グローバル展開している企業が多い素材・エネルギー企業は、同時に複雑な業務プロセスを持つ。そのような素材・エネルギー企業のIFRS対応は収益認識や固定資産管理への対応がポイント。古い商習慣を変えるきっかけにもなるだろう。
素材、エネルギーの各社は中堅企業であっても高度にグローバル化しているのが特徴だ。従来は日本本社を中心としたハブ構造のビジネスが多く、日本を経由する業務プロセスが多かった。しかし、ここ数年は工場や研究開発のローカリゼーションを進めている企業が多く、ビジネスはネットワーク型へと進展している。素材、エネルギーとも市場の変化が激しく、その要求に迅速に応えるためには現地で柔軟に対応する必要があるからだ。
財務経理部門の体制もそのネットワーク型ビジネスに合わせて移行している。従来、海外ビジネスの拡大に合わせて、各国の財務経理スタッフは本社から派遣されることが多かったが、世界の拠点が数十カ所以上あるような企業では、複数の拠点を束ねるシェアードサービスセンターを開設し、エリアごとに経理処理を統合しているケースもある。各社とも経理処理の効率化とガバナンスの両立に工夫しているのだ。IFRS適用によって一時的にせよ、経理処理作業は増大が予測される。各社はビジネスプロセスアウトソーシングを含めて、経理とITシステムの今後を考え直す時期に来ているといえるだろう。
IFRS適用はこれまでの商慣習を変えるきっかけになるだろう。特に素材・エネルギー業界では世界的に古い慣習が残っている。例えば、出荷の後になって変更する石油・石油関連製品の「事後調整」や「仕切り価格」などはその例だ。原油・石油製品価格はマーケットによって常に変動している。そのため、仮の価格で出荷し、後になってその価格をさかのぼって見直すということが、日本だけでなく世界で行われている。この慣習はエネルギー業界の上流から下流まで存在し、業務プロセスを複雑にしている。
売り上げの認識を厳密に定義するIFRSの適用はこのような慣習を見直すきっかけになるかもしれない。IFRSを適用している欧米のエネルギー企業でもIFRSに基づき、判断し、対応を進めているようだ。また、エネルギー業界では商社が卸しとして入ることが一般的。リベートなども、どの取引、商品にひも付くリベートなのかを明確にする必要があるだろう。
素材、エネルギー企業がIFRSの収益認識に対応するためには、現状の取引のパターンを洗い出すことが先決だ。そのうえでリベートや事後調整、返品ルールなど現行の業務がIFRSの下でどのように扱われるのかを監査法人などの協力を得ながら確認する必要がある。財務経理部門だけでなく、現場部門の取引も検討対象となるため、現場部門の協力も必要になるだろう。
多くの企業と同様に素材・エネルギー業界でも有形固定資産についての会計処理がIFRS適用のうえでは最も負荷が大きくなるだろう。設備やインフラの規模が巨大でその会計処理の変更は簡単ではない。コンポーネントアカウンティングの考えを採るIFRSでは、精油所やプラントなどの償却単位が日本基準(税務上)と比べて細分化される可能性がある。有形固定資産の中で耐用年数や経済的便益の消費パターンが異なる構成要素の取得原価が、その有形固定資産の取得原価合計と比べて重要性がある場合、IFRSでは個別に減価償却することが求められる。税務上の計算に加えてこの処理に対応するためには、重要な構成要素別に固定資産を明細管理できるシステムや業務プロセスが必要になるだろう。
素材・エネルギー企業のインフラ設備は世界各地にある場合が多く、世界規模での対応が求められる。減損についても同様で固定資産のグルーピングや実施方法を前もって決定することが必要になる。
日本基準でも適用が始まった資産除去債務も対応が必要だ。資産の解体や除去費用、敷地の原状回復費用についてあらかじめ債務として計上する必要があり、素材・エネルギー企業では特に生産過程で化学物質を多く使うので、その識別が重要になる。対象資産に対する資産除去作業の有無の識別、法的債務の確認、債務金額算定ルールの策定などが必要で、計上を行うためにシステムを用意した方が効率的といえるだろう。
固定資産関係では、税務処理と異なる処理が多くなることが想定されており、税務上の簿価とIFRS上の簿価の両方を維持管理できるようなシステムが必要になるであろう。
エネルギー業界のIFRS対応で注目されているのは、新日本石油と新日鉱ホールディングスが統合して誕生した国内最大手、JXホールディングスの対応だ。また、電力などそのほかの業界では業界団体などがIFRS適用に向けてガイドラインを示す方向だ。
IFRS適用で取引の透明性や業務の可視性が向上する可能性がある。事後調整など独特の慣習がある素材・エネルギー業界では、取引における単価と数量を明確に意識せざるを得なくなる。結果的に予算計画など経営管理の質の向上にも結び付くだろう。
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