IFRSを自主適用した会社の挑戦(1)【IFRS】IFRS動向ウォッチ【5】

連結ソリューションを提供しているディーバがIFRSの「自主適用」を行った。採用のための条件がある任意適用は断念し、自主的な適用だが、実際にプロジェクトを立ち上げて会計基準の差異分析などから着手。IFRS適用のための課題をプロジェクトリーダーが説明する。

2010年09月22日 08時00分 公開
[斎藤和宣,株式会社ディーバ]

 連結ソリューション「DivaSystem」を開発、提供しているディーバがIFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)の「自主適用」を行った。国内では、上場企業は連結財務諸表に対してIFRSを任意適用できるが、条件がある。ディーバはその条件に合致せず、自主適用を選択した。自主適用を率いてきたディーバのプロジェクトリーダーがこれまでの作業を説明する(編集部)。

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IFRSを参考にした「自主適用」

 「ディーバでもIFRSの適用を検討してみよう」という当社の代表取締役社長 森川徹治の発言から、ディーバのIFRS自主適用が始まりました。日本がIFRSをアドプションする方向で検討を進めていると紙面をにぎやかし始めたのが2008年夏ごろでしたが、2007年に株式を上場し、公開会社の一員となっていたディーバにとっては自社自身の対応を意識しなければなりません。同時に、われわれの本業が連結会計を中軸に据えたソリューション提供であることを考えると、まさにビジネス面でも直接的な影響のある状況になりつつありました。

 ところで、ご存じのように2009年6月に「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」が公表され、またその後の法整備の中で、任意適用(強制適用の前に任意でIFRSを適用すること)をするに当たっての要件が設けられました。その中に、「外国の法令に基づいて国際会計基準で開示している」あるいは「海外市場で国際会計基準で開示している」「海外に資本金20億円以上の子会社を有している」のいずれかを満たさなければならないという要件があります。残念ながらディーバではその条件に該当しないため、強制適用を待たずIFRSを任意適用するという道は閉ざされてしまいました。

 ただ、会社として経験的にIFRS対応を実践することは、今後の本格的な対応に向けての意義は大きいと考えていました。また、お客さまのIFRS対応を支援するに当たっても、われわれの経験の中から得られたノウハウ、知識をソリューションとして案内することができるようになります。

 以上のような経緯で、IFRSの任意適用ではなく、あくまでもIFRSを参考にした連結財務諸表等の作成を行う「自主適用」という選択肢を採ることになりました。

兼務中心でプロジェクトスタート

 IFRS自主適用に向けた方向性が決まると、次にはプロジェクトとして体制を組み、具体的なスケジュールを策定し、構築していきます。今回の取り組みは全社プロジェクトになりますので、CFOを責任者として据え、経理部とは別の担当を、導入支援部門、開発部門などから現業と兼務のままアサインし、私も参加して2010年2月にスタートしました。

 まずは、IFRSに移行する場合にギャップとなる日本基準との相違点について、検討対象ポイントの洗い出しです。上場しているとはいえ、ディーバは子会社2社の計3社のグループですし、事業内容もほぼ単一かつモノをあまり持たないビジネスです。そのためプロジェクト開始前は、減価償却方法の定額法への変更検討や、ライセンス販売の出荷基準の見直し、新たな有給休暇引当金の計上など、現行から見直すポイントはそれほど多くなく、時間をかけずに論点の洗い出しは終了するものと想定していました。

プロジェクト体制

9つのポイントで調整

 ところが、実際にはディーバに関連のある論点は予想を大きく超え、想定外の検討をしなければいけない状況でした。とはいえ検討対象に挙がったからといって、必ずしもすべてについて日本基準からの調整が必要になるとは限りません。逆に、IFRSをしっかりと理解したうえで、現在の日本基準での運用を生かしてどう実現ができるのかを考えていくことが重要な視点でした。これらの検討では、IFRSの各基準の趣旨を理解し、各論点について会計方針概要として整理していくことになります。結果として、主に9つの論点で会計基準間の相違を調整しました。

 各論点が洗い出されれば、次はその調整額の把握と調整仕訳の作成を行います。そのためには、基礎資料が必要です。例えば、減価償却方法の変更であればまずは固定資産台帳データを入手し、定率法で償却している資産については定額法にした場合の影響額を試算します。幸いMicrosoft Excelで十分取り扱い可能な量の固定資産しかないため、手作業で影響額を算出しました。

到着見込み基準

 そのほかに、ライセンス販売については日本基準では出荷基準で収益認識していますが、IFRSでは「重要なリスクおよび経済価値が買手に移転しているか」という点で見直す必要がありました。結果としては、発送したライセンスがお客さまの手元に届くであろうと見込まれる日で収益認識する(到着見込み基準)こととし、調整額算定に当たっては期末日に出荷したライセンスを集計する作業を行いました。

 有給休暇引当金は、一般的な有給制度のほか、5日間の連続休暇が取れる「DIVA特別休暇」という弊社固有の休暇制度を対象として処理することにしました。引当額の算定では、休暇がいつの勤務に対して付与される(前年の勤務に対して付与するのか、当年度期待される勤務に対して付与するのかのポイント)のかの判断が必要でした。また、基礎情報が人事情報で、そのデータに触れることができる社員は限定されます。この点が、調整作業における1つのハードルでした。

