ツギハギだらけのハイブリッドクラウドはもう限界、理想形に進化する方法とは何からはじめ、どこまでをクラウド化すべきか

安価で迅速なパブリッククラウドを好む事業部門と、堅牢なインフラを構築したい情報システム部門。両方のニーズに応え、それぞれのITを統合的に管理できる理想的なハイブリッドクラウドとは。3つのステップで解説。

2016年06月17日 10時00分 公開
[ITmedia]

 一部の先進的な企業や開発者が、安価なパブリックサービスを手軽に活用して革新的な取り組みを行う時期が過ぎ、アーリーマジョリティーやレイトマジョリティーといった市場の大多数を占める一般企業が、ごく当たり前にクラウドを利用する時代となった。今後、さらに多くの企業がクラウドを活用して事業の地盤を固め、競争力を高めていくはずだ。

 従来のパブリッククラウドサービスでは、ネットワークやデータセンター施設、海外拠点への対応を含めて、企業ITで必須となるインフラやサービス全体をサポートすることは困難であった。しかし今、国内ベンダー各社が強力なクラウドインフラを構築し、企業ITに求められるサービスを提供しはじめている。

 注目したいのは、仮想化技術として広く浸透しているVMwareの動向だ。VMwareは、100以上の国・地域において4200社を超えるサービスプロバイダーが参画するパートナープログラム「VMware vCloud Air Network」を通じて、企業におけるハイブリッドクラウドの活用を強力に推進している。

 国内においては、NTTコミュニケーションズや富士通などのクラウドサービスプロバイダーとパートナーシップを結んでいる。vCloud Air Networkパートナー各社のサービスは、本格的なクラウド化を図るユーザー企業にとって重要な選択肢の1つとなるはずだ。

 そこで今回は、企業向けクラウドサービス「Enterprise Cloud」によって、ユーザー企業の“デジタルトランスフォーメーション”を推進するNTTコミュニケーションズに焦点を合わせたい。同社は、アジアパシフィック地域を代表するvCloud Air Networkパートナーとして、最新のVMwareのクラウドテクノロジーを積極的に取り込み、VMwareとグローバルマーケティングを共同で実施するなど、綿密な協業体制を組んでいる。

 NTTコミュニケーションズ クラウドサービス部 クラウド・エバンジェリストの林 雅之氏とクラウドサービス部 担当課長の鈴木浩志氏に、具体的なクラウド活用の方法について聞いた。

企業のクラウド検討を技術的にも組織的にもサポート

NTTコミュニケーションズ 林 雅之氏

 NTTコミュニケーションズでクラウドのエバンジェリストを務める林氏は、ベンダーに依存しないクラウドサービスの市場動向や検討すべきポイントをユーザー企業に伝え、クラウドにどのように取り組むべきかという命題に答える役割を担っている。現在同社では、林氏とともに、7人の「クラウドスペシャリスト」を配し、ユーザー企業がサービスや製品を選ぶ前段階として、クラウドへの意識や考え方の改革を推進しているところだ。

 企業ITのクラウド化は、個々の部門や業務、単体のシステムとして考えるものではなく、経営陣から一般社員まで、全社的に取り組む改革であるべきだ。当然のことながら、情報システム部門の役割も、従来のシステムとは大きく異なるはずである。

 「企業ITのクラウド化は、大きく2つのポイントで考える必要があります。1つは、既存の『トラディショナルICT』をクラウド化して全体最適化を図る“守りのIT”。もう1つは、新しいビジネスを『クラウドネイティブICT』によって実現する“攻めのIT”です。従来のレガシーなシステムは、事業部門の要求に対して情報システム部門が応えるという手順が一般的でした。しかし今後は、情報システム部門から新しいビジネスの在り方、クラウドの活用方法を積極的に事業部門に提案していくことが大切です」と、林氏は述べる。

 つまりクラウド時代には、情報システム部門が主導権を握り、守りを固め、攻めに転じることが必要というわけだ。しかし、言葉では簡単でも、実践するとなるとハードルは高い。特に、事業部門へ積極的に訴え掛け、説得し、最適化や新たな連携を図ることを困難だと考える企業は少なくないだろう。

 林氏によれば、クラウドを検討する過程において、経営層や事業部門間をコーディネーションする役割も、NTTコミュニケーションズに求められるようになっているという。さまざまなユーザー企業のインフラ導入から運用までを担い、幅広い経験を積んできた同社だからこそ提供できる知見があるのだ。

 「開発現場のエンジニアは、安価なパブリッククラウドを好むかもしれません。一方で情報システム部門は、より強固で安定的なインフラを構築したいと考えています。もちろん、ユーザー企業のビジネスや環境によって最適解は異なります。そのためにも、経営層がクラウドの市場や技術を初歩的な部分から理解し、何をクラウド化すべきか、どの事業者を選定すべきか、適切な解を検討し、全社的に取り組めるようになること。それをサポートすることも当社の役割だと考えています」(林氏)

トラディショナルICTに対応した堅牢で柔軟なクラウドサービス

 トラディショナルICTとクラウドネイティブICTの混在は、企業にとって必然でありながら、移行・導入はもちろんのこと、その後の運用管理にも大きな課題を残す。先に述べたような安価なパブリックサービスでは、クラウドネイティブICTを手に入れることができても、トラディショナルICTのクラウド化は難しい。一方、プライベートクラウドなどによってトラディショナルICTのクラウド化を図ったところで、柔軟なクラウドネイティブICTの実現には遠い。また、両方を実現したところで、システムのサイロ化、運用管理の煩雑さといった課題も残す。

