佐川急便で1日500万貨物が生み出すビッグデータ、その活用戦略とはITマネジャーに聞くデータ活用の今

佐川急便を中核とするSGホールディングスグループのITを一手に担う専門企業、SGシステム。積極的なデータ活用をグループ全体で推進するために、「ITが先回りでその活用環境を提供する」という。その真意に迫る。

2013年02月18日 00時00分 公開
[ITmedia]

 街中にいて佐川急便の車を見ない日はないだろう。それもそのはず、同社が扱う貨物は1日500万個にも達する(年末の最繁忙期には700万個を優に超える)。その1つひとつを人が集め、届け先に合ったルートで運ぶ。日々生まれるデータはまさしく“ビッグ”である。その活用に、佐川急便を中核とするSGホールディングスグループが乗り出した。先導役であるグループIT会社、SGシステムの取締役 三原 渉氏に、同社の取り組みとIT部門が果たすべき役割を聞いた。

──SGホールディングスグループはここ数年、大掛かりなオープン化を進めてきましたね。

三原氏 2004年度(2005年3月期)から2011年度まで「第4次IT戦略」を実践していました。メインフレーム中心だったシステムのダウンサイジングを行い、ベンダーに握られていたITガバナンスを奪還し、グループのプラットフォームを作ることが目的でした。佐川急便の部門や支店、(SGホールディングス傘下で宅配以外の事業を手掛ける)事業会社にそれぞれベンダーが群がり、“縦置き”の仕組みが作られてきたため、保守・運用に想定以上のコストが掛かっていたのです。「まずシステムを整理して統廃合を開始しよう」というのが第4次IT戦略で、大きな幹のプロジェクト群が完了し、後続のシステム改廃が徐々にできつつあります。

──では現在、既に新しいIT戦略を遂行しているのですか?

三原氏 2012年度期中からは「第5次IT戦略」に入っています。現在、グループ全体で32の業務領域にわたって350ほどのシステムがありますが、第5次IT戦略ではそれらを標準のミドルウェア、フレームワークで完全に密結合・疎結合し、さらにプラットフォーム化を進めます。そのプラットフォームの機能的な構造は、下から「ITマネジメント層」「トランザクションマネジメント層」「コラボレーションマネジメント層」の3層になります。SGシステムの開発・運用部隊も、緩やかですがこの3層で分かれて組織しています。

ITのオープン化で業務改革をリードする

──それぞれの層は実際どのような機能を持っているのですか?

画像 SGシステム 取締役 三原 渉氏

三原氏 ITマネジメント層は、パフォーマンス管理や障害管理、セキュリティ、ログ管理など、ITをしっかりと回すためにどうしても必要となる仕組みです。その上のトランザクションマネジメント層は、毎日データが生まれているところ。輸配送、物流倉庫といった業務アプリケーション、売り上げ・請求・会計などの勘定系システムが含まれます。ここまでは第4次IT戦略で構築しました。縦置きの仕組みを横ぐしでつなげ、事業会社やグループでトランザクションをまとめる。日々の取引をしっかりやれる環境の基礎を作ってきました。

 これはこれで第5次IT戦略でも継続しますが、今後の焦点となるのは、「人と人のつながり」の中で情報の付加価値を高めていく、最上位のコラボレーションマネジメント層です。今の時代ならSNSやTV会議、eラーニングも含めたナレッジマネジメントにより、皆で情報を共有し、ある人が作った情報の上に価値を載せられる環境作りと文化を醸成できます。第4次IT戦略で着手・完成したものに加え、情報価値がスパイラルで高まる環境作りを目指します。

──ITの構造を大きく変えていますが、同時に業務プロセス改革も手掛けているのでしょうか。

三原氏 業務プロセス側の整理を待っているとIT側の整理にさらに時間がかかってしまうので、IT側を先行させたのが第4次IT改革でした。つまり、ITが“先回り”して業務プロセス側の動き(業務改革や大きな改善)を待つ状態です。

 業務プロセス改革には時間がかかります。それに合わせてIT改革をやっていると、いつまでもベンダーロックインから逃れられない。それよりも先回りしてITをオープンな仕組みにすれば、今までブラックボックスだったシステムの中身が分かるので、手を入れやすくて開発期間が短くなる。つまり、業務プロセスの変革を受け入れやすくなります。

──コラボレーションマネジメント層も先回りで整備するということですか?

