「何となく内部統制の時と似てきたな」。そんな雰囲気が漂う日本のIFRS適用。金融庁が公表した「IFRSに関する誤解」文書が投げかけるIFRSアドプションの意味を考えてみましょう。
出る出るといわれていた「国際会計基準(IFRS)に関する誤解」が4月23日に金融庁から公表されました(参考記事:金融庁、IFRSに関する17の「誤解」を公表)。内容についてはさまざまな意見があるようですが、真っ先に私が思ったのは「内部統制の時と似てきたな」ということでした。
金融商品取引法における内部統制報告制度(いわゆるJ-SOX)では2005年12月に、金融庁の企業会計審議会内部統制部会が、J-SOXの大枠を定める報告書を公表しました(発表資料)。その後2007年2月には実際の内部統制整備について基準を示す「実施基準」が公表され、大きく注目されました。IFRSフォーラムの解説記事にもあるようにこの実施基準が日本の内部統制報告制度の拠り所となっています。
その後、金融庁はこの実施基準の内容を補足する文書を相次ぎ公表します。2007年10月には「内部統制報告制度に関するQ&A」が公表されました。このQ&Aは内容が2度追加されました。そして多くの企業で導入初年度の準備がほぼ終わろうしていた2008年3月には「内部統制報告制度に関する11の誤解」が公表されました。企業によってはこの文書によって作業の手戻りが発生したようです。
さて、IFRSでは2009年6月に企業会計審議会が「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」を公表(発表資料)し、2010年3月期からの任意適用を打ち出しました。実際に関連法規が改正され、任意適用が開始されました。そして、このタイミングで「誤解」文書の公表です。文書公開後の反応を聞くと、早いタイミングでの公表を歓迎する声が聞こえました。「誤解」文書には「2010年(平成22年)4月」と記されていて、今後の状況変化に応じて項目が修正・追加されていくことが予想されます。
金融庁はJ-SOX同様に中間報告を補足するような文書を今後も公表し、企業の対応を促すのでしょうか。インターネット上ではこの件に関しては懐疑的な意見が見られました。小石川経理研究所では「J-SOXの場合は完全に日本のローカル基準であり、金融庁がコントロールできるルールだったのに対し、IFRSは金融庁の影響力がほとんど及ばないところで作られている」と指摘しています。
IFRSはIASB(国際会計基準審議会)で作成されていて、金融庁はその結果を受け入れるという立場です。内容を改変することなく、IFRSをそのまま(ただし日本語版)適用します。また、日本独自でIFRSの解釈を作成することも基本的にはできません。つまり、金融庁はJ-SOXにおける「実施基準」を作成することができないのです。金融庁が今後できることは限られるかもしれません。
そう考えると日本の会計基準を開発している企業会計基準委員会(ASBJ)もIFRSについてできることは限定的です。日本企業とIASBのパイプ役になり、IFRSの改訂作業に影響を及ぼすことは重要な役割といえますが、IFRSを直接的にコントロールできるわけではありません。アドプションとはこういうものだといえばそれまでですが、時代の移り変わりを感じます。
それではIFRSフォーラムで4月に掲載したIFRSフォーラムの記事ランキングと、ニュース記事のランキングを紹介しましょう。
新人経理さん向けの記事です。これから経理部に所属する人は上場企業であればほぼ全員がIFRSに向き合わざるを得ないでしょう。そういう読者を想定し、IFRSを分かりやすく解説しました。会計基準とは何かから始まり、IFRSの歴史や特徴、適用のロードマップ、そして経理部員がこれからすべきことを解説します。素朴な疑問「IFRSは何て読むの?」についても答えを紹介します。
日本公認会計士協会が公開している“欧州での失敗事例集”ともいえる「CESR執行決定データベース」についての解説記事です。日本企業でも問題になりそうな事例を取り上げて詳しく解説します。特に注目したいのは原則主義についての考え方です。IFRSの原則主義に基づき、概念フレームワークから離脱することができるのか? 記事の最後には事例から得られる教訓を記しています。
2位の記事の第2回です。ここではIFRSにおける経営幹部の考え方について解説します。IFRSでは企業グループにおける経営幹部の情報開示を求めていますが、企業側としてはその範囲をできるだけ狭めた方が対応が楽になります。IFRSの考え方に基づく場合、どのように判断できるのでしょう。明確な数値基準がない中で、どのように開示の判断が行われるのかを学ぶことができます。
金融危機を契機に始まったIFRSの見直し。特に金融機関に深く関係する会計基準(IFRS9号など)が焦点となりました。この記事では金融業界全般のトレンドを紹介し、金融業の企業がIFRSを適用する場合、何がポイントになるかを解説します。資産のオフバランス化を認めないIFRSによって金融業のバランスシートは膨張が予想されます。金融業は経営判断の転換が求められるでしょう。
SEC(米証券取引委員会)が2月に公表した声明文は日本にも衝撃を与えました。米国企業へのIFRSの強制適用を従来から1年延期し、2015年以降としたからです。この声明文はIFRS適用についての米国の後退を意味するのでしょうか? 記事ではその考えを退けて「IFRSへの取り組みが本格化した印象を受ける」としています。ただ、IFRSの原則主義への不満も米国にはあると解説します。
4月のニュース記事ランキングは以下です。コーポレートガバナンスについての記事や、IFRSのXBRL対応についての記事が人気を集めました。
2011年は会計コンバージェンスが終了し、2012年にはIFRS強制適用の判断が行われる予定です。それに比べて2010年はIFRSについての大きなトピックスが国内ではないと思っていましたが、任意適用の第1号企業が登場すると見られるなど、動きはいろいろとありそうです。「誤解」文書を公表した金融庁でも何らかの動きがあるのでしょうか。引き続きウォッチしたいと思います。
それではまた来月お会いしましょう!
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