インターネットではがきや手紙を作成し、印刷・郵送までを手配することができるデジタルポストのサービス。同社はこのサービスをAPIで公開し、ビジネスの可能性を広げている。その仕組みを聞いた。
デジタルポストは、インターネットで郵便はがきや手紙を手軽に作成し、そのまま印刷から郵送するところまで手配できるサービスを提供している。
基本的には、Webブラウザから豊富に取りそろえられているはがきや便箋などの形状・形態を選び、必要に応じて文面や画像を登録するだけで、相手先に郵便物を届けることができる。年賀状などで手書きの一言を添えたい場合には、作成したはがきを直接受け取ることも可能だ。自社でデザインしたファイルをアップロードして、高級紙を用いた質の高いビジネスレターを作成・郵送することもできる。
近年、同社の事業の中でも成長著しいのが、スマートフォンアプリの分野だ。スマホで撮影した写真を利用して年賀状を作成する「AKEOME」や、簡単に年賀状をデザインできる「KOTOYOLO」は、一般ユーザーに人気のiPhone/Android端末用アプリで、2016年版も好調にダウンロード数が伸びている。一般的な写真レターを作成できる「簡単!写真レター」や、ビジネスパーソンが気軽に使える「速攻!営業お礼状」なども人気が高い。
いずれにおいても、「印刷」から「郵送」まで提供できる点が同社サービス最大の特長である。デジタルポスト 代表取締役社長の磯村康典氏は、「当社は、オンデマンド型の印刷工場や写真プリントに強い印刷工場、日本郵便などと協業し、数枚から数十枚という小規模な単位でも安価に印刷し、安定して郵送できるインフラを整えています」と述べる。
はがきや手紙を「作成」するサービスやアプリケーションは、多数存在するが、郵送まで手配することはなかなか難しい。そこで同社と協力し、自社のツールで作成した郵便物の郵送までを手配できるサービスを提供したいという企業が増えている。
「国内でも、私たちのように堅牢な印刷・郵送インフラを整えられる企業は少なく、協業やサービス連係などについて、問い合わせをいただくケースが増えています。そこで、当社の印刷・郵送サービスを自社のアプリケーションやサービスに組み込めるAPIを提供することで、パートナー連携の強化を図っています」(磯村氏)
例えばソースネクストは2013年、はがき作成ソフト「筆王」に「筆王 ネットプリント」という機能を追加した。筆王には、デジタルポストが提供しているAPIが組み込まれており、同社の印刷・郵送インフラをシームレスに利用できるようになっている。筆王を用いて美麗な年賀状を作成し、送付先の住所録を登録すれば、デジタルポストのサービスを通じて自動的に郵送されるというわけだ。手間の掛かる印刷や投函(とうかん)という手間が省けるため、100枚単位で年賀状をやりとりするビジネスパーソンからの注文が多いという。
デジタルポストでは、Webサービスやアプリに加えて、APIを軸としたパートナー事業にも力を入れてきた。同社では、これまでに幾つかのIaaSをはじめとするクラウドサービスを活用してサービスを提供してきたが、APIの提供には大きな負荷が掛かるのが課題であった。
プラットフォーム開発部 マネージャーの暮石哲也氏は、「以前から複数のベンダー向けに、自社のインフラでAPIを提供してきました。しかし、パートナーごとにWebサーバを構築する必要があり、バージョン管理も煩雑になりがちでした。また、より多くのパートナーに当社のAPIを広めるには、より簡単に公開でき、簡単に利用できる仕組み──APIの“標準化”を推進できるインフラが必要だと考えていました」と述べる。
そこで同社が注目したのが、日本アイ・ビー・エム(IBM)が提供するAPI公開・管理基盤ソリューション「IBM API Management」である。
この数年、APIの分野では、サービス事業者がAPIを外部に公開して収入を得たり、外部のAPIを活用して自社サービスを強化したりする「APIマネジメント」が主流となっている。これをさらに推進し、新たなビジネスチャンスや価値を生み出す「APIエコノミー」という考え方が広まりつつある。
日本IBMも2015年11月、APIエコノミーを推進する支援策として「APIクイック・スタート・プログラム」やIBM API Managementの開発者向け無償提供などを発表している。
「APIエコノミーやIBMの施策は、私たちが実現したいAPIビジネスにマッチしました。加えてIBM API Managementは、『IBM Bluemix』でクラウド版としても提供されるため導入も容易です」(暮石氏)
現在、デジタルポストのサービスは、下図のような形態で提供されている。APIパートナーは、IBM BluemixのIBM API Managementで用意されるAPIを介して、デジタルポストの印刷・郵送インフラを利用できるという仕組みだ。
デジタルポストは、IBM Bluemix/IBM API Managementを介することで、APIのバージョンや提供システム、利用状況といった管理の負荷を軽減し、運用コストを削減できた。加えて、同社がメリットとして感じたのは、IBM API Managementを使うことでAPIを手軽に公開できるようになった点だ。
「当社では、2016年の早い段階でオンライン決済の機能を実装したいと考えています。そうすれば、IBM Bluemixのアカウントがあれば、手軽に私たちのAPIを購入し、自身のサービスやアプリケーションに組み込むことができるようになります。それこそが私たちの実現したいAPIビジネスなのです」(磯村氏)
個人の開発者や小さなデザイン事務所が、非常にユニークなはがき作成アプリを開発したとしても、印刷・郵送までを提供することは不可能だった。また、個人がデジタルポストとパートナーシップを結ぶことも難しい状況だった。しかし、将来はIBM API Managementを通じて簡単にAPIを購入・利用できるようになり、アプリの価値をさらに高めることができるというわけだ。
暮石氏は、APIの開発エンジニアという立場でも、IBM Bluemix/IBM API Managementの利点は大きいと述べる。
「当社は他社の開発環境も併用していますが、特にIBM Bluemixは、開発に利用できる“部品”が豊富で使いやすく、“開発に不慣れでも開発できる”という特長を持っています。これまでAPIの開発や提供で苦労を重ねてきましたが、以前からIBM BluemixとIBM API Managementが存在していれば、もっと楽だったのにと感じます」(暮石氏)
例えばキヤノン電子は2015年11月26日、名刺管理サービス「アルテマブルー」にデジタルポストの印刷郵送APIを組み込み、「アルテマブルー 年賀状印刷郵送」という新しいサービスを開始した。実は、デジタルポストは当初の開発段階、自社のAPIインフラによる提供を予定していたという。開発途中でIBM API Managementに切り替えることになったが、キヤノン電子への負荷は極めて小さく済んだとのことだ。
デジタルポストでは今後、自社開発のAPIを提供中のパートナーに対しても、IBM Bluemix/IBM API Managementでの提供に切り替えていくという。さらに、基幹システムとの連係を可能とするツールやサービスをパートナーと共に開発し、顧客データベースを持つユーザー企業を拡大していきたいという。
「ネットプリント業界は、まだまだ成長過程にあり、郵便全体から見ればシェアは決して高くありません。昨今ではメールやSNSが主流のコミュニケーションツールとなっていますが、手紙やはがきにもよいところはたくさんあります。個人や小規模な開発者でも、当社のサービスをより気軽に使える環境を整え、さまざまなパートナーと協業し、さまざまなユーザーが郵便を活用できる場を作りたいと考えています」(磯村氏)
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例えばAmazon.comは、新たな売買取引者が簡単に参入できるAPIを基盤として入念に構築されており、APIが同社のビジネス戦略を実現するための不可欠な要素になっている。APIの概念が意味する内容が大きく変わった今、その変化が何をもたらすかを解説する。
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