基幹系システムを仮想化、クラウド環境で稼働させる際、焦点の1つになるのがデータベース選びだ。選択肢は限られていたが、安価かつ導入しやすいデータベースの登場で状況が変わりつつある。
企業ITの世界において、仮想化やクラウドはもはや当たり前のインフラ技術として根付きつつある。この動きを受けて、データベース製品も仮想化やクラウドとの親和性がますます重要視されるようになってきた。少し前までは、仮想環境でデータベースを稼働させることには性能や可用性の面で懸念が付いて回ったが、今ではそれらもほぼ払拭。基幹系システムのデータベースをクラウド環境で動かすケースも珍しくなくなってきた。
とはいえ、仮想環境での正常動作が保障されており、かつ十分なパフォーマンスと安定性を確保できるデータベース製品となると、その数もある程度限られてくる。商用製品でいえば、やはり「Oracle Database」と「Microsoft SQL Server」が双璧だ。早くから仮想化に取り組んできた先進企業の中には、オープンソースのデータベース製品を採用するところも多い。
しかしこれらの製品は、仮想環境での利用実績を徐々に重ねてはいるものの、それぞれ一長一短がある。商用製品の場合は、どうしてもライセンス価格や保守費がかさんでしまう。一方、オープンソース製品の場合は、製品そのものに掛かるコストは安く抑えられるものの、逆にサポートやメンテナンスに掛かる費用がかさむ。結果、仮想環境やクラウド環境で利用するデータベース製品は、まだまだ大掛かりでコストや手間が掛かるものが多いのが実情だった。
こうした状況に一石を投じるデータベース製品も登場している。その代表例が、エージーテックが長らく提供してきたデータベース製品「Actian PSQL」の最新版である「Actian PSQL v12」だ。このたび4年ぶりのメジャーバージョンアップを果たしたPSQLは、仮想化やクラウドにフル対応した。
1982年に誕生した組み込み用データベース製品「Btrieve」を起源に持ち、30年を越える長い歴史を持つActian PSQL。パッケージソフトウェアに組み込むデータベース製品のデファクトスタンダードとして一世を風靡し、現在では中小規模向け業務システムのバックエンドで稼働するデータベースエンジンとしても利用されている。
Actian PSQLは軽量・高速で、かつ古いバージョン用に作成されたアプリケーションとデータが最新バージョンでもそのまま利用できる下位互換性を持つのが特徴だ。「Btrieve API」というNoSQLネイティブAPIを使った高速データ処理と、SQLを通じた一般的なデータ処理インタフェースの両方が利用できる。安価かつシンプルなライセンス体系を持つとともに、保守サポート料金が不要。開発版も無償で手に入ることから、他の商用データベース製品と比べて圧倒的に安く導入、利用できるのも大きな強みだ。
そんなActian PSQLの最新バージョンが、2015年2月2日リリースのActian PSQL v12である。軽量・安価という従来の特徴に加え、多くのユーザーの要望に応えるために、このバージョンからさまざまな機能強化を施した(図1)。仮想化とクラウド環境での利用を見据えた機能強化として興味深いのは、製品の全エディションにおいて、稼働中の仮想マシンを別の物理サーバへ無停止で移動する「ライブマイグレーション」への対処だ。
Actian PSQLには、同時接続ユーザー数が5人以内の「Workgroupエディション」、10人〜100人の「Serverエディション」、そしてユーザー数無制限で同時使用データ量によってライセンス料金が変わる「Vx Serverエディション」の3つのエディションが存在する。それぞれの位置付けは、Workgroupエディションが小規模パッケージ向け、Serverエディションが中規模パッケージおよびスクラッチシステム向け、そしてVx Serverエディションが不特定多数のユーザーを対象としたWebアプリケーション向けとなっている。
これら全てのエディションにおいて、米VMware製品をはじめとする仮想環境での正常動作を保障する。旧バージョンでは、ライブマイグレーション機能を使えるのは事実上、Vx Serverエディションに限られていた。というのも、Actian PSQLが稼働する物理サーバ環境を定期的にチェックしており、もともと稼働していた物理サーバとは異なるハードウェア情報を検出した場合にはライセンス違反と判断して動作をシャットアウトしていたからだ。
