老舗の宝飾業向けアプリが20年、同じデータベースを使い続ける理由「存在を意識しないで済むこと」が最大のメリット

宝飾業界向けの業務パッケージ「GEM SYSTEM」。1994年の発売以来、機能強化を重ねてきたが、中身のデータベースは一度も変えていないという。その理由とは何か。開発元のユーテックに聞く。

2014年09月29日 10時00分 公開
[ITmedia]

 東京都千代田区に本社を構えるユーテックは、オフィス環境をさまざまな面からトータルサポートする各種サービスを展開する企業だ。ネットワークの設計や構築、システム開発、総合保守サービス、ファシリティに至るまで、オフィスのネットワーク環境をワンストップでサポートできる数少ない企業として、多くの企業から好評を博している。

 そんなユーテックが手掛ける各種ビジネスの中でも、若干異色ともいえるのが、業務アプリケーションパッケージの開発・販売業務だ。同社は1994年から、宝飾業界向け在庫・販売管理ソフトウェア「GEM SYSTEM」を開発、販売している。同製品は現在に至るまで約500社の企業で導入されており、宝飾業界に特化したパッケージとしては異例のロングセラー製品となっている。

宝飾業界向けパッケージ製品のロングセラー「GEM SYSTEM」

写真 ユーテックの河村俊明氏

 同社がGEM SYSTEMの開発に至った経緯は、どのようなものだったのだろうか。

 「弊社が創業した1988年当時、業務アプリケーションはオフィスコンピュータ(オフコン)で稼働させるものがほとんどだった」と、ユーテックでGEM SYSTEMのビジネスを率いる同社 宝飾業システムソリューション営業部 執行役員 兼 部長の河村俊明氏は振り返る。その状況は米NovellのネットワークOS『NetWare』の登場によって一変。PCサーバやクライアントPC(以下、PCと総称)のネットワーク化が可能になるや否や、業務システムのオフコンからPCへのダウンサイジングが急速に進んだ。「そこで弊社も、業務システム開発のターゲットをオフコンからPCへ切り替えるとともに、受託開発だけでなくパッケージビジネスにも乗り出すことにした」のだという。

 そんな折、ちょうど宝飾業のユーザー企業から販売管理アプリケーションの開発を受託した。そこで開発したアプリケーションをパッケージ化して外販したのが、GEM SYSTEMである(図)。

図 図 GEM SYSTEMのシステム概念図

 現在ではPCでのソフトウェア開発はごく当たり前のように行われているが、当時はまだPC用の開発環境や開発ツールは総じて貧弱なものしか無かった。こうした中、河村氏らが目を付けたのが、イスラエルのツールベンダーであるMagic Software Enterprisesが開発し、当時日本に上陸したばかりの開発ツール「dbMAGIC」だった。

 河村氏は、とある展示会でたまたま見掛けたdbMAGICを評価してみたところ、「想定以上に生産性が高く、業務アプリケーションを開発する上でオフコン用ツール並みの十分なクオリティーを実現できると感じた」と語る。データベースエンジンとしてNetWareと同じく、エージーテックの「Btrieve」、現在の「PSQL」を採用していたことも、「安心材料の1つだった」という。

 こうして同社は、初となるPC向けパッケージのデータベースに、PSQLを採用することになったのだ。

GEM SYSTEMの安定運用を支えるデータベース製品「PSQL」

 開発ツールに選んだdbMAGICは、同社が求める品質や開発生産性の高い要件を全てクリアしていたと同時に、データベースエンジンとして組み込まれているPSQLの存在も、GEM SYSTEMの価値を高める上で極めて大きな役割を演じたという。河村氏は、特にGEM SYSTEMがターゲットとする年商100億円未満の中小企業向けシステムで利用するデータベースとして、PSQLは使い勝手に優れると高く評価する。

 中小企業には通常、大規模なリレーショナルデータベースの最適化やチューニングなどの運用管理作業ができる専門スタッフはいない。従ってユーザーにとっては、データベースの運用を全く意識せずに済み、業務アプリケーションの運用管理だけに注力できる製品が望ましい。「PSQLはほぼメンテナンスフリーで、いい意味で“ラフ”に扱えるので、中小企業向けシステムで利用するデータベースエンジンとしては最適だと考えている」(河村氏)

 最も重宝しているのが、ハードウェアやOS、ミドルウェアの種類やバージョンに依存せず、どんな環境上でも問題なく動く点だという。多くのデータベース製品は、特定のOSやミドルウェアでしか正常動作をサポートしていない。しかも、たとえサポート対象の環境であっても、OS/ミドルウェアに適用したパッチやマイナーバージョンの違い、あるいはソフトウェアバージョンのちょっとした違いがあるだけで、途端に動かなくなってしまう。

 OSやミドルウェアをバージョンアップすれば、それに伴いデータベースエンジンのバージョンアップを余儀なくされることが多い。その際に最も問題になるのが、アプリケーションの互換性だ。データベースのバージョンアップに従い、そのデータベースを利用するアプリケーションのコードも新バージョンに適合するよう書き換えないと、正常に動作しなくなることが多いのだ。

 しかしこの点、PSQLは異なる。たとえOSやミドルウェアが変わろうと、PSQL自体は従来のバージョンのまま正常に動作し続ける。一方で、たとえPSQLをバージョンアップしたとしても、アプリケーションとの間のAPIの互換性が保たれるため、アプリケーションが動かなくなるようなことは決してない。

