1人5万円台で手に入る、仮想化不要のリモートデスクトップとは仮想化特有の課題を払拭

ハイパーバイザーを使用せず、1ユーザー当たり5万円台という低価格で高性能なリモートデスクトップを実現する技術が登場した。仮想化特有の課題を払拭できる。

2016年12月01日 10時00分 公開
[ITmedia]

 企業システムにおけるクライアント環境の運用管理に革新をもたらす技術として、長らく注目を集めている「VDI(仮想デスクトップインフラ)」。サーバでクライアント環境を一元的に管理できるため、運用管理が効率化できるとともに、セキュリティ対策や災害対策の面でも大きなメリットがある。ユーザーはサーバとネットワーク経由で接続する環境さえあれば、場所を問わず自身のデスクトップ環境にアクセスできるため、ワークスタイル変革の促進でも効果があると見られている。

 しかし中には、鳴り物入りでVDIを導入したものの、予期せぬパフォーマンス問題に見舞われ、運用がなかなかスムーズに運ばなかったり、あるいはシステムの設計に想定より多くの時間と手間を費やしてしまったりするケースも多い。VDIの導入に掛かるコストや、運用に要する技術スキルのハードルの高さに尻込みしてしまい、VDIの導入メリットは十分認知しつつも、導入を早々に断念してしまう企業も少なくない。

 そうした課題や懸念を一気に解決できる可能性を秘めた製品が登場した。VDIの導入や運用にまつわる課題の多くは、仮想化基盤の設計や運用の難しさに起因している。この点に着目し、ハイパーバイザーを使わないシンプルなアーキテクチャでVDIと同等の仕組みを実現した企業がある。以降で詳しく紹介しよう。

仮想デスクトップの導入を阻む数々の障壁

 VDIを実現するために必要な仮想化ソフトウェア製品が急速な進化を遂げるとともに、サーバ製品の価格性能比が飛躍的に向上したことで、ここ数年でVDIは多くの企業にとって一気に身近なソリューションになった。事実、VDIの導入で自社のクライアント環境の運用管理効率化や、セキュリティ対策の強化を実現した企業の事例が続々と登場している。その半面、なかなか思うように導入効果が上がらない例や、そもそも導入に二の足を踏まざるを得ない企業も少なくないようだ。

 こうした背景について、VDIをはじめとした仮想デスクトップソリューションを専門に手掛けるアセンテック 代表取締役社長の佐藤直浩氏は次のように説明する。

アセンテック 佐藤直浩氏

 「VDIは、ハイパーバイザー上でクライアント環境の仮想マシンを稼働させ、デスクトップ仮想化ソフトウェアによって管理する技術だ。これら仮想化ソフトウェアの調達や保守には高額な費用が掛かる。また仮想化レイヤーを挟むことで、システムの設計やサイジング、運用に高度なスキルを必要とする。さらに就業時にユーザーが一斉にデスクトップ環境をブートしたり、特定のユーザーが処理負荷の高い処理を実行したりすると、リソースを共有する仮想環境ではシステム全体のパフォーマンスが低下し、多くのユーザーの業務に影響を及ぼす」

「ブレードPC方式」では解決できなかった課題

 これらの課題を解決する方法としては、ハイパーバイザーを使わずに各デスクトップ環境に独立したハードウェアを割り当てる「ブレードPC方式」が存在する。しかしブレードPC方式はデスクトップ環境ごとにCPUやメモリ、ディスクを用意するため、VDIに比べハードウェアコストが掛かる。またハードウェアの小型化や発熱抑制にも限界があるため、VDIに比べると集約率がはるかに低く、費用対効果の面で不利なのは否めない。

 しかし近年起こった数々の技術革新により、現在PCは小型化の一途を辿っている。CPUは飛躍的に高性能化し、少ない発熱量や消費電力で十分な性能を発揮できるようになった。またストレージデバイスもSSDが実用化され、HDDよりはるかに小型でありながら大容量の記憶領域を確保できるようになった。「こうした数々のブレークスルーの成果を生かせば、ブレードPCの価値を飛躍的に向上できるのではないか?」と思い立ったアセンテックは2016年10月31日、台湾のシンクライアントメーカーであるAtrustと協業し、ハイパーバイザーを用いずにVDIと同等の仕組みを実現する「リモートPCアレイ(RPA)」を販売開始した。

 RPAは、1Uのシャシーに20台の超小型のカートリッジ型PCを格納したものだ。それぞれのPCにはインテルの低電圧版CPUとSSDを搭載しており、1台当たりの消費電力をわずか10W以下に抑えている。これを20台搭載したシャシー全体でも、通常は220W程度の消費電力に収まる。加えてネットワークスイッチや冗長化された電源ユニット、冷却用ファンなどが1Uサイズの中に収まっている。

