IAサーバの仮想化統合を実施した企業が、今度はより重要なシステムへの仮想化適応を検討している。これまでのプロジェクト以上に信頼性と拡張性が求められる中、選ばれたソリューションとは?
仮想化がコスト削減の手段として定着し、ソフトウェアライセンスの削減などを目的に企業での検討・導入が当たり前のように行われるようになってきた。仮想化ソリューションの数も増えており、選択に悩むこともあるだろう。
そもそも仮想化技術はどのように成長してきたのだろうか? あらためて仮想化の進化をひも解いてみることで、自社のニーズに応えられる仮想化ソリューションを見つけられるかもしれない。本稿では、1年前にIAサーバの仮想化統合を実施し、その経験を基に今度は基幹システムへの仮想化適応を検討している企業の製品検討プロジェクトの模様を、物語風に紹介。俎上に上がった仮想化ソリューションの中から選ばれたものとは?
チームリーダー(以降、リーダー):「わが社では2010年からIAサーバの仮想化統合を試験的に導入してきた。運用には幾つか課題も残っているが、大幅なコスト削減効果も見込めるので今後基幹システムへも仮想化ソリューションの採用を前提に検討を進めていきたいと思う。まずは、2012年にリース切れを迎えるERPシステムを第一の候補に検討を進めていこうと思う。そこで、IAサーバ統合プロジェクトをリードしてくれたAさんは初の仮想化プロジェクトを総括し、基幹システムで仮想化を導入するための要件・懸念事項をまとめてくれないか」
Aさん:「はい、分かりました。今回の試験導入で一定の効果と、本格導入するために解決しておきたい課題も幾つか見つかりましたので、それらをまとめて報告します」
リーダー:「それと、Bさんは各社の仮想化ソリューションを調べておいてくれるか」
Bさん:「承知しました! 最近はVMwareやHyper-V、KVM(Kernel-based Virtual Machine)などの仮想化ソリューションも増えてきましたからね。情報もたくさんWebに載っているので調査しておきます」
リーダー:「基幹システムへの採用となるから、各社のUNIXサーバと2010年に導入したVMwareを比較してくれるか」
Bさん:「えっ、UNIXサーバも仮想化できるんですか!?」
リーダー:「おいおい、何を言っているんだ。仮想化はBさんが生まれる前からメインフレームで実現されていた機能だぞ。この際、仮想化技術がどうやって成熟してきたのかも一緒に調べてもらおうか」
サーバ仮想化はIAサーバの技術だと思っていた入社2年目のBさん。不用意な一言で仮想化の歴史まで調べることになってしまった。まずはさまざまなWebサイトで仮想化の歴史と機能を調べ始めた。
今回新たにBさんが知ったのは、仮想化はクラウド環境にも活用される先進技術というだけでなく、何十年も前から改良が重ねられた技術だということ。「基幹システムで仮想化技術を採用するとは大胆なチャレンジだ」と思っていたBさんだったが、既に多くの企業の基幹システムでメインフレームやUNIXの仮想化が使われて洗練されてきているのだと納得した。
リーダー:「どうだ、調査は進んでいるか?」
Bさん:「もちろんです! 仮想化技術は新しいだけでなく、同時に古いものであることが分かりました。1960年代にはIBMメインフレーム上で仮想化が始まり、仮想OSを実現する機能や、物理分割(PPAR)、論理分割(LPAR)といった技術が次々と誕生しました」
Bさん:「UNIXサーバへの適用は1990年代後半になり、HPとSun Microsystemsが物理分割への対応を始めました。IBMは物理分割を採用せず、自社メインフレームで実装していた論理分割をUNIXサーバへ移植開始しています。一方、IAサーバ上ではVMwareがソフトウェアベースの仮想化製品を販売し始めたころでもあります」
リーダー:「仮想化の歴史についてはだいぶ理解が進んでいるようだな。引き続き、仮想化ソリューションの比較を頼むぞ」
こうして仮想化についての理解を深めたBさんは、なんとか仮想化比較をまとめあげ、プロジェクト会議に臨んだ。
リーダー:「それでは本日は、AさんにIAサーバ仮想化プロジェクトの総括と提言を、Bさんには仮想化ソリューションの比較を発表してもらおう」
Aさん:「わが社では2010年にサービスレベルや稼働率が低いIAサーバをVMwareによって試験的に仮想統合しました。わが社として初めての仮想化適用でしたが、既に多くの企業で仮想化ソリューションの導入が進んでおり、さまざまなノウハウを事前に入手できる環境が整っていました。実際にそれらの情報を基に予測していた効果を達成することができています。一方で、仮想化を導入した企業が困っている点は、わが社のプロジェクトでも課題として残っています。これらの解消が基幹システムの仮想化適用に当たっての前提条件になると考えられます」