 別の難しさをはらんでいたのが資産除去債務です。日本基準でも資産除去債務の会計処理が始まり、ディーバは今期(ディーバは6月期決算)から日本基準で対応する予定です。IFRSでの適用方法を決めるに当たって、その日本基準の資産除去債務との整合性を確保する必要性が生じてきます。この点に関しては、今回のプロジェクトチームの判断だけでは進められませんでした。

直接法に挑戦

 キャッシュ・フロー計算書については、直接法に挑戦することにしました。IFRSでは一応お勧めの方法ですが、“本来の作成方法の直接法”は現実的にはできませんので財務諸表から作成する“間接的な直接法”で作成することにしました(注)。そうであれば必要な基本情報はほとんど間接法と同じなので、あとは作成方法の見直しだけでした。なお、子会社の範囲などで違いがなければ、日本基準のキャッシュ・フロー計算書もIFRSで調整したキャッシュ・フロー計算書も、内容は変わりありません。また、直接法に変更したとしても営業活動によるキャッシュ・フローの内訳の表現方法が変わるだけで、それ以外の部分は影響がありません。

(注)IAS第7号19項では、“直接的な直接法”のほかに、“間接的な直接法”として売り上げ、売上原価および包括利益計算書に含まれるその他の項目から、(1)棚卸資産及び営業債権・債務の期中変動額、(2)その他の非資金項目、(3)現金への影響が投資または財務活動によるキャッシュ・フローとなるその他の項目を調整する方法を示しています。

 また、初めてIFRSを適用する際の初度適用と同じように、2010年6月期の財務諸表だけでなく、比較対象年度の2009年6月期、さらに期首の財政状態計算書になる2008年6月期の数値作成まで対象としました。従って、本番を迎えるまでの準備として2008年6月期、2009年6月期の処理を済ませておく必要がありました。

開示アプローチを採用

 ディーバはIFRS導入で「開示アプローチ」を推奨しています。今回のIFRS自主適用もその開示アプローチを採用して取り組みました。むしろ、今回は自主適用した財務諸表の公表を目標にしていたことに加えて、4カ月という導入期間しかありませんでしたので、どんな公表資料を作るかのゴール設定から着手するしかなかったのも事実です。

 ここでいう「開示アプローチ」とは1つの重要なゴールである「開示」からアプローチしIFRS適用のためのギャップを埋めていく進め方です。基準差異調査の積み上げ型の分析情報と組み合わせることで、過不足なく、後戻りのない対応を実現します。

開示アプローチの考え方

 

開示アプローチで重要なのが「開示モデル」です。開示モデルとの内容と、開示アプローチの具体的な進め方を説明しましょう。

 IFRS導入の初期フェイズでは、開示情報のモデルを作成することと、そのモデルと現在の開示情報との差異を明確化することが主な目的となっており、後続の具体的なアクションにつなげていきます。

 モデル作成に必要なインプットは、比較対象として金融庁の開示例や、すでに開示を行っているベンチマーク企業の開示資料、さらには各アカウンティングファームなどから提供されるひな型が考えられます。これらのインプットをベースに各企業での開示に対する姿勢(開示ポリシー)を判断基準とすることで、まずは目次レベルでのモデルを作成します。

 次に、財務諸表で開示する勘定科目を上記比較対象資料と照らし合わせながら決めていきます。ここで、会計基準差異の影響分析結果が生かされます。例えば新規に適用することによって追加される有給休暇引当金の勘定があれば、開示上は「その他」などの勘定に含めて表示するものの、各会計システムでは新規に勘定科目として新設するなどの見極めにつなげられます。

 また、注記など財務諸表以外の開示情報についても、各比較対象資料および自社の状況から注記として記載すべき事項を決めていき、各注記ごとの概算額など実際の注記を想定したアウトラインを記述していきます。こうして開示モデルと言える、網羅的な開示書類イメージができあがります。

 次に現在の開示情報とのギャップ分析です。簡単に表現すれば前述の開示モデルと現在作成している有価証券報告書のそれぞれの内容を確認し、比較することで、まずは掲載内容のギャップ(情報範囲のギャップ)を抽出していきます。そして、当然ながら、開示対象は同じであるけれども会計処理の違いによって数値に違いが出てくるもの(質的なギャップ)も抽出します。

 ギャップを網羅的に把握した後は、その解消の手立てを策定し実際の導入フェイズに入って行きます。解消の手立て、ロードマップを考える際には、その手立てが「個別業務」で対応が必要なものなのか、「個別会計」の領域で反映されてくるものなのか、「データ収集」「連結処理」「開示」それぞれのプロセスで、どのような対応が必要になるのかを整理します。これによって開示まで見渡した対応を準備でき、後戻りのない効果的なIFRS対応である開示アプローチが成立します。

プロジェクト成功のために専任体制を

 さて、IFRS自主適用に向けた準備ですが、2010年6月期決算に入るまでに2009年6月期までのIFRS財務諸表の確定ができず、実際には2010年6月期の数字を作りながらの作業になってしまいました。その原因としては、やはり体制面に1つの課題があったと考えています。プロジェクトチームは立ち上げましたが、専任体制を敷くことができず兼務で担当していました。そのためプロジェクトタスクの優先順位が上げられず、結果として遅れが発生しました。

 われわれがIFRSを本適用をする際にはこの教訓を生かさなければなりませんし、IFRS対応に取り組む各社でも、プロジェクトを確実に成功させるために専任の体制を作ることをお勧めします。むしろ、そうでない場合は期待した結果を出すことは非常に難しくなると思っています。

 この後は、いよいよ2010年6月期の本決算とIFRSの自主適用決算に入っていくことになりますが、その内容は次回ご紹介します。

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