「ムーアの法則は既に限界に達している」。米IBMのマイヤーソン氏に、原子レベル、量子力学の世界に突入しつつあるチップ開発の現状を聞いた。ムーアの法則はなぜ限界なのか? そして未来は?
IT業界の将来は、ハードウェアの画期的な進化(ブレークスルー)と革新的なソフトウェアにゆだねられている。
ハードウェアのブレークスルーをけん引してきたのは、驚異的な洞察力の持ち主で、1965年に米Intelの共同創設者となったゴードン・ムーア氏だ。だが、米IBMのイノベーション担当副社長であるバーニー・マイヤーソン氏は、(ムーア氏が半導体チップについて提唱した)ムーアの法則は既に限界に達しており、将来のチップには当てはまらないと考えている。
本記事は、プレミアムコンテンツ「Computer Weekly日本語版 5月21日号」(PDF)掲載記事の抄訳版です。本記事の全文は、同プレミアムコンテンツで読むことができます。
なお、同コンテンツのEPUB版およびKindle(MOBI)版も提供しています。
マイヤーソン氏は、10年以上の長きにわたってシリコンゲルマニウムなどの高パフォーマンス技術の開発の最前線に立ち続け、2003年からはIBMのグローバル半導体研究開発部門の責任者を務めている。
同氏は「ゴードンは天才だ。何十年も変わらない真実を人生の中で発見した、数少ない人物のうちの1人だ」とムーア氏をたたえる。しかし、ムーアの法則を裏付けてきたチップ製造テクノロジーは変わり、今やこの法則は限界に達してしまったとマイヤーソン氏は感じている。
ムーアの法則に従って、チップの設計者たちは1年半ごとにチップの密度を2倍にしてきた。以前と同じ量の材料からチップが数的には2倍作れるので、チップの製造能力が倍増することになる。
しかし、チップに搭載するトランジスタの密度を倍増させることを繰り返すと、やがてチップに搭載されるトランジスタの数は昔の100万倍にもなる。そこで消費電力と熱の問題が発生する。これを克服し、当初のチップは消費電力が10ワットだったが、今や10ミリワットのチップが普及しているとマイヤーソン氏は語る。
「かつて、ノートPCを起動したときに突然火花が出るという、ものすごくワクワクする体験が簡単にできる時代があった。だが発火するチップでは、製品のリピーターになってくれるような顧客は獲得できない」(マイヤーソン氏)
半導体業界ももちろん、火を噴くチップを容認したわけではなかった。その後、研究者のボブ・デナード氏がチップのスケーリング理論を確立した。この理論のおかげで、チップの設計者はユーザーにやけどを負わせることなく、シリコンチップに搭載するトランジスタの数を倍増させ続けることができた。こうしてムーアの法則に従って、2倍の数のトランジスタを搭載しながら消費電力は従来品と変わらない新世代のチップが1年半(18カ月)ごとに生み出されたと、マイヤーソン氏は語る。同氏によると、デナード氏の理論はある時期までは有効だったが、もはや限界に達しているという。
チップは際限なく小型化できるものではない。「この問題は、1枚の紙を半分に折りたたむ場合に似ている。例えば50ポンド紙幣を半分に折りたたんでいくとする。8回までは折ることができるが、それ以上は、ちょっとした核爆発装置でも使わない限り無理だ」とマイヤーソン氏は指摘し、続けて次のように語る。
「トランジスタのサイズを半減させていくと、やがて層の厚さが原子1個の直径に等しい部分がトランジスタ内にできる。その層をさらに半分に縮めてトランジスタの密度を2倍にしようとするなら、それは核分裂ということになる。試してみたくなったときにはぜひ教えてほしい。私は避難するから」
マイヤーソン氏によると、2005年のチップには既に、厚さがわずか原子数個分のパーツが存在したという。トランジスタのパーツがそこまで薄くなると、動作が変わってくると同氏は話す。
本記事は抄訳版です。全文は、以下でダウンロード(無料)できます。
■Computer Weekly日本語版 最近のバックナンバー
Computer Weekly日本語版 5月7日号:PC産業にイノベーションは残っているか?
Computer Weekly日本語版 4月16日号:クラウドの活用を阻むIT部門
Computer Weekly日本語版 4月2日号:中古ソフトウェア販売は著作権侵害か?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
カスタマーサービスのサイロ化、問題解決の長時間化などの課題が顕在化している今、CXを変革する方法として、生成AIと自動化が注目されている。これらを活用することで、顧客満足度や問題解決時間はどう変わるのか、3つの実例から探る。
企業の生産性を向上させるためには、従業員が快適に働ける環境作りが重要になる。そこで参考にしてほしいのが、サイボウズが導入している「PCの従業員選択制」だ。業務用の端末を従業員が自由に選べることによる効果を紹介する。
Windows Server 2025は、セキュリティや可用性の向上に加え、Active Directory不要のワークグループ環境でもフェールオーバーとHyper-Vによるライブマイグレーションを実現した。Windows Server 2025が備える特長を詳しく解説する。
企業ITの複雑化が加速する中、安定運用とセキュリティリスク低減を図るため、マネージドサービスの採用が拡大している。本資料では、コンサルティング支援からシステム設計・構築、運用までを包括的にサポートするサービスを紹介する。
地図情報を提供するゼンリンでは、約4000台のPCを運用しており、15年ほど前から、PCレンタルサービスを活用。それによりトータルコスト・情シス部門の運用負荷の軽減で大きな成果を挙げている。
いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは
遠隔のクライアント端末から、サーバにあるデスクトップ環境を利用できる仕組みである仮想デスクトップ(仮想PC画面)は便利だが、仕組みが複雑だ。仮想デスクトップの仕組みを基礎から確認しよう。
「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。
「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。
「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...