IFRSにかかわる組織から毎月、公表される各種文書。ムービングターゲットと言われ、変化を続けているIFRSの姿を捉えるにはこれらの文書から最新情報を得る必要がある。今月は収益認識基準やリース基準についての議論動向などを紹介する。
2011年は、MoUによる多くの検討項目が基準化される年であるとともに、米国におけるIFRS導入に関する決定の行方が注目されている年でもある。IFRS Watch第7回は、9月中に公表されたIFRS関連情報より注目すべきものをピックアップしている。今回は、再公開草案が公表されることとなった収益認識基準やリース基準についての議論など、IFRS導入についての各国の動向を中心に最新情報をお届けする。
【これまでの記事】
ASBJ:企業会計基準委員会
FASB:米国財務会計基準審議会
IASB:国際会計基準審議会
IFRS:国際財務報告基準
MoU:IFRSと米国の会計基準との間の差異に関するコンバージェンス合意
SEC:米国証券取引委員会
IASBは、2011年7月に「アジェンダ協議2011」を公開している(参考リンク)。これは、IASBの基準設定における基本方針と資源配分についてまとめた文書であり、同時に幾つかの項目について、2011年11月を期限とし、コメントを応募している。
9月21日に開催されたASBJの会議では、ASBJとしてコメントを発表するという基本的スタンスの確認および、議論の土台となるアジェンダの内容についての確認がなされた。
具体的なコメント応募項目のうち、主なものは以下の通りである。
FASBの委員長であるLeslie Seidman氏は、Accounting Todayのスタッフへの取材に対し、FASBとIASBとで現在進めているコンバージェンス作業の進展と、IFRSを米国の財務報告システムへ組み入れるか否かについて今後SECが行う判断に関し、コメントをした。
Seidman氏は、収益認識基準については、今後1カ月内に120日間のコメント募集とともに基準を公表し、その後得られたコメントを再審議した後、2012年の前半にはプロジェクト完成を目指したいと述べた。そして、リース基準については、現在の再審議が終わり次第、あらためて公開草案を公表し、少なくとも2012年中の完成を目指しているとした。さらに、金融資産の減損に関するプロジェクトついては、具体的な期日を明言することは避けた。
なお、SECは近い将来に、米国の会計基準とIFRSとの間で残された差異の分析に関するレポートと、IFRSが世界中でどのように適用され、財務諸表がどのように作成されているかに関する調査結果についてのレポートの公表を予定していることを最近明らかにした。Seidman氏は、IFRSに関する今後のSECの判断について、何らかの予測を提供することは避けたものの、今後公表されるSECの2つのレポートついて触れた上で、会計基準が世界中で一貫して適用されるためには、監査人や規制当局間の連携が必要であり、一貫した適用が実現するまでには、まだ相当の努力が必要であろうと述べた。
IASBとFASBは、適用範囲、リース料受取債権に対する金融資産のガイダンスの適用、その他の貸し手の測定、残価保証に関する貸し手の会計処理、および表示について議論を行った。
(1)適用範囲——棚卸資産
償却を行わないスペアパーツや消耗品などの通常棚卸資産として取り扱われる資産や他のリース原資産に関係する資産について、リース基準の適用除外を設けないことを暫定的に決定した。IASBは、この点についての例示を次回の再公開草案において提供する予定である。
(2)リース受取債権に対する金融資産ガイダンスの適用
以下の3点について、暫定的に決定された。
(3)その他の事後測定
貸し手は、残存資産の減損についてIAS第36号「資産の減損」を適用すること、レートやインデックスに連動する変動リース料再評価によるリース料受取債権の変動を即時に損益として認識すること、及び残存資産の再評価は禁止されることが暫定的に決定された。
(4)貸し手——残価保証
リース基準は、借り手・第三者が行うものにかかわらず、全ての残価保証に対するガイダンスを作成すべきであること、貸し手は、リースの終了時点まで残価保証により受け取る金額を認識すべきでないこと、ただし貸し手が残存資産の減損を判定する場合においては、残価保証を考慮すべきことが暫定的に決定された。
(5)表示
リース料受取債権と残存資産を区別して財政状態計算書で表示し、合計をリース資産とする方法、リース料受取債権と残余資産をリース資産として一括で財政状態計算書上表示し、注記で内訳を開示する方法の2つを暫定的に決定した。また、貸し手のリースから生じるキャッシュの受け取りを営業キャッシュ・フローに分類することを暫定的に決定した。
上記の論点に加えて、新基準の最初の適用時における借り手に対する経過措置についても議論が行われたが、結論には到達しなかった。この点については将来のミーティングで議論される予定であるため、注視が必要である。リースの再公開草案は、2012年第1四半期に公表される予定である。
IASBとFASBは、金融資産の減損の「3バケット」予想損失アプローチについて議論を行った。これは、信用リスクの管理システムを最大限使用するアプローチである。
(1)3バケットアプローチとは
貸付金の信用レベルが悪化する一般的なパターンを反映するアプローチで、信用レベルの悪化に応じて、貸倒引当金の金額を決定する3つの(バケット)に分類する。
バケット2、3以外の資産で、個別に分類せずグループとして減損を評価する資産が分類される
将来起こり得る債務不履行と直接関連のある事象の発生により影響を受ける資産が分類される
個別資産の貸倒れの発生が予想されるか、既に発生していると個別に識別できる情報が入手可能な資産が分類される
(2)バケット内の金融資産の分類
現在の信用リスクの管理システムは、過年度に実行された金融資産と当年度に実行された金融資産を区別することが困難で、それぞれにつき予想される貸倒れを区別することが不可能である。そのため、委員会は実務上の負担を軽減するよう、報告日時点でそれらの信用リスクのレベルに従ってバケット内の金融資産を分類することを暫定的に決定した。そのようなアプローチは、金融資産がバケット1以外に分類された時点で、残存期間に予想される貸倒れを認識することになるだろうと委員会は認識した。
委員会は、(1)企業結合により取得したものも含め、公正価値で当初測定すべき金融資産と、(2)主として信用レベルの低い金融資産の組成に携わる企業を、このモデルの中でどのように取り扱うかを検討するようにスタッフに指示した。
(3)バケット間の金融資産の移動
委員会はバケット間の金融資産の移動について議論し、バケット間の移動が数値基準よりも、原則基準によるべきであることで合意した。その原則は、契約上のキャッシュ・フロー獲得能力について重要な不確実性があり、信用リスクの高まりにより企業が当該金融資産をより積極的に管理し始める程度まで、金融資産に関連する信用リスクが増加した時点で、適用されるべきであることでも合意した。
2007年3月中央大学法学部卒業。2009年3月北海道大学大学院経済学研究科専門職学位課程修了後、同年11月公認会計士試験合格。2010年2月より仰星監査法人にて法定監査に従事。校正協力に「ベーシック税務会計I・II」(創成社)がある。
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