「VDI(仮想デスクトップ)導入ではROIとパフォーマンスが大事」。その通りだ。だが、この説明だけではカバーできない、もっと重要なことがある。
ROI(投資対効果)とパフォーマンス。VDI(仮想デスクトップ)の導入を検討する際に、ユーザー組織はこの2つを最重要視していることが、TechTargetジャパンの実施した読者調査から見てとれる。だが、この2つの点のどちらについても見落としがちなポイントがあると、数々のVDI案件に関わってきたシスコシステムズの樋口 美奈子氏は話す。
ROIというとコスト削減の話になりがちだ。VDIを導入するにしても、表面上安価なソリューションに目がいってしまう。だが、物事はそれほど単純ではないと、樋口氏は指摘する。
例えば従業員全員にVDIを使わせることを前提に、表面上の導入コストが最も安いソリューションを選択して導入したとする。だが、そのソリューションが従業員にとって使い勝手が悪く、結果的に利用されない、あるいは苦情が殺到するようなら、低コストになったとしても本末転倒だ。また、コストの制限でVDIを限られた人々にしか提供できず、最も必要としている人々が使えないといった結果になることも考えられる。
「VDIの導入目的には、従業員のワークスタイル変革と、それを通じた生産性向上を重視すべきだと思います」(樋口氏)
ワークスタイル変革というと、ワークライフバランスとの関係で福利厚生の問題のように捉えられることがある。そうではなく、VDIは従業員の生産性向上につながるような導入をするべきだと樋口氏は強調する。
例えば、グラフィック処理などの重い作業をするパワーユーザーがVDI利用の対象外になるケースが見られる。VDIでは十分なパフォーマンスを確保できず、使いものにならないというのがその理由だ。しかし、VDI関連技術は大きく進歩した。GPU共有やGPU仮想化のサポートで、サーバ機に搭載したGPUカードをVDIユーザーがニーズに応じて活用できる環境が整ってきた。このため、デザイナー、機器設計者、部品設計者のようなCADユーザーも、今では十分にVDI利用の対象とすることができる。
「パワーユーザーこそ、替えのきかない存在です。こうした人々が特定のコンピュータや場所に縛られず、サテライトオフィスや在宅勤務地などの遠隔地からCADを利用したり、会議室や工場内でタブレット端末を利用してCADデータを閲覧することができれば、生産性は大きく向上します」(樋口氏)
さらに、高性能のワークステーションをユーザーの人数分そろえるのではなく、デスクトップ仮想化にGPU共有やGPU仮想化を組み合わせることで、既存環境におけるGPU利用との比較でコスト効率を向上できるのも見逃せないポイントだ。
特にGPU仮想化はデスクトップ仮想化における最新技術で、シスコはいち早く検証や技術ノウハウの蓄積を進め、VDI導入企業のニーズに対応してきている。
パワーユーザーに限らず、育児や介護などをしながら働きたい人はたくさんいる。こうした人も会社に来なければ仕事として認められないのか、勤務時間を短縮し、さらに仕事の内容を変えなければならないのかという指摘もある。それよりも自宅で十分に業務ができるような環境を整えた方が、代替人員の雇用や訓練、業務上の不都合などを考えると、企業にとってメリットが大きいといえる。
樋口氏は、「従業員全員にVDI技術を適用するのがいいとは一概に言えません」とも話す。アプリケーション仮想化や、プレゼンテーション仮想化の方が適している業務もある。その上で、「社内ユーザーの業務形態をきめ細かく見て、それぞれに適切な技術を適用することがVDIへの投資の有効活用につながります」と指摘する。
ROIと並び、VDI導入のもう1つの重要ポイントであるパフォーマンス。これについては、ストレージI/Oに着目した指摘をする人々が多い。頻繁に話題となるのは「ブートストーム」だ。出社した社員が同時刻にデスクトップ環境の立ち上げを行うと、ストレージからのデータ読み出しが急増し、個々のユーザーが感じるパフォーマンスが落ちてしまうことだ。
そのためストレージI/Oは、事前に従業員の勤務形態を調査した上で構成を決定しないと、導入後に追加投資が必要となることが考えられる。結果的にVDI導入プロジェクトが困難な状況に陥ることもあり得るだろう。
シスコはストレージベンダーと協力し統合仮想化ソリューションを提供することで、この問題の解決に取り組んできた。NetAppと開発した「FlexPod」では、「リファレンス・アーキテクチャ」という、規模に応じた推奨構成資料を提供。EMCと協力しVCE社から提供する「Vblock」では、製品の調達、導入、サポートの一元化も提供する。さらに、サーバ機に搭載するPCIe フラッシュストレージの活用はもちろんのこと、フルフラッシュストレージCisco UCS Invictaの提供も開始する。
