、教員のワークスタイルが変わるきっかけになればよいと考えています。

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提供:アドビ システムズ株式会社

提供:アドビ システムズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:TechTargetジャパン編集部