目まぐるしく変化する現代のビジネスシーンに追随するためには、IT企業でなくてもアプリケーションを迅速に開発する体制が必要だ。これを実現するクラウドサービスとは。
一般的に業務をスクラッチでシステム化するとなれば、アプリケーション開発に多くの工数が発生する。立ち上げまでの期間やコストも相当な規模になってしまうだろう。これは新たなビジネスを立ち上げる場合に大きなハードルといえる。IaaS(Infrastructure as a Service)やPaaS(Platform as a Service)といったクラウドサービスを活用すれば、システム化のコストや準備期間を短縮できる効果は期待できるが、それでもアプリケーション開発という障壁がなくなるわけではない。
それ故、多くの企業では予算に見合わず、あるいは時間的な余裕のなさから、システム化に踏み切れない既存業務が残っている。例えば業務部門の現場で発生する情報の管理は、「Microsoft Excel」のような表計算ソフトを使って手作業で行っているケースが多い。このようにシステム化されていない状態では、担当者の負担が大きく非効率だ。しかも情報セキュリティやITガバナンス、業務継続などの観点ではマイナスな状況を作ってしまっている。
こうした課題に対し有効な策となるのが、「超高速開発」のできるクラウドサービスである。検証済みのさまざまなソフトウェア部品やモジュールを組み合わせて画面やビジネスロジックを構成することで、ITインフラの構築はもちろん、プログラミングやテストなど工程を効率化し、アプリケーションの実装や検証に要する時間を大幅に圧縮する。
この超高速開発ツールで今回紹介するのが、SCSKの超高速開発基盤「FastAPP」(以下、「FastAPP基盤」)と、そのPaaS版として2016年10月に新たに提供開始した「FastAPPサービス」だ。
FastAPP基盤はSCSKが自社のノウハウを盛り込んで作り上げ、発展させてきたオリジナルの開発・実行環境で、これまでにも豊富な実績がある基盤製品だ。SCSK自身もFastAPPで構築した多彩なアプリケーションを蓄積しており、それを流用すれば、より短期間で業務アプリケーションが利用開始できる。
一方、この基盤をマネージドサービス付きのクラウドサービスとして提供するのがFastAPPサービスだ。FastAPP基盤を利用するには、まずどこかにサーバ環境を整える必要があったが、FastAPPサービスはPaaSなのでそういった準備さえも不要である。FastAPPサービスの稼働状況監視やセキュリティ対策も基本的にSCSKが担うため、運用する上でのユーザーの負担は軽い。
SCSKのソリューション事業部門でシニアITアーキテクトを務める堀井大砂氏は、「実は、FastAPPサービスの提供開始前から、FastAPP基盤をIaaSで稼働させるユーザーが増えていました」と述べる。FastAPP基盤を構築する上で必要なインフラやさまざまな管理の仕組みは、どのユーザーにも共通して毎回同じように発生する。FastAPPサービスでは、そのベースとなるインフラ部分やテナントの制御および運用監視業務をまとめてマネージドサービスとしてクラウドで提供する。また、一般的にクラウドサービスを利用する際は、利用するクラウド特有の知識が求められるが、FastAPPサービスはマネージドサービスのためクラウドごとの知識が不要だ。
さらにFastAPPサービスには開発ライセンスもあり、ユーザー自身がアプリケーションを内製で開発できる。しかも内製化を支援するためのトレーニングやサポート、開発コンサルティングといった各サービスも用意されている。つまりユーザーは、アプリケーション開発のみに注力すればいいというわけだ。
FastAPPの特徴を、SCSKでは「見える要件定義」「作らない開発」と呼んでいる。画面設計にビジネスロジックを組み合わせて開発していくため、エンドユーザーも初期段階からイメージをつかみやすい。それ故、見える要件定義というわけだ。実行するイメージそのままを確認しながらアプリケーションを開発できるので、関係者の合意を取り付けやすい。また、用意されている標準部品と、開発ツールで設定した設計情報に基づいて、実行エンジンが動的に画面を生成・レスポンスする。これが作らない開発だ。しかも仕様書はExcelに自動出力でき、誰かが記述する必要はない。これにより、アプリケーション開発を通じて業務の流れが自動的に可視化されるという副次的な効果も得られる。