 これらを解決するのが、NTTコミュニケーションズが提供する企業向けクラウドサービスEnterprise Cloudだ。同社は2016年3月、同サービスを大幅に強化し、トラディショナルICTとクラウドネイティブICTの双方を強力にサポートすることを発表した。

 Enterprise Cloudでは、高信頼な専有型ホステッドプライベートクラウドと、柔軟に新しい技術へ対応できるオープンAPIを実装した共有型クラウドの双方を、同じクラウド基盤で提供することで、統合的に運用管理できるようにしている。SDN技術を活用したネットワーク基盤で、トラディショナルICTとクラウドネイティブICTをシームレスに接続し、オンプレミスシステムだけでなく他社のクラウドサービスまでを含めて、統合的なハイブリッドクラウド環境として構築できる。強力なネットワーク技術とインフラを持つ、NTTコミュニケーションズならではの特徴といえるだろう。

 「適材適所で導入されたハイブリッドクラウドは、専用線などの長い廊下でつながった高コストでガバナンスの効かない“古びた温泉旅館”のようなものです。しかし近年のビジネスが求めるものは、全体最適化がなされ、一貫した管理システムで必要に応じて効率的に利用できる“近代ホテル”のようなハイブリッドクラウドです。Enterprise Cloudは、まさに後者のサービスです」(林氏)

適材適所の温泉旅館型から、全体最適化を重視した近代ホテル型へ《クリックで拡大》

守りを固めることが攻めへ転じる重要な一歩となる

NTTコミュニケーションズ 鈴木浩志氏

 全体最適化がなされたクラウドという理想に向けて、ユーザー企業はどのように取り組めばいいのだろうか。クラウドサービス部の鈴木氏は、既存システムの円滑な移行をしっかり検討することが第一のステップだと述べる。

 「新しいビジネスの創出によって競争力を付けたいと思うのは、どの企業も同じでしょう。しかし、トラディショナルICTという守りを確実に固めなければ、クラウドネイティブICTによる攻めを成功させることは困難です。Enterprise Cloudのネットワークは、SDN技術によって構築されているため、サーバからネットワークまで既存の複雑な構成やプロセスへ柔軟に対応可能です。また、VMware製品をはじめ既存ライセンスを持ち込むこともできます。トラディショナルICTを既存構成のままクラウドへ移行できる点が他にはない当社の強みです」(鈴木氏)

 トラディショナルICTをEnterprise Cloudへ移行しつつ、同社の統合管理プラットフォーム「Cloud Management Platform」(CMP)によって、ITインフラ全体を見える化することも重要だ。各部門やスタッフが個別に活用しているパブリックサービスやオンプレミスシステムを見える化し、確実に管理してガバナンスを効かせる。守りをしっかりと固めることで、攻めへと転じることができる。

 2つ目のステップとしては、システムの開発環境をクラウド化していくことが考えられる。既に各社がPaaSを提供しているが、センシティブな開発現場では、共有環境をためらうケースもあるだろう。

 そこでNTTコミュニケーションズでは、プライベート環境として利用できる「専有型PaaS」の提供を予定している。専用のリソースに対して、同社の堅牢なVPNサービスを通じてトラディショナル環境から安全に接続することができる。

 鈴木氏によれば、同社のサービスを活用して「守りを固めつつ、早いタイミングで攻めに転じることができる」とのことだ。ユーザーの中には、早くも先進的なサービスを開発し、サービス事業者として活躍する企業も登場しつつあるという。

 「Enterprise Cloudでは、GUIで実行できる全ての機能をAPIとして提供しており、高度な自動化を容易に図ることが可能です。プロアクティブにリソースを変更できる攻めの運用を実現できます」(鈴木氏)

強力なネットワークサービスでグローバル展開をサポート

 3つ目のステップは、グローバル展開だ。Enterprise Cloudは世界11カ国14拠点に基盤を展開しており、NTTコミュニケーションズ自身が各地でのサポートを提供できるという大きな強みを持っている。また、クラウド拠点間の10Gbpsベストエフォート閉域回線は無償で、同社のデータセンター「Nexcenter」との接続も安価に提供する。例えば、各国のサプライヤーとのデータ共有や、各地のIoTデータの収集などに掛かる通信コストを大幅に軽減できるだろう。

 「今後もEnterprise Cloudは、『SAP HANA』やクラウドマネジメント機能など、テクノロジーパートナーやオープンコミュニティーからさまざまな最新の技術を取り込み、積極的な機能拡充を図っていきます。これにより、多くのユーザーのデジタルトランスフォーメーションを推進します」(鈴木氏)

 注目したいのは、Enterprise Cloudのユーザーは、単なるユーザーにとどまらないということだ。例えば、三井物産は、Enterprise CloudをはじめとしたNTTコミュニケーションズのサービスを活用して情報基盤を構築し、世界130拠点へのグローバル展開を図りつつ、IoTを利用した先進的なサービスを開発。NTTコミュニケーションズと協業し、ソリューションパートナーとしての活動を開始しているという。守りを固めつつ攻めへと転じた好例だ。

 今後はCMPをさらに活用し、アプリケーションやサービスごとのコスト管理など、高度な可視化を実現する予定だ。CMPはEnterprise Cloudだけでなく、他のクラウドサービスやデータセンター、ネットワークまで含めて統合的に管理することができる。

 「オンプレミスからクラウドへの移行は、中長期的に大きな変革を検討すべき重要な時期です。さまざまなオープンテクノロジーも取り込んでいく必要があるでしょう。組織的には大きな変革が求められます。NTTコミュニケーションズはVMwareとのパートナーシップを強化しながら、クラウドをはじめたとしたシームレスICTソリューションを通じて、守りを固めて攻めへと転じるお客さまのデジタルトランスフォーメーションに貢献していきたいと考えています」(林氏)


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