パフォーマンス確保の点では他にも見逃せないポイントがあると、樋口氏は指摘する。
データセンターにおけるトラフィックは今後もさらに増大していくと予測されているが、その中でも大部分を占めているデータセンター内のトラフィックだ。特にVDI環境では、データセンター内のサーバとストレージとの間、複数サーバの間で頻繁なデータのやり取りが行われる。このため、VDI環境を本格的に運用開始した途端に、パフォーマンスの問題が発生し、原因を調べてみるとストレージではなくネットワークがボトルネックだった、というケースも起き得る。
シスコは、データセンター内ネットワークに関して十分な帯域を確保できるよう技術開発を行ってきた。インテル® Xeon® プロセッサーを搭載したシスコのサーバ「Cisco Unified Computing System」(Cisco UCS)では、ネットワーク接続を柔軟に論理分割できるようにしており、増減の激しいネットワークトラフィックを円滑に交通整理することが可能だ。各サーバ機からのネットワーク接続は、基本的にはケーブルを1本(実際には冗長性確保のために2本構成とすることが多い)引けばよい。スモールスタートし、その後に構成を変更する場合でも、物理的なネットワーク配線の変更は不要だ。論理的な接続を変更するだけで済む。
VDIにおけるネットワークの課題でもう1つの見落としがちな点は、WAN接続だ。VDIは支店・支社などWAN経由で利用される場面が多い。その際に帯域の細い接続を多数のユーザーが奪い合う形になり、レスポンスが低下しがちだ。VDI環境を運用する社内データセンターに直結している拠点だけは快適に使えるが、その他の拠点では使いものにならないというのでは、企業のインフラとして成立しない。
シスコは、VDIのWAN経由のアクセス改善についても有効なソリューションを提供している。同社のWAN最適化装置「Cisco Wide Area Application Services」(Cisco WAAS)は、WANを流れる画面転送プロトコル などのトラフィックを最適化ができる。
「例えばCitrix SystemsのVDI製品が利用しているICAプロトコルは、既に大幅に最適化されています。ただし、各ユーザーの単位では最適化されていても、複数ユーザーのトラフィックへの対処という点では改善の余地があります。シスコはCitrixからプロトコルの開示を受け、複数ユーザー間のVDIトラフィックに対して重複を排除する最適化機能を、Cisco WAASに搭載しています」(樋口氏)。
企業にとってVDI導入は目的ではない。目的を達成するための手段だ。さらにその目的はコスト削減や単なるPCの置き替えではない。VDIが導入企業にもたらす最大のメリットで、VDI導入の目的となるべきなのは、「企業が働き方の変革を通じて業務改善を進めるための、強力なツールを提供することです」と樋口氏は強調する。
従業員同士の意思疎通や共同作業の改善、会社としての意思決定能力の強化、協力会社との関係強化など、企業は働き方の変革を通じ、社員の力の最大活用と事業活動のスピードアップを図ることができる。自社の競争力の強化にもつながる。
シスコでは、働き方の変革のためにVDIが企業に役立つことを目指し、サーバおよびネットワークを中心としたインフラ製品とノウハウを提供している。上記のGPU共有・仮想化に関する先駆的な取り組みは、そのいい例だ。
その上でシスコは各社とのコラボレーション製品を提供。企業を経営環境のダイナミックな変化に適応させるための手段の1つとしてVDIを使ってもらえるよう、これからも技術開発を進める。
市内13の小中学校の教育用および職員用PCを仮想環境に移行しつつある福岡県宮若市。仮想デスクトップ導入で管理負荷軽減とコスト削減を実現した同市が採用したのは、集約率と運用管理性が高く、トータルコスト抑制が行えたCisco UCSだった。
「サーバ機はコモディティ(汎用品)化した」「サーバ機なんてもう安ければ何でもいい」と考えるシステム担当者が増えている。しかし、迅速で確実なサービスやシステムの展開を考えたときに、本当にそうなのか。あらためて考える必要がある。
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