結果として、コストや手間をあまり掛けずにシステムをスモールスタートできる。うまくいけばそのスモールスタートしたシステムを長く使うことになるだろう。そうした長期間にわたる活用では、改良を加えながら使っていくことになる。FastAPPならカスタマイズも容易で、外部のプログラムやスクラッチ開発との連係も可能、その都度仕様書を手作業で修正する必要もなく、担当者の引き継ぎも容易にできる。
同社のソリューション事業部門の先進開発部で部長を務める早川 潤氏は、「加えてFastAPPサービスなら、クラウドなのでハードウェアの更新を意識する必要もなく、負荷の変動にも対応しやすいので、長く使い続ける際の負担も軽く済みます」と説明する。
FastAPPサービスは提供開始からまだ日が浅いが、以前から提供されていたFastAPP基盤は、製造、流通、金融、公共など幅広い業界で多くの実績がある。
FastAPPの開発するアプリケーションはWebブラウザから利用するが、そのセキュリティについても、情報処理推進機構(IPA)が示すWebサイトセキュリティ要件に準拠する内容となっている。こうした点が評価され、FastAPP基盤はセキュリティへの要求が厳しい金融系でも広く用いられているとのことだ。
「FastAPPサービスを提供する以前の事例ですが、ある証券会社はパブリッククラウドにFastAPP基盤を実装し、営業の取引実績台帳の管理に用いています。以前はExcelで担当者がマクロなどを駆使して複雑な管理をしていましたが、その方の退職が迫り、急いで引き継ぎをしなければならなかったのです。一般的な開発手法なら半年は必要と見積もられる内容のアプリケーションを、担当者が退職するまでの3カ月で構築し稼働させました」(堀井氏)
このように実績豊富なFastAPP基盤をベースとしたFastAPPサービスも、引き合いは好調という。SCSKではFastAPPサービスがFastAPP基盤を置き換えるものとは考えておらず、ユーザーニーズに応じて使い分ける製品/サービスと位置付けている。
FastAPPサービスは、FastAPP基盤と同じアプリケーションを利用できる。ユーザー企業が望むならハイブリッドクラウド環境も実現可能だ。こうした点もFastAPPの特徴と言えよう。多くの超高速開発ツールはオンプレミス用がメインで、クラウドサービスにまで対応してないものも多い。だがFastAPP基盤/サービスであれば、同じ開発、実行基盤で構築しているので、アプリケーションの移行を担保できる。
FastAPPサービスは「Microsoft Azure」(以下、Azure)のIaaSで稼働している。このため「Active Directory」や「Office 365」、そしてAzureで利用できるERP「SAP S/4HANA on Azure」など、さまざまなシステムやサービスと連係したアプリケーション開発が容易だ。さらにAzureのクラウドデータベース「SQL Database」を活用していることから、SQL Databaseを介して他システムとデータ連係できる点も特筆したい。超高速開発クラウドサービスの中で、このようなRDBMSを直接利用する形態となっているものは数少ないとのことだ。
早川氏は「SQL DatabaseはSQL Serverと同等の機能を実装しつつあります。企業向けのセキュリティ機能はもちろん、ビジネスに役立つ分析機能などが、このSQL Databaseから直接利用できることはメリットです。BI(ビジネスインテリジェンス)やレポーティングに加え、将来的にはビッグデータ分析などにも使っていきたい」と期待する。Azureで稼働するFastAPPサービスは、基幹系システムにも、コミュニケーション系システムにも活用可能だ。そして認証やRDBMSも含め、各方面と連係しやすいサービスとなっている。
もう1つ、Azureで動くFastAPPサービスのメリットに、最小インスタンスが他社のクラウドサービスより小さくできることも挙げられる。これによって、スモールスタートがしやすい価格帯を設定している。FastAPPサービスでは、1ユーザー当たり月額1000円からで、開発、運用するアプリケーション数には制限を設けていない。大きな初期投資を伴わず、素早くシステムを開発したい企業にはうってつけのサービスといえるだろう。
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