ライブマイグレーションを実行すれば、当然ながらデータベースが稼働するハードウェアも変わる。そのため、上記のライセンス監視ロジックに引っ掛かってしまい、データベースの稼働がいちいちストップしてしまっていたのだ。唯一Vx Serverエディションだけは、インターネットに接続した環境での利用ライセンスだったために、インターネットを介してライセンスサーバへアクセスし、こうした制限を回避できた。一方、WorkgroupエディションやServerエディションを組み込んだパッケージ製品の場合、上記制限に引っ掛かってライブマイグレーションが事実上できなかった。
そこで最新版のActian PSQL v12では、ライセンスの認証要件を「マシン名のみ」とし、ハードウェア構成が異なっていても問題なしとした。ライブマイグレーションで異なる物理サーバへ移ったとしてもライセンスチェックに抵触することなく、稼働を続けることができるようにしたのだ。これにより、Actian PSQLを組み込んだパッケージ製品を仮想環境で利用したり、クラウドサービスとしてその機能をユーザーに提供できる。インターネットに接続していないプライベートクラウド環境においても、仮想化の機能をフル活用した柔軟で可用性の高いデータベース運用が可能だ。
ちなみに、Vx Serverエディションは旧バージョンまではインターネットに接続した環境でのみ利用可能だった。裏を返せば、オフライン環境では利用できなかったのだ。だがそれでは、インターネットに直接接続していないプライベートクラウド環境においてVx Serverエディションを使うことができない。
そこでActian PSQL v12ではこの制限を取り払い、インターネットに接続していない環境でもVx Serverエディションを利用可能にした。これによって、同時接続ユーザー数に制限のない大規模アプリケーションのデータベースエンジンとしてActian PSQLが利用できるようになった。企業システムをプライベートクラウド、あるいはプライベートクラウドとパブリッククラウドを融合させたハイブリッドクラウド環境で構築・運用する場合でも問題なく利用できるというわけだ。
実はActian PSQL v12では、ライセンス体系にも変更が加わっている。旧バージョンのVx Serverエディションは、同時使用データ量と同時接続セッション数によってライセンス料が決まっていた。しかし同時接続セッション数は、アプリケーションのアーキテクチャによって大きく変わってくる。そのため、あらかじめセッション数を見積もって適切なライセンスを選ぶのが困難なこともあった。Actian PSQL v12からは、セッション数によるライセンスの分類を廃し、純粋に同時使用データ量のみでライセンス種別が決まる方式とした。
なおVx Serverエディションのライセンス種別は、同時使用データ5Gバイト以下の「Small」、20Gバイト以下の「Medium」、50Gバイト以下の「Large」、そして同時使用データ量無制限の「Supersize」の4種類が用意されている。最も高価で同時使用データ量無制限・同時接続ユーザー数無制限のSupersizeでも、そのライセンス料は171万6000円(税別)と、極めて安価に抑えられている(図2)。
「軽さ」と「安さ」とともに、もう1つActian PSQLを大きく特徴付けているのが、その扱いやすさだ。導入はインストーラの指示に沿えば即座に完了する。運用に関しても、Actian PSQL自身が導入時に、Windowsのビット数(32ビット/64ビット)など環境に合わせた最適な設定を自律的に施すため、チューニングレスで利用できる。こうしたデータベース管理者いらずの特徴をエージーテックでは「Zero DBA(Z-DBA)」と呼んでいる。
Actian PSQL v12ではこの特徴をさらに強化。例えば、データベースの断片化を解消してパフォーマンス低下を防止するデフラグ処理時にActian PSQLが自動的に断片化を検出し、データベースの読み出し/書き込み処理をしながらバックグラウンドでデフラグ処理を実行できるようにした。つまり、システムを停止させることなくデフラグできるようにしたのだ。特に24時間365日の常時稼働が求められるアプリケーションやクラウドサービスでは大変重宝する。
多言語対応も強化し、従来のネイティブAPI(Btrieve API)に加えて、新たにSQLインタフェースでもUnicodeを利用できるようにした。これにより、グローバル環境での利用が前提のシステムやパッケージ製品、あるいは複数言語を同時にサポートするマルチテナントのクラウドサービスの運用などの場面において、多言語対応について必要以上に気に掛ける必要がなくなった。
軽量で安価、扱いやすい製品であるのに加え、仮想化やクラウド、グローバル化といった近年のエンタープライズITの潮流にも沿った進化を遂げたActian PSQL。今後ますます、エンタープライズ向けデータベース市場における存在感を増すことになりそうだ。
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