「ユーザーの本当のニーズ」を理解し、サービス開発につなげる「デザインシンキング」とは? 都内で開催されたワークショップから新ビジネスを生み出す手法を紹介しよう。
従来のビジネスの枠を打ち破り、社会を変えるサービスを生み出すためには何が必要か。その鍵となるのが「デザインシンキング」だ。2017年4月、東京・品川で日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)の最新技術を紹介する「IBM Watson Summit 2017」が開催された。会場ではデザインシンキングを学ぶための90分間のワークショップが実施され、新しいビジネスを生み出す土壌となる“アジャイル文化”を醸成するための仕組みが伝えられた。本記事では、出会ったばかりの参加者が実践したデザインシンキングワークショップの様子をレポートしよう。
日本IBMのグローバル・ビジネス・サービス事業本部 インタラクティブ・エクスペリエンス事業 デザイナーとして、さまざまなサービスデザインを行う藤枝 久美子氏は、ワークショップの参加者に「2分間で花瓶をデザインしてみてください」と課題を与える。参加者はそれぞれに「花を目立たせるような一輪挿しの花瓶」や「子供心をくすぐるようなかわいい花瓶」を絵に描いて表現した。
その次に藤枝氏はあらためて「“人々が家庭で花を楽しむ方法”をデザインしてみてください」と、ちょっと表現を変えて課題を出す。すると、「妻にプレゼントするのをイメージした花束」や、「家族一人一人に渡せる、組み合わせても楽しめる花のデリバリー」など、体験、シーンが想像できるようなさまざまなアイデアが出てきた。実はここにデザインシンキングの重要なポイントがある。対象のモノを形作るだけでなく、気持ちや体験、時間的な流れなどのイメージを作り、どんな方法でユーザーを喜ばせるかというのが本来のデザインだ。
デザインシンキングは、「誰のためのデザイン?」などを執筆した認知工学の第一人者であるドナルド・ノーマン氏も著作で引用している概念。この概念においては、デザイナーの仕事はユーザーのニーズを理解し、最初は気付かないような「本質的な課題」にマッチした仕組みを作ることにあるとされる。
藤枝氏はそのデザインシンキングの例として、GEヘルスケアによる医療機器、MRI(核磁気共鳴画像法)装置のデザイン例を解説した。MRI装置の物体としてのデザインを作り出したGEヘルスケアのデザイナーは、実際に小児病棟で稼働する状況を見たとき、MRIの大きな音やその構えが、子どもたちに恐怖感を与えていることに初めて気が付いたという。デザイナーは「子どもたち」という、大事なユーザーを見逃していたのだ。
そこでGEヘルスケアはスタンフォード大学のデザインシンキング部隊と協業し、幼稚園、保育園で子どもたちが何に喜ぶかを研究。子どもたちが「冒険」や「ごっこ遊び」が大好きなことに着目し、MRIの機能を変えずに「シナリオ」を付け加えることにした。検査室を宇宙に変え、検査が必要な子どもたちにこれは冒険であり、MRIが発する音は「ワープ航法のときに出る音」などとシナリオの世界観に沿った説明を伝えると、子どもたちは喜んで検査を受けてくれるだけでなく、「また明日も来たい!」とまで言ってくれたという。これは製品の機能を変えずに「体験」を変えるという、デザインシンキングが有効に活用されている好例だ。
「ユーザーのニーズを理解し、多くの人がアイデアを出すことで作るべきかたちを共有し、拡張性のあるプロダクトを早期に作ることが重要」と日本IBMのソフトウェア&システム開発研究所 クラウドテクノロジー 部長の中鹿秀明氏は考えている。「観察」「洞察」「試作」のループを回すことがプロダクトやサービス開発においてのポイントになるといえよう。次ページでは参加者らが行ったデザインシンキングワークショップの内容をお伝えしよう。
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