5月:粉飾と新興市場/記事ランキング【IFRS】月刊IFRSフォーラム【7】

新興市場で残念な粉飾が起きました。倒産に結び付くなどリスクの高い粉飾を早期に発見し、新興市場の健全性を保つにはどうすればいいのでしょうか。IFRSはその一助になるのではないでしょうか。

2010年06月01日 08時00分 公開
[垣内郁栄,TechTargetジャパン]

25社が粉飾で倒産

 企業の粉飾決算、不正会計の事件が相次いでいます。帝国データバンクが5月に発表した資料によると2009年度にコンプライアンス(法律遵守と倫理遵守)違反で倒産した企業は94社でした。その違反理由として最も多いのは「粉飾」で25社でした。同社によると負債額の大きかった企業10社のうち、7社は粉飾が理由で倒産しています。粉飾に手を染めることのリスクの高さが分かります。

 5月に発覚し、大きな注目を集めたのは半導体製造装置メーカーのエフオーアイ(FOI)の粉飾決算でしょう。この企業も上場への強いプレッシャーを対外的に受けていたことが想像できます。

 FOIは2009年11月に上場しましたが、その上場前の2009年3月期の決算で100億円以上の売上高の粉飾を行っていたといいます。2009年3月期の同社の売上高は118億円なので、そのほとんどが粉飾された売り上げだったことになります。海外の半導体メーカーに製品を販売したかのように装い、うその売り上げを計上してたということです。同社には証券取引等監視委員会が5月12日に金融商品取引法違反(有価証券届出書の虚偽記載)の疑いで強制捜査。5月18日には東証が同社の上場廃止を決定しました。また、同社は5月21日、破産手続きの廃止を発表しました。上場から上場廃止まではわずか7カ月で、これまでで最短です。

 この粉飾に関しては同社以外に、その上場を認めた公認会計士と証券会社、東証の責任を問う声が挙がっています。上場時の監査を担当したのは会計士の共同事務所。売掛金が売上高の2倍以上になっていたことや、その回転期間の長さなど不自然な財務諸表を見過ごしたことについて、ずさんさが指摘されています。また、主幹事企業だったみずほインベスターズ証券は「誠に遺憾であり、大変重く受け止めております」とのコメントを発表しました(PDF)。

上場審査の限界

 東証には上場審査時にFOIの架空売上を指摘する情報が寄せられていたといいます。東証の代表執行役社長 斉藤惇氏は同社の上場廃止を決定した5月18日の会見で、「同社の審査に関しては上場審査基準に従って、ルールどおりに実施した」と語りました。しかし、以下のようにも述べて東証の上場審査の限界を説明しています(東証の発表資料 PDF)。

≪ 「ご案内のように日本の監査法人制度も非常に厳しくなって、監査人個人にも責任が問われる制度になっているわけです。国家試験を受けた監査人が、間違いありません、承認しますという公式文書を提出してくるわけです。それをまた東証が疑いを持って、初めから一つひとつ調べるわけにはいかないと思います。また、時間とか、効率とか、人員とか、いろいろな問題を考えると、全員で協力しながらやっていくしかないと思います」

 「答えは難しいですが、正直言いますと、本格的に完璧に仕組んできた場合は、東証だけでは見抜けないです。だからと言って責任逃れするつもりはありませんが、それが現実です」≫

 「答えは難しいですが、正直言いますと、本格的に完璧に仕組んできた場合は、東証だけでは見抜けないです。だからと言って責任逃れするつもりはありませんが、それが現実です」

 ずさんだったり、相手が巧妙だったりしたのかもしれませんが、今後の上場審査がさらに厳格化されるのは間違いないでしょう。国内の新規上場は2009年に19社で、前年度と比べて30社の減少でした。2010年度も低水準が予測されていますが、FOIの粉飾事件でさらに冷え込むことが想定されます。

 国内には技術革新や新しいビジネスモデルで急成長する可能性があるベンチャーがたくさんあります。しかし、1社の粉飾で新興市場が白眼視され、有為なベンチャーまでもがその成長の機会を奪われるのはとても残念です。投資家の目線で企業の業績を判断できるといわれるIFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)の適用は、新興市場の不透明感の払拭にも役立つと思います。

5月掲載記事のランキング

 それではIFRSフォーラムで5月に掲載した記事のランキングと、ニュース記事のランキングを紹介しましょう。

1位:「クラウド」を会計の視点で見ると

 これまでその効果を疑問視する声もあった「クラウドコンピューティング」はベンチャー企業による効果的な利用法の提案や大手ベンダの参入で、完全にITのメインストリームに躍り出ました。会計パッケージなどのERPをクラウドで利用することも今後は普及するでしょう。この記事では会計人に向けて、クラウドなどの最新のIT用語を140字というコンパクトな文字数で解説します。

2位:「IFRSに関する誤解」の行間を読む(1)

 金融庁が4月23日に公表した「IFRSに関する誤解」を解説する記事です。納得できる、疑問に思うと、「IFRSに関する誤解」を読まれた方の感想はさまざまなようです。記事では公認会計士が、この文書の真意を読み解きます。

3位:IASB議長の発言で感じるIFRSのうねり

 企業会計基準委員会(ASBJ)が4月28日に行ったセミナーでIFRSを策定する国際会計基準審議会(IASB)のデイヴィッド・トゥイーディー(David Tweedie)議長が講演しました。記事はその講演録です。私が好きな議長の発言は、IFRSの原則主義を説明したうえで「それは会計の専門家にとって、本当の意味でプロフェッショナルになる最後のチャンスといえるかもしれない」と述べるところです。

4位:「IFRSに関する誤解」の行間を読む(2)

 「IFRSに関する誤解」の「個別的事項」について解説する記事です。IFRSの公正価値評価や包括利益、企業年金の処理、収益認識などについての「誤解」と「実際」、そして「行間の意味」を説明しています。

5位:生き残る流通企業のIFRS対策を考える

 過当競争に苦しんでいるといわれる流通企業のトレンドとIFRS対応を説明します。海外の大手流通企業に負けないためには国内企業も海外展開とM&Aが必要です。IFRSでは収益認識と固定資産がポイントになりそうです。いずれも対応には時間が掛かりそうで早期の対応開始が必要でしょう。

ニュース記事ランキング

 5月のニュース記事ランキングは以下です。注目は2位に入った、IFRSを国内で初めて任意適用した日本電波工業の決算についての記事。IFRS適用の苦労が伝わってきます。

 最後にお知らせをさせてください。アイティメディアは5月31日、「ERP&IFRS」という新しいオンラインメディアをスタートさせました(無料の会員登録が必要です)。これまで「ERP」というメディアがあったのですが、IFRSフォーラムからITシステム関連の記事を引っ越しさせるなどして今後はIFRSとITシステムについての記事を掲載します。IFRS適用プロジェクトにかかわるIT担当者の方に読んでいただければと思い、私が編集しています。

 また、お気付きかと思いますが、IFRSフォーラムもトップページなどをリニューアルしました。財務・経理向けの解説記事を引き続き掲載します。Twitterなどで感想をいただければと思います。

 それではまた来月お会いしましょう!

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