RPAシャシーの中身。PCカートリッジ、ファンなどのパーツは簡単に着脱可能

超小型の物理PCを1Uのシャシーに集約

 ユーザーは仮想化レイヤーを介すことなく、RPAに格納された小型PCにそれぞれ直接リモート接続し、CPUやメモリ、ネットワーク、ディスクなどのリソースを占有して利用できる。ハイパーバイザーを使用しないため、これまでVDIの導入や運用で課題となっていた多くの点がクリアできるとともに、従来のブレードPC方式よりもはるかに費用対効果の高いソリューションになったという。

 「高価なハイパーバイザーやデスクトップ仮想化ソフトウェアの調達や保守のコストを丸々削減できるとともに、その設計や運用に必要な時間と人件費も不要になる。これだけでも相当な時間とコストの節約効果が期待できる。弊社の試算では、初期導入コストは一般的なVDIの約半分に、設計構築期間は約30%削減できると見込んでいる」(佐藤氏)

 また各デスクトップ環境はそれぞれ独立した物理PC環境で動作するため、特定のデスクトップ処理の負荷が他のデスクトップ処理に影響を及ぼすことはない。そのためブートストームをはじめとするVDIには付き物のパフォーマンス問題とは無縁だという。

 ちなみにRPAは、アセンテックとAtrustの共同開発によって生まれた。もともとアセンテックはAtrustのシンクライアント製品を取り扱っており、同社のシンクライアント製品の小型化、省電力化の技術、そして高い品質には全幅の信頼を置いていたという。そこで今回、RPAの開発を思い立った際も、Atrustが持つ技術力が不可欠だと判断し、同社との協業に至った。

Atrustが誇る省電力化、小型化技術

AtrustのSophia Lin氏

 Atrust Sales Div. Assistant Vice President Sophia Lin氏は、アセンテックとのRPAの共同開発に至った背景について次のように述べる。「アセンテックから提案のあったRPAのコンセプトは非常に斬新に感じた。弊社はもともとシンクライアントとサーバの開発を長く手掛けてきたが、リモートデスクトップは未知の領域だった。これを機に、リモートデスクトップおよび仮想デスクトップ市場に参画する良いチャンスだと捉えた」(Lin氏)

 同社のシンクライアント製品は、消費電力を極めて低く抑えられることで定評があり、RPAの設計においてもそのノウハウを存分に生かし、各カートリッジ型PCの消費電力と発熱を極めて低く抑えることに成功した。

 また同社は今回、ハードウェアだけでなく専用の管理ツール「ACM(Atrust Chassis Manager)」も併せて開発している。これはRPAのシャシーを複数まとめて一元管理できるもので、シャシーのハードウェアの状態をリモートおよびローカルから取得できるとともに、各PCカートリッジの監視および電源ONとOFFも可能になっている。

スモールスタート可能なデスクトップ環境を安価に実現

 このACMの管理機能を活用すれば、仮想デスクトップの数を増やす場合も単にシャシーを足し、ACMの管理対象とするだけで済む。ハイパーバイザーを使ったVDIのキャパシティーを拡張する際には、場合によっては基盤の設計やサイジングを大幅に見直す必要も出てくる。これに比べれば、はるかに簡単にシステムを拡張できるため、小さな規模から始めて徐々に規模を拡張していくスモールスタート方式の導入が可能になっている。

 万が一ハードウェアトラブルが発生しても、RPAは容易にメンテナンスできるようにさまざまな工夫が凝らされている。カートリッジ型PCは簡単に着脱可能で、シャシーの電源や他のPCの動作を止めることなく、ホットスワップで交換できる。また電源ユニットや冷却用ファンといった他のパーツも同様に、ホットスワップで簡単に交換可能だ。

 ちなみに価格は1ユーザー当たり5万円台(※)の市場提供価格を想定しており、VDIと比べはるかに安価にデスクトップ環境を実現できる。ラックスペース当たりのデスクトップの集約率という点ではわずかに最新のVDI環境に劣るかもしれないが、これまで紹介してきた導入コスト削減効果や運用メリットなどを総合すれば、VDIと比べてTCO(総所有コスト)が劇的に下がることは請け合いだ。

※OSライセンスは含まれない。

 アセンテックではさらに今後、製品サポート体制などを順次強化していき、RPAの価値をさらに高めていきたいとしている。「お客さまにより安心してご利用いただくために、今後はオンサイト保守サービスの提供も考えている。VDIの運用に課題を抱えている大企業から、コストやスキルの面からVDI導入に踏み切れなかった中堅・中小企業まで、あらゆる規模の企業にとってメリットがある。手軽にスモールスタートできるソリューションなので、ぜひ導入を検討いただければと思う」(佐藤氏)

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