前回に続く金融商品に関する会計基準解説の2回目。今回はIAS39号のヘッジ会計や、発行者側の会計処理、開示規定について日本基準との比較も行いながら、解説する。
前回は主に金融商品の保有者側の会計処理についてIFRS9号とIAS39号の内容を解説した。今回は、IAS39号の残りの論点であるヘッジ会計、IAS32号が規定する発行者側の会計処理およびIFRS7号の開示規定について解説する。なお、本文中の意見にわたる部分は筆者の私見である。
IAS39号で規定されているヘッジは次の3種類である。
(a)公正価値ヘッジ
財政状態計算書に認識(=計上)されている資産や負債、または未認識の確定コミットメントの公正価値変動に対するエクスポージャーをヘッジする方法である。なお、確定コミットメントとは、所定の数量の資源を将来の所定の日に所定の価格で交換する拘束力のある契約のことである。公正価値ヘッジの例としては、先物取引を利用した株価変動によるリスクのヘッジがある。
(b)キャッシュ・フロー・ヘッジ
財政状態計算書に認識されている資産や負債、または可能性が非常に高い予定取引に関連するキャッシュ・フローの変動に対するエクスポージャーをヘッジする方法である。例えば、変動金利の借入金を固定金利の借入金に変えるための金利スワップによるヘッジがある。
(c)在外営業活動体に対する純投資のヘッジ
公正価値ヘッジを適用する場合にはヘッジ手段とヘッジ対象の両方を公正価値で測定し、それぞれから生じる利得または損失は純損益に認識する。一方、キャッシュ・フロー・ヘッジの場合にはヘッジ手段にかかわる利得または損失のうちヘッジが有効な部分はその他の包括利益に認識し、非有効部分は純損益に認識する。日本基準では、非有効部分についてもヘッジ会計の対象として繰延処理が容認されているが、IFRSにおいてはそのような規定はない。
ヘッジ会計に関してIFRSと日本基準で最も異なっている処理は、為替予約の振当処理と金利スワップの特例処理である。日本基準では一定の要件を満たす場合に、為替予約などで確定した円貨額で外貨建取引・金銭債権債務等を換算し換算差額を期間配分する振当処理や、金利スワップを時価評価しないことを認める例外規定が存在するが、IFRSではいずれの処理も認められないことに注意が必要である。
また、日本基準におけるヘッジ会計の処理は繰延ヘッジが原則であり、時価ヘッジは容認処理とされその他有価証券のヘッジにのみ認められている。ところが、IFRSにおける公正価値ヘッジとキャッシュ・フロー・ヘッジは、ヘッジ対象の性質によって選択されるものであり、どちらが原則ということはない。従って従来は繰延ヘッジを適用していた取引についてIFRS適用後は公正価値ヘッジを適用するというケースがあり得るが、この場合損益の認識タイミングが早まることになる。
企業が発行した金融商品が負債と資本のいずれに区分されるかによって、その後の会計処理に影響を及ぼす。その1つは期末における評価方法である。負債に分類された金融商品の公正価値変動はIAS39号に従って財務諸表に認識される場合もあるが、資本に分類された場合には、公正価値変動が認識されることはない。また、発行した金融商品に関して、その金融商品の保有者に利息や配当として現金などを引き渡すことがあるが、この会計処理も当該金融商品の区分により異なることになる。
負債と資本の区分は企業の任意で行えるわけではなくIAS32号の規定に従う必要がある。その際に着目するのが、金融商品の契約条件に現金などを引き渡す義務が含まれているかという点と、自己株式により決済されるかどうかという点である。
負債と資本を区別する重大な特徴は、(1)金融商品の発行者が現金等を当該金融商品の保有者に提供するか、または(2)発行体にとって潜在的に不利な条件で金融資産・負債を保有者と交換する契約上の義務が存在していることである。(1)または(2)の特徴を有する金融商品は負債に分類される。(2)の特徴は少々分かりにくいが、償還オプションを保有者に与えている場合がこれに該当する。なお、企業の財政状態計算書における分類は金融商品の法的形式ではなく実質によって決定される。
例えば、優先株式のうち一定の日において一定の金額で発行体の強制償還を定めているものや、一定の日以降に一定の金額で当該金融商品を償還することを発行者に要求する権利を保有者に与えているものは、負債に分類される。償還の選択権を発行者が有している場合には、現金などを支払う義務が存在していないため負債ではなく資本に分類される。
発行した金融商品に、現金などを引き渡す義務が含まれていなければ、当該金融商品は通常資本に分類される。ただし、ストック・オプションや新株予約権などのように自己株式で決済される可能性がある場合にはさらに検討が必要である。
この場合のポイントは、企業が自己株式を通貨として用いているかどうかである。つまり、引き渡す自己株式の数量が変動するかどうかに着目し、変動する金融商品は負債に分類される。例えば、公正価値が2000万円に等しくなるだけの数の自己株式を引き渡す契約は負債に分類される。この場合、引き渡す自己株式の数量は、当該株式の公正価値によって変動する。一方、企業の株式の固定数を固定額の現金で購入する権利を相手方に与えるストック・オプションは資本に分類される。この場合、自己株式の公正価値が変動したとしても引き渡す自己株式数は変動しない。
負債に分類された金融商品に関連した利息、配当、損失および利得は純損益に収益または費用として認識しなければならない。一方、資本に分類された金融商品の保有者に対する分配は、関連する税効果を控除した後に資本に直接借方計上する。
利息や配当を純損益に認識するか資本から直接控除するかどうかは、発行した金融商品の分類によって決まる。そのため、株式の配当であっても、負債に分類されていれば当該配当額は社債にかかわる利息と同様に費用として認識される。
発行した金融商品の契約条件によっては、当該金融商品が負債と資本の両方の性質を併せ持っている場合がある。そこで、デリバティブ以外の金融商品の発行者は、当該金融商品が負債と資本の両方を含んでいるかどうかを判定するために契約条件を検討しなければならない。
企業は、金融商品の構成部分のうち、(1)負債を創出する部分と(2)当該金融商品の保有者に企業の株式に転換する権利を与える部分とを区分して認識する。負債部分については資本部分とは独立に算定された金額を割り当て、資本部分には金融商品全体の公正価値から負債部分の金額を控除した残額が割り当てられる。
日本基準では、転換社債型新株予約権付社債について、新株予約権(資本部分)と社債(負債部分)を区分せず、一括して社債の発行に準じて処理することが認められているが、IFRSではすべて区分処理が要求される。
最後に、IFRSにおける金融商品の開示について概略を説明する。詳細な開示項目についてはIFRS7号の基準書や開示例を参照していただきたい。開示例についてはEDINETの全文検索で「国際財務報告基準」などをキーワードに検索すれば見つけることができる。
IFRS7号で規定されている開示項目は、(1)財政状態計算書に関する事項として金融資産・負債の分類ごとの帳簿価額など、(2)包括利益計算書に関する事項として金融商品の分類ごとの収益、費用、利得および損失項目など、(3)その他の事項として、会計方針やヘッジ会計、公正価値に関する開示が規定されている。また、金融商品から生じるリスクの性質および範囲について定性的開示と定量的開示の両方が求められている。定量的開示には信用リスク、流動性リスク、市場リスクの開示が含まれる。
日本基準でも、2010年3月期より金融商品の時価開示に関する基準が適用されたことにより、金融商品全般について開示項目が増加している。ただし、リスクの定量的開示については一部の会社のみでよいとされているなど、開示の情報量はIFRSと比較すれば少ない。
慶應義塾大学理工学研究科卒。2007年に公認会計士試験に合格し仰星監査法人に入所する。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
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