リーダー:「それでは詳細を説明してくれ」
Aさん:「2010年のわが社のプロジェクトでは、Linuxサーバ10台とWindowsサーバ5台を、VMwareを使って2台に統合しました。その効果と課題をまとめたのが、こちらのスライドです」
Aさん:「まずコスト効果については運用コストを35%削減できました。内訳は、消費電力を80%削減、スペースコストを73%削減、ソフトウェアコストを30%削減できました。これは、事前の試算とほぼ同じ効果が得られていることになりますので、今後も仮想化を進めることによって、これらのコストを削減していくことができると考えます。また、システムの利用率も10%未満から40%ほどに改善し、その他にも運用管理にかかる時間も減るといった効果が得られました」
リーダー:「ぜひ継続して取り組んでいきたいな」
Aさん:「一方で、基幹システムの仮想化適応に向けて課題も幾つか挙げられます。今回統合の対象はサービスレベルや稼働率が低いシステムを選んでいますので、より重要なシステムへと仮想化の適用範囲を拡大していく場合には、高いサービスレベルに応えられる仮想化技術である必要があります」
リーダー:「それは、基幹システムに仮想化を採用するには、時期尚早ということか?」
Aさん:「多くの仮想サーバが同時に稼働することになるので、複数のサービスを一度に止めないために、統合されるシステムのサービスレベルに見合った信頼性と可用性の確保が重要になります。特に仮想化機能そのものが脆弱であると、一度に全てのサービスに影響が出るリスクが高まってしまいます」
リーダー:「脆弱かどうかはどうすれば判断できるんだ?」
Aさん:「例えば、米国政府機関が脆弱性を管理するWebサイトを立ち上げています。このWebサイトでわが社が導入したVMwareを検索してみると、これまでに500件以上の脆弱性に関する報告が行われており、過去3年間でも300件以上も見つかります」
リーダー:「そんなにあるのか! 場合によっては毎週システム止めて、パッチを当てていないといかんなぁ」
Aさん:「はい。今回Bさんが調べてくれた中では、脆弱性の報告が全くなかった仮想化環境もありましたので、後ほどBさんから説明してもらいます」
リーダー:「それはぜひ知りたいな」
Aさん:「また今回のプロジェクトでは、それぞれの仮想サーバに十分なメモリ割り当てができないと、性能に大きく影響が出ることが明らかになっています。稼働中のメモリ割り当ては、増加はできますが削減ができないので、相当余裕を持ったメモリ構成にしなければなりません。一方で、最新のバージョンからはメモリ容量制限が加わりますので、多くのメモリを使うためには上位のライセンスが必要になり、かなり高額になることが予想されます」
リーダー:「どこで必要十分かを判断するかだな。コストはもちろん重要だが、先ほどのセキュリティも重要だし、止められないサービスもあるからなぁ」
Aさん:「前回のプロジェクトではデータベースは対象に含まれていませんでしたが、今後基幹システムの仮想化統合を進めていく上では、データベースの統合は避けられません。もしサービスレベルの高いシステムに組み込まれたデータベースやアプリケーションを統合するとなると、まずはハードウェア自体の信頼性や堅牢性、高い利用率でも性能を発揮するタフさが重要です。従って、IAサーバよりも信頼性が高いといわれているUNIXサーバの仮想化を検討していくのがよいと思います」
リーダー:「データベースはCPU処理と同時にI/O処理も高い能力が求められる。従って、1つひとつの仮想サーバに必要な資源を、システムを止めることなく割り当てられること、そして、統合するサーバにはさまざまな状況に対応できる高い拡張性も重要だな。仮想化のメリットである柔軟性が発揮できなければ、単にサーバを物理的に集約しているにすぎないから、統合効果は限定されてしまう。Aさんが挙げてくれた課題の3つ目と4つ目を両方クリアできるサーバはあるのか?」
Aさん:「その点はBさんと一緒に、これらの課題を念頭においた仮想化ソリューションの比較をしていますので、Bさんから説明してもらいます。結論から言いますと、スケールアップ型でダイナミックに資源配分のできる仮想化に優位点があると考えています」
リーダー:「そうか、分かった。基幹システムに求められる仮想化要件について共通認識を持てたと思うので、次はBさんにサーバ仮想化の比較を説明してもらおう。仮想化についての理解は深まったようだが、最近の仮想化の流行はどうなんだ?」
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