 PCの世界は日進月歩であり、次々と新しいOSやミドルウェアが登場する。しかしそのたびにアプリケーションが動かなくなったり、ソフトウェアのバージョンアップが必要になるようでは、「ユーザー企業はもちろん、われわれのようにアプリケーションを開発する側にとっても極めて重い負担が圧し掛かる」と河村氏は語る。その点PSQLは、どのバージョンであっても、どんなOSやアプリケーションと組み合わせても常に安定して動作する。「中小企業向け製品を開発、販売するわれわれのような立場にとって、これは本当にありがたい」と、同氏はPSQLの高い互換性を評価する。

ユーザー・ベンダー双方にとって導入メリットが大きいPSQL

 「どのような環境でもメンテナンスフリーで動き続けるPSQLは、ユーザーから見てその存在が意識されることがない。このことこそが、中小企業向けソリューションでは極めて価値が高い」と河村氏は力説する。「データベースの存在が下手に見えてしまうと、ユーザー側で勝手に設定や環境を変えてしまうことも考えられる。その結果動作がおかしくなってしまうと、システムを保守するわれわれの側としてもメンテナンス工数がかさんでしまう。その点、PSQLはいい意味で存在をユーザーに意識させることがない」

 システムを開発・運用する立場にとっても、PSQLは非常に手離れのよいソリューションだという。「PSQLを組み込んだGEM SYSTEMを20年にわたって500社に導入し、その保守を手掛けてきたが、PSQLのバグに起因するトラブルはほんの数件ぐらいしか記憶にない」と河村氏は説明する。「アプリケーションを開発する際も、データベースにアクセスするコードはdbMAGICのエンジンとゲートウェイによって自動的に展開されているので、システムを開発・運用する側にとっても、PSQLの存在を意識する場面はほとんどない」

 dbMAGICで利用できるデータベースは、PSQLだけではない。それでも同社が長年にわたってPSQLを採用し続ける大きな理由の1つに、コストメリットがあるという。

 PSQLのライセンス価格は、基本的にサーバインスタンスと同時接続ユーザー数によって決まる。ベースとなるライセンス価格が安価であることに加え、一般的なデータベース製品のように、コア数やバージョンの違いによる複雑化したライセンス体系ではなく、極めてシンプルで分かりやすいライセンス体系となっている。しかも前述の通り、高い互換性を備えるので、バージョンアップとそれに伴うライセンスの買い替えが強いられることもない。結果として、トータルでのライセンスコストを飛躍的に安価に抑えることができるのだ。

 「パッケージビジネスを進める上で、データベース製品のコストが安くできることは、パッケージ価格を低く抑える意味でも、そしてわれわれ開発元の利益を確保するためにも、非常にありがたい」と河村氏は語る。またPSQLはデータファイルのサイズが小さく、しかもそれをさらに圧縮してコンパクトに扱えるので、「ディスク容量を節約したり、バックアップに掛かるコストを節約できるというメリットもある」。このようにPSQLは、ランニングコストを低く抑える上でも有利な点が多い。

ODBCを経由した広範なシステム連携の例も

 PSQLには、アプリケーションからPSQLを操作するインタフェースとして、SQL文を使った通常の方法、「Btrieve API」と呼ばれるネイティブAPIの他、一般的かつ標準的なSQLインタフェース(ODBC、JDBC、OLE DB、ADO.NETなど)経由でのアクセスも可能になっている。ユーテックでは、このODBCインタフェース経由でGEM SYSTEMのデータを「Microsoft Excel」ファイルにダウンロードするソリューションをユーザー企業に提供している他、近年ではモバイル端末向けのアプリケーションにもODBCインタフェースを活用しているという(画面)。

画面 画面 ODBCインタフェースを活用するスマートデバイス営業支援システム。商品カタログの表示や在庫検索、購入商品履歴の管理といった機能を備える

 その他ユーテックは、米FileMakerの「FileMaker」を使ってiPad/iPhone向けのクライアントアプリケーションを開発し、ODBC経由でGEM SYSTEMのデータとの連係を可能にしている。「アプリケーション開発の際も、開発者はODBCの背後にPSQLが存在していることを全く意識しない。『Microsoft SQL Server』『Oracle Database』といった他の主要なデータベースを扱うのと全く変わらぬ作法で開発できた」

 ユーテックは、今後も同社のパッケージビジネスを支えるコア製品の1つとして、PSQLに大きな期待を寄せる。「われわれのように規模が比較的小さなベンダーにとって、PSQLのように技術者がデータベースの存在を意識せずに済む製品は大変ありがたい。限られた開発リソースをアプリケーションの企画・開発、業務知識の習得など、本来注力すべき作業に集中できるからだ」

 河村氏はこう続ける。「ユーザーにとっても余分なコストが掛からず、ラフに扱っても安定して動き続けてくれるデータベースは、自社のビジネスを支える基幹システムの基盤として最適だ。PSQLには今後も高い互換性やシンプルなライセンス体系をぜひ保ってもらい、システムを開発する側、利用する側双方にとって高い価値を提供し続けてほしい」

 ユーテックは、今後もPSQLのメリットを存分に生かし、ユーザー企業や開発者の負担を抑えつつ、GEM SYSTEMのソリューションの幅を広げる考えだ。

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