三原氏 そうです。ビジネス側から「こんなデータ分析がしたいのだけれど」「こんなナレッジはないかな」と聞かれたとき、われわれIT側が即座に「こんな分析ツールがありますよ」「このように検索すれば見つかりますよ」と提案できる状態を目指しています。

──ビジネス側がどんなことを要求するかを予測するのは難しくはないですか?

三原氏 潜在的な分析ニーズはある程度見えています。例えば、佐川急便であれば、毎日500万件近くずつ蓄積される送付状の画像データも活用できます。手書きの送り状はもちろん、電子データ交換された法人の送り状であっても、現場のドライバーが貨物のサイズや重量を測って記入するので、画像データ化して保存しないといけないのです。これまではストレージの価格が高くて、一定年数が経てば“ところてん式”で古いデータは捨てるしかなかった。それが今は、ストレージが安くなったのでどんどんデータを蓄えていけます。

──活用されず、埋もれているデータが“宝の山”になるわけですね。

三原氏 これまでは捨てていたデータ、あるいは単にためていたデータなので、SGシステムの社員も佐川急便の社員も活用するという考えには至らなかったのですが、「どうせコストを掛けて保管するなら、戦略的に活用しよう」という発想です。そのためにも、データを蓄積・活用できる基盤を先回りで構築し、ビジネス側から「こんなことできるかな」といわれたときに、「やれますよ」といえるようにしたいのです。

グループ内で分析リテラシーを醸成する

──「日本企業では情報活用がうまくいかない」とよく言われますが、その原因はどこにあると思いますか?

三原氏 データ分析のリテラシーが成熟していないことが原因だと思います。皆、自分のためになるデータであれば一生懸命入力するはずですが、自分が入力したデータがどこでどう使われ、どう間接的に自分の業務に跳ね返ってくるのか、会社全体の売り上げや利益につながるのかといったデータフローの理解がまだまだ進んでいないのです。

 ましてや、ある仮説に基づいてデータ分析を行って検証する、仮説検証型のリテラシーについての裾野は広がっていません。そうしたリテラシーを経営層や中間管理職の間で今以上に醸成していきたい。これは全世界的にどの企業でも課題にしていることだと思いますが。

──データを中心に会社の業務が回っているという側面からの全体像が見えてないわけですね?

三原氏 企業全体でデータ分析リテラシーをアップさせることが必要です。自分が入力したデータ(ドキュメント類も含む)が課や部を超えて事業会社のレベル、さらにグループのレベルでどう使われ、情報の付加価値、戦略的価値がどう高まっていくかの理解を浸透させる。そのためにも先行事例を成功させ、「データがあればこんなことができるのだ」という理解を広げていきたいですね。

──データ中心経営で参考になる業種や企業はありますか?

三原氏 国内でも大手の損保・生保業界のデータ活用は進んでいるという認識です。もともとビッグデータを分析しないと商品を開発できない業種ですが、企業全体でリスク管理に必要なデータを蓄積・分析する文化があるように見えます。流通業もPOSデータ分析でビッグデータを扱っていますが、まだ保険業レベルとはいえないでしょう。彼らの成功事例を運輸業は学ぶ必要があります。

──その意味でSGシステムがグループ内で果たす役割は大きいですね。

三原氏 SGシステムは現在、全グループ企業の全事業領域のITを司っているのだから、グループ内で最もデータの重要性を分かっています。ただ、われわれができるのはあくまで環境作りまでで、実際にデータを活用するのは佐川急便や各事業会社の理解や協力を得て、初めて目的が達成できると考えています。

 企業改革にはITと組織、両方の改革が必要です。それぞれが「最適化」を超えて「革新」を目指す中で、企業経営も革新に近づく。組織より変えやすい分、先回りして早くITを革新レベルにしなければいけないと思っています。

 さらにSGシステム単体としては、ビッグデータに関するサービス/製品をグループ外にも販売していくつもりです。例えば、われわれのナビゲーションシステム「Biz-Navi」は佐川急便以外でも広く利用されていますが、Biz-Naviで蓄えた地図情報システムのノウハウとビッグデータを組み合わせたソリューションを現在企画しているところです。期待していてください。

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提供:SAS Institute Japan株式会社
アイティメディア営業企画/制作:TechTarget編集部/掲載内容有効期限:2013年3月31日